第92録 驚くバルドレイさんと謎の密偵
前回のあらすじ
・情報伝達の大切さ
・それぞれ別行動
今回はバルドレイさんに飛竜の亡骸を見せます。
「……この辺りでいいと思いますよ」
「うん? なにがだね? 全くと言っていいほどなにもないが、本当に飛竜の亡骸がここにあると、そういうつもりかな?」
野営地から少しだけ離れた場所にやって来た俺達。
平地で障害物もあまりなく、ここなら亡骸を出しても問題ないだろう。
バルドレイさんもちょっとばかりイライラしているようだし、さっさと物を見せて落ち着いてもらうとしよう。
「じゃあいきますね」
「頼みます」
シャルロッテさんに確認を取った後、俺は【ストレージ】から亡骸を取り出した。
太陽も沈み、すっかり暗くなってしまった野営地の外に、突如として飛竜の巨体が音もなく現れる。
「……な……な……」
「バルドレイ様!」
「御下がり下さい!」
いきなり目の前に出現した大質量に、バルドレイさんは目を見開いて驚き、供の兵士二人は前に出て彼を守ろうとする。
まぁ、急にこんなものが現れたら俺だってそう言う反応をしてしまう自信があるな!
「落ち着いて下さいバルドレイ殿、これが飛竜の亡骸です。ご確認下さい」
驚くバルドレイさんに、そうシャルロッテさんが話しかける。
「シャ、シャルロッテ殿、これは一体……」
「これが先程言っていた事の答えです。この亡骸はマキジが運んでくれたのですよ」
「な、なんと!? ではもしやマキジ殿は……!」
「お考えの通りだとおもいますよ、バルドレイ様。こちらを見ていただけますか?」
バルドレイさんの興味が俺に向いたところで、俺は懐から【特派】のカードを取り出し、見せる。
俺が懐に手を入れたとき、兵士二人はかなり警戒していたが、バルドレイさん本人がそれを制してカードを確認する。
「うむ、これは間違いなく【特派】の身分証だ。ではマキジ殿は本当に【ストレージ】を持っているのだな」
「はい、そうです。この亡骸は窪地からここまで俺の【ストレージ】に仕舞って持って来ました。本物かどうか、確認されますか?」
「いや、それには及ばん。流石に目の前のこれが偽物だと言うほど目鼻が効かぬ訳でもない。全く、ギルドも良い人材を囲んだものだ」
バルドレイさんは苦笑いを浮かべながら、カードを俺に返してくれる。
「まぁしかし、もしギルドに何か不満を感じたら、遠慮せず私を訪ねてくれ。その時はレムリア王国がマキジ殿を雇うゆえな」
「ははは、もしそうなったときは考えておきますね」
「うむ。しかしシャルロッテ殿も人が悪い。こう言うことならテントで事情を説明してからでも良かっただろうに。お陰で肝を冷やしましたぞ」
国仕えとかしんどそうなので辞退させていただきますよ……
然しそれよりもバルドレイさんの言うことが俺も気になる。シャルロッテさんはテントで妙に回りくどい言い回しをしていた。
あんな風に言わなくても、あの場で俺が【ストレージ】持ちだと明かしてしまっても良かったように思うんだが……
「すみませんバルドレイ殿。あの場で明言するのは避けたかったのです」
「む? それは一体何故」
「それはこう言うことでござるよ」
すると背後から急にララーナの声と気配が現れる。
俺が驚いて振り向くと、そこにはララーナと、ララーナに引き摺られている人間の姿があった。
……って引き摺られてる!?
「ララーナ! その人どうしたんだよ!?」
「こいつは他国の密偵でござるよ。あぁ、心配せずとも殺してはいないでござる。気を失っているだけでござるよ」
そう言うとララーナは男を引き摺っていた手を離す。
……幸い腕を持って引き摺っていたようで、頭を強打とかはしてないけど、そもそもその腕が曲がってはいけない角度で曲がっている気がする……
「マキジ殿、彼女は一体何者ですか!」
「急に現れるとは怪しい奴め!」
バルドレイさんのお供二人が急に現れたララーナを警戒する。
取りあえずララーナを紹介した方がよさそうだ。
「バルドレイ様、すみません。彼女はララーナといいまして、俺のパーティーメンバーの一人です」
「む、マキジ殿の仲間であったか。二人とも、武器を下ろせ……しかしマキジ殿彼女はもしかしなくても……」
「はい、ちょっと訳ありでして。俺の奴隷にはなっていますが、対等な仲間ですよ」
「いや、そこではなく!」
? チラッとお腹の隷属紋を見ていたからてっきりその事だと思ったんだけど……まぁ初見の人は大体見ちゃうか。
「彼女はダークエルフではないかね!? 凄腕の暗殺者が何人もいると言われている……!」
「まぁ確かにララーナはダークエルフですね。凄腕かどうかはちょっとわからないですけど……ララーナ、こちらが今回の討伐部隊を率いているバルドレイ様だよ」
あの飛竜と戦っていた時のテンションを見て、凄腕とは言いづらい。
「む、主殿に紹介されてしまっては答えぬわけにもいかぬでござるな。拙者、ララーナ・ベルデナットと申す」
「お、おぉ、すまぬな。私はレムリア王国第八師団団長のバルドレイ。それでララーナ殿、密偵と言うのは……?」
ララーナに対するバルドレイさんの態度が妙に気になる所ではあるが、今はそこに転がっている密偵? の話が先だな。
「バルドレイ殿のテントに入ろうとしたとき妙な視線を感じたもので。視線にはシャルロッテ殿も気付いておられたようなので、こちらは任せて、拙者はこやつを追っていたのでござるよ」
えっ、そうなの? 俺何も感じなかったんですが?
てか急にいなくなったと思ったらそんなことしてたのか……
「成る程。それで、何処の密偵かは?」
「そこまではまだ聞き出しておらぬでござるよ。とにかくこやつを引き渡そうと思ってつれてきた次第で」
「では情報はこちらで吐かせますかな。二人とも! こやつを連れて先に戻っておれ!」
バルドレイさんがそう言うと、お供の兵士二人は敬礼し、地面に転がっている人を二人で抱え、野営地の方へと向かっていった。
「やつが吐いた情報次第ではありますが、ララーナ殿には別途報酬をお渡ししますぞ」
「おぉ、助かるでござる。今回は少し調子にのって飛び道具を使いすぎたでござるからな……」
結構な量使ってたもんな、飛竜倒すときに。
「しかしこれで合点がいった。シャルロッテ殿はマキジ殿の情報を聞かれないためにあのような言い方をしたんですな」
「謎かけのような説明しかできず申し訳ありませんでした」
「いや、気にしてはおらんよ。私としてはここで飛竜の解体指示ができ、おまけに密偵まで捕らえて頂いたのだからな」
「そう言っていただけると助かります」
結果としてバルドレイさんにとって、よい結果になっているようで何よりだ。
「さて、では解体作業の指揮を取らねばならぬので、そろそろ戻るとしましょうかな」
「そうですね……亡骸はこのままで問題ないですか?」
「うむ、直ぐに部隊を率いて戻ってくる故にこのままで問題ないですな」
「そうですか、ではそのままで」
こうして一先ずバルドレイさんに飛竜の亡骸を預けた俺は、ララーナ達と共に野営地へと戻るのであった。
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