第72話 次は魔王軍結成? いやいや、俺は別に叛旗を翻したいわけじゃない
いきなり手を引っ張られた俺は、唯桜に暗がりへと連れ込まれた。
「あの、唯桜さん? 一体、なんのご用で……?」
甘ったるい雰囲気などない。唯桜はいつもの澄まし顔であるが、その眼差しに少々真剣な雰囲気が漂っている気もする。
「リベル様、お怪我などはありませんか?」
「ないよ」
実際、怪我などない。そりゃあ、ピースメーカー・バントラインスペシャルと事を構えたんだから、怪我どころか死んでいてもおかしくないのだが、なんとか無傷だ。運が良かったとして言いようがない。
「安心しました」
安堵のため息をつく唯桜。いつも俺を千尋の谷へと叩き落としているくせに、今日はなんか心配性だ。
「運が良かったんだ。でなきゃ、今頃……」
もし、ピースメーカー・バントラインスペシャルにやられていたら――と思うと、ゾッとする。あいつのレーザービーム(正式名称は知らん)を浴びた瞬間、人体は熔けてしまうだろう。ぴゃあああああああああ! 絶対やだ!
「リベル様?」
怖ろしい想像をしてしまいフリーズした俺を見て、唯桜が首をかしげる。かわいい。
「そういえば、リベル様は私の背を追い越されたのですね。こうしていると実感します」
リベル・リヴァイ・バントラインは高身長のイケメンなので、タッパだけはあるのだ。すくすくと育ったからな! 大和民族だった頃の身長はとうに追い越している。遺伝子は残酷だね。
「そ、そうだな」
なんか、今日の唯桜は様子がおかしい気がする。
「唯桜、なんか変だぞ。おかしなモノでも食ったか?」
「失礼な。そもそも、私は機械人形。食事は必要ないことはご存知でしょう?」
物の例えに気づいていない。これはおかしい。オーバーヒートでもしたか?
「……熱くはない、かな」
「リベル様。なにをなさっているのです?」
額と額を合わせても、熱っぽくはない。むしろ、少しひんやりしている。どういう素材なのかはわからないが、唯桜の肌は人のそれと変わらない感触で、しかも滑らかさにおいてはそれ以上だった。
「いや、熱でもあるのかなぁ……と。熱暴走とかしていたら大変だ」
「…………なるほど。ですが、構造自体が異なる私の表面温度を曖昧な人の触感で計るのは、些か乱暴ではないでしょうか」
「そうなのか?」
馬鹿な、ママンや前世の母親もこうしていたぞ!
「そうなのです。いいですか、私は人間のお側に仕えるために設計されています。したがって、人間が不快感を抱かないよう留意されているということです。体温についても同様です。内部で多少温度が上昇しようとも、表面温度には出ないような加工がされているのです」
「つまり?」
「人間のように体温を計っても何もわからないということです」
よくわからんが、そういうことらしい。
「まあ、いいや。それで、唯桜えもんはなんでこんなところに連れてきたんだ?」
「まずはリベル様のお体に不調はないか、そして……魔王様の次の目的です」
「………………………………………………は?」
ちょっと待て。俺はさっきまで魔王の仮面をかぶらされて、死にかけたのだ。何を言っているのだ、このメイドは。
「唯桜さんや。俺は、魔王の扮装で、さっきまでキミが心配するような相手と戦って、なんとかかんとか生き延びて、あの怖ろしいエイジに不意打ち気味だけど勝ってきたのだよ? そんな俺に、まだ何かを求めるのかね? 魔王活動、頑張ったじゃないか」
正確には頑張らないと死にかねないから頑張っただけであり、魔王としての活動を認めたわけではないけど。
「あんなの、リクリエーションです。ちょっとした催し物です。あくまで魔王その人としての活動ではないので、魔王活動の一部と認めるわけにはいきません」
「はぁぁぁぁぁあああ⁉ マジで言ってるの、あんた‼」
信じられない。主を窮地に追いやって、リクリエーションとか……!
「改善だ! 改善を要求する!」
「リベル様、お母君の夢を壊すおつもりですか?」
「ママンがこんな大それた夢を息子に託していてたまるか!」
「チッ……。わかりました。では、夜水景と一緒に自首しましょう。運が良ければ死刑は免れるかもしれません」
おいおい、コイツ今舌打ちしたぞ。ん? 死刑?
「唯桜さん? なんで死刑になるの?」
「え? 魔王はもはや反体制の旗標ですよ? あんなカッコいい宣言をしておいてしらばくれるのですか?」
「え?」
「え?」
宣言なんかしたか? むぅ、記憶が曖昧だ。魔王活動をしているときは社畜モードに入っていることが多いからか、あんまり記憶に残っていないんだよなぁ。
「とにかく、次の目標はこれです。ドン!」
何処からともなく取り出したフリップ。
「なになに……。魔王軍結成への道のり――なんだこれ?」
「いくらなんでも、銀河帝国という巨象の前ではリベル様はぎょう虫――もとい、アリ程度の影響力もありません」
こいつ、ひょっとして俺のこと嫌いなのか?
「しかし、巨象といえども、アリの大群を相手にすると倒せます。アリの大群、つまりは魔王の軍勢を結成するのです!」
「はぁ……」
燃えている唯桜。とはいっても、表情はすまし顔である。あんまり表情変わらないんだよな、いおって。
「名付けて、リライズス!」
「‼ やめろ! それだけはやめろ!」
唯桜を制止する俺。なんて名前を使おうという気だ、怖ろしい。ホント、怖すぎるよこのメイド。
「なんでですか! いい名前じゃないですか。圧政に沈んでいた者たちが再び浮上する――銀河帝国に叛旗を翻すにあたって、コレ以上の名前がありますか⁉」
「わかった認めよう。でも、その名前だけは却下だ。却下させてくれ」
俺が頑なに拒む理由、それは――このリライズスという組織名が『銀光の勇者シルヴァリオ・エイジ』で本当に魔王の組織として登場していた名前だったからだ。こんな名前を冠してしまえば、俺が魔王ともはや既成事実と化してしまう。
「どうしましょうか。では、叛逆者という意味でリベリオンにしましょうか」
「それでいい、それにしよう」
なんか引っかかる名前だが、如何にも魔王魔王した名前よりはマシだ。
「さて、次の魔王活動です。人材確保と教育その他諸々……。腕が鳴りますね」
「鳴らないしやりたくない」
「わがままを言わないでください」
本心からの返答はむべもなく切り捨てられるのであった。
「これってわがまま? 唯桜のわがままの定義って何? 大体、なんで俺が魔王なんてやらなきゃいけないんだ! ビェェエエエエエエエエエエ!!!!」
俺の叫びは空に溶けるばかりで、誰も答えてくれなかった。
アヒャヒャ(●´∀`●´∀`●´∀`●´∀`●)アヒャヒャ
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