第69話 そんなことある? 乱入者は後半ライバル機!
俺は! 俺はッ! 知っている……。このキャバリーを知っているッ!
『ピースメーカー⁉』
俺は――魔王は思わず、そのキャバリーの名を叫んでいた。
待て、待て待て待て待て! 先ほどの眠気から白昼夢かと疑いたくなるが、どうやら現実らしい。少なくとも、眼が完全に覚めた。
こいつは――まだ完成すらしていないはずだ。何故、ここにこいつがいる⁉
ピースメーカー……。この名は、銀河帝国では特別な意味を持つ。
ヴァルドルフ・マキナ・ピースメーカー。そして、イヴァル・アルフォンヌ・ピースメーカー。両者の名に刻まれたそれが意味するものは、銀河帝国皇族――それも、皇帝本人と皇子皇女である。つまり、銀河に版図を拡げた帝国を手にする資格を持ち合わせている者である。
そして、俺の眼の前で悠然と支配者の威風を漂わせているキャバリーに名付けられた名前。
機体色こそ少々異なるものの、中身に違いはないはずだ。この、本来ありえない機体が何故――。
『君は誰だッ⁉ どうして乱入してきた!』
疑問を闖入者へと叩きつけるエイジだが、ピースメーカーのライダーは答えない。空防は黒く、どんな人物が操縦席に座っているのかも不明だ。操縦者の身元を隠す装備が施されているんだと思う。おそらく、覗き込んだところで、確かな情報は得られない。軍用ならともかく、このディスケンスに不要な操縦者欺瞞解除は未搭載だろう。
『――――』
はたして、ピースメーカーは沈黙を保ったまま。如何なる疑問も受け付けないと言わんばかりに、貝よろしく口を閉ざしている。その不気味さたるや、本物の魔王じみていた。
ピースメーカーが出し抜けに動く。金色のマニピュレータの掌を、俺とエイジに向けた。あくまで弛く、気負いのない仕草だが、俺はその恐ろしさを理解していた。
『エイジ、避けろ!』
反射的にディスケンスを動かすと間一髪、先ほどまで俺のいた場所向けて光線が迸った。顕れた時の奔流とは異なり、針のような光線はそのまま地面を貫いた。ぞっとしながら見れば、その穴がキラキラと光っている。
超高温の光速の針。おそろしい。俺が避けられたのは、このピースメーカーの武装を知っていたからだ。
掌に仕掛けられたレンズは発振器だ。そう、夜水景にあるものと同じ――しかし、収束度と威力は上をいっていることだろう。本来ならば、数年先を行く技術で支えられているのだから。
『魔王、何故僕を助ける?』
なにか見当違いなことをのたまうエイジ。
『勘違いするな。お前などどうでもいい』
俺としてはエイジは亡き者になってくれたほうがいい。ただ、勝手に俺の口から警告がまろび出ただけだ。多分、目覚めが悪いと感じた俺の脳が、俺の意思を無視しただけだ。多分。
『それより、こいつをどうするか……だ』
『そうだな。こっちの武器はなし。肉弾戦くらいしか、まともに出来ないときている』
エイジの言う通りだ。俺たちのディスケンスの兵装はあくまで演習用装備でしかない。安全な訓練用の――いわばリクリエーションでしかない。
――そう考えると、イデの野郎……装備とか本物使っていたよな。よくもまあ、死ななかったもんだな。俺。
あのスパルタ教育の日々が脳裏をよぎった。あの鬼教官はレオニダス王なの? 100万もの敵と300人ぽっちで戦う気なの?
