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第80話 俺はアホだけど、自分をアホであると自覚している方のアホ

『おのれ、我が臣下を!』


 イヴァルがブレードを振るう。銃道の応用なのだろう。矢継ぎ早に繰り出される高密度の光刃は突きを主としており、その刺突は小型機動要塞を槍衾にせんと点描で面制圧していた。もはや、突きの津波だ。ゼルヴェルアの光線やミサイルが迫った時には引き、そして途切れた瞬間に襲いかかる。


『イヴァル殿下、お下がりください! ここは自分が!』


 今度はエイジだ。閃光もかくや、宙域に境界線を瞬く間に描き、エイジが定めた線に従って万象が切り裂かれる。銀光の勇者の名にふさわしい色に染まったシルヴァリオンの光が尾を引いている。速度は先ほどまでと段違いだ。シルヴァリオンに搭載されている《《あのシステム》》が稼働しているのだろう。


 無数の刺突による津波と万物を破断する流星。この怪物二人によって、巨人殺し(ジャイアントキリング)が成立しようとしていた。


『消えろォォォ!』

『塵と化せ』


 両者の超至近距離からの攻撃に、小回りの利かないヴァーゲンブルグはなかなか対応できない。だが、全く対応できないというわけではない。ホーミングミサイルが背面から放たれた。フレアが効かないミサイル――『銀光の勇者シルヴァリオ・エイジ』で当てはまるものがあるとするなら……。


 あれは――脳波とAI補助で誘導する、フーシュリアだ! 脳波制御はあくまで方針を誘導するのみ。あとはAIが勝手にその方針にしたがって、ミサイルを推進力や爆破のベクトルさえも御しながら確実に操縦するというトンデモ兵器だ。あれなら、ヴァーゲンブルグ本体に傷を付けずにカトンボを始末できる。なにせ、爆炎の方向性さえも指定できるのだ。それどころか必要なら爆発を起こさずに、ミサイルを質量兵器化させることさえ可能な代物だ。


 取り付いていたゼルヴェルアから離れざるを得ないシルヴァリオンとノスフェラトゥ。しかし、怒りと義憤に燃えている二人は、異常な追尾性を誇るそれらを遮二無二に引き離し、更に銃火器で撃ち落としにかかる。二機のキャバリーのスラスターの軌跡を辿るように、爆発の花が咲いていく。


 同時にフーシュリアを振り切った二人は再びゼルヴェルアへと接近し、危険な舞踏を踊り続ける。


『余の見込んだ者を殺した罪、そなたの生命で償え!』

『これ以上させるものか!』


 音声通信がオープンになっているせいか、二人の声が俺の鼓膜を震わせる。


 ――でも、まあ俺……生きているんですけどね。


 あの時、咄嗟にビームライフルの銃爪を引かせつつ、キャバリー・セントロの左腕を切断したのだ。ビームの熱源というわかりやすい目標を与えられた隙。それに、運が良いことに旋回が間に合わないであろうタイミングだったとみえ、フーシュリアは左腕をキャバリー本体と誤認、炸裂したのだ。更に幸運だったのは、ちょうどデブリ帯の近くだったこともあり、俺はうまい具合に機体を隠すことができた。ラッキーだ。まあ、これくらいはいいことがなけりゃやってけないけどね。


 さて、ではこれで俺はおさらばを決め込もう。今なら逃げ切れるはず……。


『ザ……ザザッ……リベ……さ……リベル様、応答してください。リベル様』


 おお、諸悪の根源であらせられる唯桜(いお)えもんじゃないか。


「唯桜えも~ん、怖かったよ~。もう帰る!」


 この状況を生み出したのも唯桜なのだが、しかし彼女がいないと俺がおうちに帰れない。下手に出るしかないのだ。


『ご安心ください。今から、そちらの座標へと新しいキャバリーを打ち出します。宙空受領してください』

「は?」


 何を言っているのだろう、この骨董機械メイド人形は?


