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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ある青年の恋心の行方は

作者: 花衣

「本日はここまでです。明日の講義は忘れずに……」



 つい先程まで教授の声だけが響いていた静かな教室は、終わりの合図を告げると同時に教授の声がBGMと化した。友人と話す者や次の講義に向けて移動を始める者、バイトに向かう者と様々だ。この大学の生徒である四季春臣(しきはるおみ)は授業の片づけをし、バイトに向かう。

 春臣のバイト先は大学から徒歩10分の古書店。古書が痛まないように日が当たらない立地にあるため、午後3時を過ぎても薄暗い。しかし春臣にとってこの場所は、日常生活におけるストレスを癒すためのオアシスである。店主の(推定)70歳の佐々木と他愛のない話をし、古書の手入れやたまに来る客の相手をする。一通り掃除や手入れが終われば、大学の課題をやってもいい。この時給950円のバイトをとても気に入っている。



「四季くん、今日はなんの課題をしているんだい?」

「今日はゼミの課題です。明日提出するやつなんですけどすっかり忘れてて。」

「しっかり者の四季くんでも忘れる事なんてあるんだね。」



 佐々木がマグカップを春臣に渡す。こだわりのブレンドで入れたコーヒーだ。豆を取寄せ自ら挽き、ドリップして入れたコーヒーは絶品である。カップを受取り、課題は終わりにしようとノートを閉じた。香ばしいコーヒーのかおりで店内が満たされ、ちびちび飲む暖かいコーヒーが体に染み渡る。







「さて、今日はここらで店仕舞いにしようかね。」

「今日は早いですね、なにかご予定でもあるんですか?」

「妻とデートをしようと思ってね。クリスマスのプレゼントを買いに行くんだよ。」

「仲が良くてすごく羨ましいです。」

「四季くんにも想い人は現れるよ、大丈夫。」



 柔らかく笑う佐々木につられ春臣も思わずほほが緩む。夫婦仲の良い佐々木は度々店を早く閉め、妻と食事に行ったりする。その度に春臣は素直に羨ましいと思う。自分の恋愛対象に気づいてから恋は叶わないものだと思っているところがある為、好きになっては恋心に鍵をかけ、いい友人でいることに徹底している。


 時刻は午後6時、ここから春臣が住んでいるアパートまではバスで10分。いつもより早く終わったからと歩いて帰ることにした。季節は12月半ば、厚手のコートにマフラー、手袋を身にまとい完全武装で街中を歩く。世の中はあと1週間でクリスマス、街はクリスマス一色ですれ違うカップルは皆幸せそうな表情をしている。



「はぁ、今年もひとりか……いや、奈々美がいるのか?」



 周りの幸せなオーラに当てられ、思わず呟いた言葉は周りの騒音によって掻き消される。昨年はお互い恋人がいないと言う理由で従姉妹の奈々美とクリスマスを過ごし、翌日一緒に実家へと帰った。春臣には兄がいて今は関西の方で働いているため、正月にしか会う機会が無い。6つも歳が離れている弟を溺愛しており、自分より強く、頼れる男ではないと弟はやれない!とつくづく言っている。昨年も酔った状態で春臣に絡み、弟の一人暮らしがどれだけ心配か、なぜ関西に来なかったとうるさかったのである。

 そんなことを思い出しながら道を歩いていると前から歩いてきた人とぶつかり、その拍子に持っていたトートバッグを落とし中身が散らばった。



「あ、すみません、ぼーっとしてました!」

「いや、わたしも余所見をしていたから、申し訳ない。けがはしていませんか?」

「ないので、大丈夫です。」



 ぶつかった相手は身長の高い男性で、顔は見えないが雰囲気は優しそうだ。散らばった荷物を拾ってもらい立ち上る。お礼を言おうと顔を上げた。ライトに照らされた顔があまりにも綺麗で、目が合ったとたんに言葉を失った。



「っ、あ、ありがとうございました!荷物も拾ってもらって、助かりました。」

「いいですよ、これくらいの事なんてことないですよ。」

「かっこいい……あっな、なんでもないです!本当にありがとうございました!」



 その男性の顔の作りや髪形、体系、声に到るまで春臣の好みそのもので思わず呟いてしまった言葉をごまかし、その場から立ち去った。胸の高鳴りを抑えようと深呼吸をするが、頭の中には男性の顔が浮かび、香水の匂いを思い出す。どこの誰かも知らないのに、一瞬で恋に落ちてしまった。もう一度会いたいと思ってしまう、しかしもう会うこともない。春臣は久しぶりの感情にそっと鍵をかけた。






「行っちゃった……あれ、しまったな、まだあった。学生証?……四季春臣くん、か。可愛い子だったな。」



呟いた声は冬の空に溶けていった。


読んで下さりありがとうございました。書きなぐって終わらせてしまいましたが、久しぶりにこのジャンルが書けたのでちょっと満足。続きが書けるのかは私の仕事の進み具合と、創作意欲の度合いで決まります。師走はしんどい。

以下、あまり必要のない登場人物の紹介です。


四季シキ 春臣ハルオミ 20歳

身長175cm 大学生(天文学) 6つ上の兄がいる。関西で就職している。

現在一人暮らし。実家は新幹線で3時間の田舎。

色白で艶のある黒髪。爽やかマッシュヘア。右目尻にホクロがある。

大学→バイト→家のサイクル。友達は少なめ。家事が壊滅的な為、近くに住んでいる従姉妹に定期的に来て世話をしてもらっている。将来が心配。

ゲイだが、知っているのは家族と従姉妹のみ。恋はするが、脈無で恋人を作ることを諦めている。ピュア童貞である。


山之内ヤマノウチ カオル 30歳

身長187cm 会社員

一人暮らしのサラリーマン。姉が3人いる。

どこかの国のハーフで、茶髪のツーブロック、ヘーゼル色の瞳。イケメン。交友関係が広く芸能人の友人もいるらしい。

容姿のおかげで恋人は絶えたことはないが、本気の恋はした事がない。男女どちらもイケる。来るもの拒まず、去るもの追わず精神。今回は名前を出してもらえなかったキーパーソン。


四季 奈々シキ ナナミ 20歳

大学生。一人っ子。春臣の家から徒歩5分の所に一人暮らしをしている。親の頼みで春臣の家を定期的に訪れては掃除等をしお小遣いを稼いでいる。外見はイマドキの女子大生。

奈々美にとって春臣は手間のかかる弟。春臣の性癖を理解している為、たまに相談にのる。


四季シキ 夏哉ナツヤ 26歳

春臣の兄。関西でサラリーマンをしている。現在彼女がいて将来的には結婚を考えている。

年の離れた弟を溺愛しており、いずれパートナーになる男は自分よりも強くないと認めないと言っている。


佐々木 70歳

春臣がバイトをする「みはる書店」の店主。優しく、穏やかなお爺さん。奥さんの事を愛しいている為、月に数回店を早く閉める。

コーヒーを淹れるのが趣味で、こだわりが強い。

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