前編 「水着姿の女子大生コンビ」
※加純様のイラスト「波打ち際」(https://21092.mitemin.net/i576020/)を、イメージイラストとして使用させて頂きました。加純様、イラスト「波打ち際」の使用を御快諾頂きありがとうございます。
※ ひだまりのねこ様より、王美竜さんのイメージイラスト(https://36584.mitemin.net/i666294/)を頂きました。ひだまりのねこ様、イメージイラストの使用を御快諾頂きありがとうございます。
南海本線の堺駅から程近い大浜公園は堺県内屈指の海水浴場だけど、ここの見所は風光明媚な大浜海岸だけじゃないんだ。
公会堂や野球場もあるから、音楽鑑賞やスポーツ観戦が趣味の人も楽しめるよ。
その上、大正期のモダンな建築様式で県の重要文化財に指定された堺水族館や、少女歌劇の大劇場まであるんだから、一年を通じて人気らしいの。
これまた大正ロマンの趣に満ちた大浜潮湯の本館で水着に着替えれば、そこは正に真夏の楽園。
砂浜に寄せる波は穏やかで、照りつける夏の日差しも心地良い。
まさしく絶好のバカンス日和だね。
台湾で生まれ育った私が日本へ留学して初めて迎える夏休みは、幸先の良いスタートを切れたみたい。
それもこれも、留学先の堺県立大学で出来たゼミ友の蒲生希望さんが誘ってくれたからだよ。
「誘ってくれてありがとう、蒲生さん!ここって便利だよね。水族館でダイナミックなイルカショーを楽しんだら、即座に泳ぎに行けるんだから!」
「どういたしまして、美竜さん。台南育ちの王美竜さんに大浜海岸をお気に召して頂けるとは、堺っ子の私としても鼻高々だよ。」
明るい茶髪を揺らすと、ゼミ友の女子大生は誇らしげに胸を張ったんだ。
紺のセパレート水着に覆われた、形の良い胸をね。
「う~ん…どうもなぁ…」
「ん…どうしたの、美竜さん?」
私の視線に気付いた蒲生さんは、訝しそうに小首を傾げたんだ。
「私も蒲生さんみたいな水着の方が良かったかなぁ。だって蒲生さんが私に選んでくれた水着、こんなのだよ!」
パッと両手を広げた私は、燦々と輝く太陽の下に自分の肢体をさらしたの。
私の白い柔肌を覆うオレンジ色の水着は、上下に分かれている点では蒲生さんのと一致していた。
だけど蒲生さんのスポーティーな紺色のセパレートに対し、私の水着は派手なビキニだったの。
ブラにあしらわれた白いフリフリは可愛いけど、胸元が大きく開いて谷間が強調されるし、ホルターネックで背中は丸見え。
履き込みの浅いボトムは両側が紐になっていて、いわゆるタイサイドビキニってデザインなの。
予想以上に派手なデザインだから、堺東の高鳥屋で試着した時には驚いたよ。
「蒲生さんのに比べて、私の水着って大胆じゃないかな?」
「良いじゃない、似合ってんだから!美竜さんって割と良い身体してんだから、ケチ臭い事は言いっこ無し!」
褒められて悪い気はしないよ、蒲生さん。
「その括れたウェストに可愛く凹んだおヘソも、見事な谷間が出来た形のいい胸元も…遠慮せずにドシドシ見せてこうよ。」
とはいえ私は、別にケチってる訳じゃないんだよなぁ…
「それに全く同じデザインだと、美竜さんとペアルックになっちゃうじゃない…」
声のトーンを落とした蒲生さんの、小さな呟き。
これには私も納得だよ。
「ああ、確かに!ビーチスポーツの選手に見られちゃうかも!」
確かに蒲生さんのセパレート水着は、スポーティーなデザインだからね。
私も紺色のセパレートを着ていたら、ビーチバレーかビーチテニスの女子選手と間違えられちゃうかも。
それで飛んできたボールを受け損なったら、もう赤っ恥だもん。
「う、うん…まあ、何というかね、美竜さん…」
「ん?どうしたの、蒲生さん?」
軽口へのレスポンスが鈍いと思って振り向くと、私を見る蒲生さんの顔が妙に赤かったんだ。
日焼け止めはキチンと塗っていたし、茹だるには早過ぎると思うんだけど…
「ううん!何でもないよ、美竜さん!ほら、煌めく浜辺が私達を待ってるから!」
「わわっ!引っ張んないでよ、蒲生さん!」
取り繕ったような快活さが妙に空回りする蒲生さんに手を引かれて、私達の海遊びは幕を開けたんだ。
ビーチボールで遊んだり、波打ち際でパシャパシャやったり、それから遊覧用の水上飛行機が空に描く軌跡をボーっと眺めたり。
ファミリー向けの海水浴場でユル~く遊ぶのも、なかなか良いもんだね。
普通の公園で女子大生が砂遊びをしたら物笑いの種だけど、海水浴場の砂浜なら違和感なし。
これも夏の開放感の為せる業かな。
南国生まれの私としては、やっぱり夏は海なんだよね。
「あっ!綺麗な巻貝、見~つけたっと!」
そうして砂山作りに興じる私達だけど、蒲生さんは掘り出した巻貝を手にして立ち上がったんだ。
「こうして貝を耳に当てると、波の音がするよ。」
形の良い耳に螺旋型の巻貝を当て、軽く目を伏せる蒲生さん。
その乙女チックな姿は妙に大人っぽくて、なかなか様になっていたんだ。
「あっ、良いな!私もやってみよ!」
お誂え向きに、大きめの巻貝が転がっているよ。
蒲生さんに倣って立ち上がり、目を閉じて貝を耳に当ててみるの。
どんな音がするのかな…
「ん?」
次の瞬間、モソッという音と共に、何かが耳たぶに当たったんだ。
「ヒッ?!中に何か入ってる!」
ビックリした私は螺旋型の巻貝を放り出し、勢い余って転んじゃったの。
「うわわ…きゃあっ!」
そうして先程まで作っていた砂山に、尻餅ついて倒れ込んでしまったんだ。
「痛ってて…ヒャッ!?おおっと!」
砂を払って上体を起こしたら、大胆な開脚姿勢で座り込んでいた事に気付いて、随分と気まずかったよ。
「美竜さん…これってヤドカリだよ。」
苦笑しながら見下ろす蒲生さんに突きつけられた、螺旋型の巻貝。
その中にいたのは、ハサミを持った小さなヤドカリだったの。
「ヤ、ヤドカリ…?」
こんな小動物に驚いてるんじゃ、全く情けないよ。
「見て、ママ!あのお姉ちゃん、お尻で砂山を壊してるよ。」
「こらっ!駄目でしょ、玉緒ちゃん!指さして笑っちゃいけません!」
オマケに幼稚園位の子にも指差して笑われちゃうんだから、惨めだったなぁ…