「ごめん、何言ってるかわからない。ちょっと待って、震えが止まらない」

『なにをサブカルチャーにどっぷりハマった女子のような、不自然なセリフを言っているのですか。いいですか。リベル様好みにカスタムしたキャバリー・セントロをそちらに打ち出しました。うまく掴まえてくださいね』


 う~ん、やはりわからない。なんで、うまく逃げ出せそうな状態で、わざわざキャバリーを受け取らないといけないのか。そんな目立つ行為なんかしたら、間違いなくあの化け物どもに見つかる。


『あの兵器を倒さないとお姉さん許しませんからね! さっさと倒してきなさい!』


 やだ~~~! なんてこと口走っているんだ、このアマ。


「やだ~~~! なんてこと口走っているんだ、このアマ」

『……リベル様のお気持ちはよぉ~くわかりました……』


 ハッ、心の声が口からまろび出ていた!


『残り二〇秒。さあ、オープンコンバットですよ!』


 なんか、セントロのレーダーに飛翔体反応が現れた。きっと、あの化け物どもも感知しているに違いない。うわっ、こっち向いたぞ!


『生きていたか、流石余の眼鏡にかなっただけはある!』

「へへっ、なんとか生き残りまして……」


 なんか、イヴァルが嬉しそうだが、俺は全然嬉しくない。


『ん? 救援物資か? 誰の差し金かはわからないが……君! 中身はキャバリーのようだ。自分が囮になるから、受け取ってくれ』


 エイジが無茶を言う。簡単に言うが、あんな行為は主人公かマジもんのライバルしかできない芸当だ。俺のような中身社畜には無理。


『ハハハ、良かったな連邦の新兵器。余は機嫌がいい。嬲り殺しにせず、一息で仕留めてやるから光栄に思え』


 頭の極まったことを抜かす皇子。こえぇ……。


 とりあえず、あのキャバリーを受け取るしかないのだろうか。俺は、コンテナと並走する形でセントロを動かした。


 キャバリーの入ったコンテナが戦域を横切る。だが、ヴァーゲンブルグが見逃す手はない。例のフーシュリアが空間を趨り、獲物へと向けてサメの獰猛さで喰らいつく。爆発。宇宙に咲いた大輪の花は、フーシュリアの爆裂がキャバリーの炉心へと届いた証拠だ。


 戦闘中に機体の受け取りなんて馬鹿げた行為であるという、いい見本だ。


 当然、俺はそんなことしない。


「あっぶね~! 死ね死ねぇ!」


 俺はセントロから出ていなかった。むしろ、フーシュリアが視えた瞬間に逆噴射して離れたくらいだ。絶対に狙われるのは目に見えていたからな! 俺はアホだけど、自分をアホであると自覚している方のアホなのだ。


 右腕のメイサーランチャーを撃ちまくる俺。けど、俺は忘れていた。こいつにメイサー兵器は効かなかった事実に。


 虹色の障壁に阻まれたメイサーの熱戦。しかし、ゼルヴェルアが俺に注目していたら、化け物二人が黙ってみているはずもなく。


「あれ?」


 引き時と悟ったのか、ゼルヴェルアはさっさと宙域を離脱していた。巨体とはいえ、流石に推進機を幾つもつけている機動要塞なだけあって、加速力と巡航速度は凄い。あっという間に射程外へと飛び去ってしまった。



 * * *



「させると思うのか? 甘い考えは……!」


 ゼルヴェルアのコクピットに座るライダーの声は、本人以外の誰にも届いていない。


 届けられた無傷のキャバリー。銀色の機体や帝国の吸血鬼が撃ち落とさせじと牽制してきていたが、既に織り込み済み。わかっていたこと故に、狙いを外すわけもない。確かに、戦闘宙域での機体受領など常識を疑う行為ではあるが、決して不可能ではない。卓越したライダーならばやってのけるだろう、と連邦のライダーは感じていた。


 だからこそ、彼はコンテナを狙ったのだ。しかし、彼の頭に描いた未来絵図は容易く否定された。


「キャバリーを囮にした? 魔王の手並み、こうも予想から外してくるか!」


 フーシュリアがコンテナを破壊するも、魔王は既に爆発圏内から距離を取っていた。タイミングも巧みだ。フーシュリアを撃ち出し、着弾するまでの僅かな時間――それを弁えているかのような動きだった。


「流石ということか」


 もはや、この戦いを継続する意味はない。見定めさせてもらった。ライダーはすぐさま、一切の躊躇なくゼルヴェルアを反転させた。

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