動き回る死人
街道は朝の光を浴びてすっかり乾いていた。それでも昨日の湿気がのこり、あたりには朝霧がたちこめていた。まっしろな霧の中を、ふたりは歩いていた。
タルカスはぴりぴりと緊張していた。
「どうしたの、タルカスさん」
「こんな天候のとき、よく出るんだ」
「魔物?」
そうだ、とタルカスは答える。ヘロヘロは慌ててパックの肩からバッグに潜り込んだ。
ぴた、とタルカスの歩みがとまった。
「出たぜ!」
むくり……霧の中、地面からなにかの影がゆっくりと姿を持ち上げた。
よろり、よろりとそれらはおぼつかない足取りで近づいてくる。それは人間のように見えた。影はひとりだけでなく、十人以上はいた。
両手を目の見えないもののようにあげ、ずるっ、べちゃっという足音を立て近づいてくる。
タルカスの眉間に皺がきざまれた。
「くそっ! こいつらアンデッドだ! 動き回る死人だ!」
つん、とパックの鼻にきつい腐敗臭がただよった。甘酸っぱい、肉が腐る匂い。
うおっ、とタルカスは叫んで剣をふるった。
ぎゃあ……という叫び声をあげ、近寄った人影がひるんだ。しかしずるずると足を引きずりながら近寄るのはやめない。
「畜生、光がたりねえ! はやく日が高く昇らないと、やつらいつまでも襲ってくるぞ!」
光……。
光……!
どこにそんなものある?
パックもまたタルカスとともに必死に剣をふるっていた。
ずばり! と薙ぎ払い、たしかに手ごたえを感じるのだが、まるでなにも感じないようにその人の形をした影はしつこく襲い掛かってくる。切り払うと、ぼたっぼたっと腐肉が地面にしたたり、臭い匂いの液がふりかかる。手を切り落とそうが、足を突き刺そうがまるで平気だ。
しだいにふたりは疲労のため、腕があがらなくなってきた。
「陽射しはまだか? まだ陽は高くならねえのか!」
タルカスは喚いた。
光……。
光……!
パックは無意識に両手を頭の上に差し上げていた。
目を閉じ、一心にいのる。
それを見てタルカスは叫んだ。
「おい、パック! いったいなにを……」
そのときだった。
差し上げたパックの両手からまばゆい光が爆発した。
うおっ、とタルカスは目を閉じ手で顔をおさえた。
ぎゃあああっ!
まわりを取り囲むアンデッドたちから絶叫がほとばしる。
ひゅうっ、と風がまきおこった。
ばさばさとパックの髪の毛が逆立った。
──。
パックは目を開けた。
霧はあとかたもなく吹き払われていた。
そしてあれほどいたアンデッドの魔物も。地面にかすかに腐肉がしたたった痕跡が残るだけであった。
タルカスはぽかんと口を開け、パックを見ていた。
「すげえ……あんなの、はじめてみた!」
「おれは色んなところで戦いに加わってきた。国と国との戦争のときもあったし、魔物の攻撃から町を守ったこともある。そのとき、一緒に戦った仲間の中で、魔法使いもいたな。そいつらは魔法で戦いをしたが、あんな光の魔法を使ったのは、お前だけだ」
パックは無言で自分の両手を見つめた。
いったいあのとき、どうしてあんなことが出来たのだろう? とにかく、無意識の動作だった。
「さあ魔物たちは追い払ったし、旅を続けるか!」
さばさばとした顔でタルカスは剣を鞘へおさめた。パックがなぜ、あんな魔法を使うことができたのか、気にしてはいないらしい。
歩き出すタルカスのあとをついて、パックも歩き出した。