怖気が走る。過酷すぎるだろ。ママンはあのこと知っていたのだろうか。いや、あのイデの奴はママンを狙っていた。絶対に狙っていた。俺は詳しいんだ。
ちょっと現実逃避しかけている頭脳。しかし、現実はなんにも変わっちゃいない。
『ならば、格闘戦しかあるまい!』
幸い、俺は煙幕弾を持っていた。しかも、ノーモーションで使えるようにラックの蓋に引っ掛けておいて、腕を振るとそのまま白煙が飛び出すように仕掛けていた。
本来はなんとかエイジの猛攻から身を守るためのものだったが、この際仕方がない。俺の平穏のためだ。
転げ落ちた煙幕弾から爆発的に煙が上がる。もうもうというより、バッって感じだ。
エイジなら合わせられるはずだ。あいつはなんたって主人公サマだ。世界が与えてくれる主人公補正ならば、正にこれくらいの窮地、これくらいの機転、何ほどでもないだろう。
実際に、我らが主人公サマは一気にピースメーカーへと駆け出すと、そのままブレードを叩きつけた。当然、ただの演習用だ。本来は装甲を突破できるほどの威力など望めないのだが、それは普通に使った場合だ。
エイジの場合、鈍器で殴るような勢いで繰り出したのだ。砕けるブレード。ピースメーカーの装甲はビクともしなかったが、しかし姿勢を崩すことには成功した。
――よっしゃ。
俺は、生じた隙を狙って、ディスケンスを取り付かせる。
エイジはどうか知らないが、俺は知っている。このピースメーカーは意外に格闘戦は苦手だ。中・遠距離ならば怖ろしい強さを誇るが、基本的に遠距離兵装に重きを置かれており、近接戦兵装は持ってはいない。
そして、キャバリーとしての躯体出力もさほど高くない。情報戦、銃撃戦と比較してお粗末なのは、ピースメーカーという機体が一から十まで〝ある個人〟に合わせて建造されているからだ。
――つまり、そこを突けば勝つる!
にわか仕込みの関節技は、以前にイデ教官にスパルタ的に叩き込まれたものだ。武器がなくとも闘えるのはありがたいが、関節技という性質上、対するキャバリーやリミテッド・マヌーバーの機体バランスを考慮する必要がある。
ロボットは人間のように、ある程度決まった形をしているわけではないのだ。同じ人型に見えても、関節の種類や付き方、腕や脚の長さなど千差万別。それを念頭に入れて技を組み立てなければならない。
俺? 俺がそんな器用なことできるわけがない。
俺は、ぶっつけ本番。勘でやるしかない。
ピースメーカーが羽虫を払うように振り回した腕を避けながら、こちらの腕を絡ませる。続いて、脚を絡め取り、腰に膝を押し当てる。残る手で顎を上げさせる。
自然、俺のディスケンスはピースメーカーの後ろに回って、がっちりとホールドしていた。即興の関節技にしてはうまくいったな。
『こんな対キャバリー技始めてみた……。なんて技なんだ?』
エイジが感心したようにこぼす。馬鹿か、魔王に聞くな! とはいえ、聞かれた以上、俺もなにか考えなければ……。
えっと、えと――
『う、後ろ……反り?』
出たのは、限りなくダサい技名だった。ええい、技名なんてどうでもいいんだ! 敵が困ればそれでいい!
力を込めようとしたが、俺が名前をひねり出していた時に、若干ホールドが弛んでいたらしい。ピースメーカーが後ろ反りをほどき、宙空へと踊り出す。あ、コラ! 逃げるな! じっとしていろ!
一気に上昇したピースメーカーは、俺たちの手に届かない場所で止まった。
まずいよまずいよ。あんなところに浮かばれたら、狙い撃ちもいいところだよ~。やだ~! 助けて、唯桜えも~~ん‼
だが、ピースメーカーは眼下の俺たちを睥睨した後、再び上昇を開始、青空に煌めく星となって消えた。
『なんだったんだ、あれ……』
エイジのつぶやき。
俺はあいつを知っている。ピースメーカー。それは銀河帝国皇帝の玉座であり、乗機に与えられる名。
俺はあいつを知っている。正式名称、ピースメーカー・バントラインスペシャル。『銀光の勇者シルヴァリオ・エイジ』の後半に現れた――
――魔王の機体。
ウヒャヒャヒャヒャ!!
皆さんの応援によって、この小説は成り立っています
評価、コメントよろしくお願いします!
なぁに、全然痛くないから安心だよ~?
(゜Д゜)≡゜д゜)、、




