第90録 山岳地帯にさようなら
前回のあらすじ
・飛竜の後始末
・やっぱり【阻害】はちょっと面倒
今回は山岳地帯から撤収する前の一幕
「……まさか、竜の死体がまるごと目の前から消えるなんてな……夢を見てるようだ」
【ストレージ】に飛竜を仕舞ってシャルロッテさんやララーナ達の元に戻ってきた俺とマール。そこに冒険者の男が話しかけてきた。
「まぁ、あれだけの大きさのものが一瞬で無くなったらそういう反応にもなりますよね」
「あぁ、そうだとも。俺は取りあえず、向こうで呆然としてる奴等に事情を説明してくる。それが終わったら野営地へ戻るつもりだ。そちらも準備しておいてくれ」
「分かりました」
そういうと男は未だに飛竜の死体があった場所を言葉もなく見ている冒険者達の方へ歩いていった。
「これが【ストレージ】スキルそのものの力ですか。私もこれ程の巨体が目の前から消えたのには少々驚きました」
「拙者もでござる。下手な奇術よりもずっと見応えがあるでござるよ!」
冒険者の男が歩いていったのに合わせて、皆がこちらに集まってくる。
【あの大きさでも仕舞えるとは思わなかった。良いものを見せてもらったと思う】
「私も近くでもう何度か見てきたけど~、大きさが違うとやっぱり驚きも違うわね~」
皆の言いたいことは実によくわかる。現代風で言えば種も仕掛けもないマジックが目の前で起こったようなものだ。
何の心積もりもなく目の前であんなことが起こったら、向こうの冒険者達のようになるのも致し方ないことだろう。
「でもまぁ、ある意味いい偽装になったかもな」
「偽装ですか?」
「そう、これだけ目の前で【ストレージ】を使って目立てば、【阻害】スキルのことにまでは目が向かないかなと思ってさ。【ストレージ】に関してはもう【特派】でなんとかなるけど【阻害】はそうもいかないからね」
「なるほど……マキジくん、なかなか考えましたね」
さっき思い付いただけだけどね。まぁ理由がないよりはあった方がいいものだ。
「さて、それじゃあ言われた通り帰る準備しようか……と言っても大体のものは【ストレージバッグ】に入ってるわけだけど。何かしておくことはあるかな?」
俺としてはもうやることもないし、余計な魔物との遭遇もごめん被るので、さっと帰ってしまいたいところではある。
「あの……では帰るまえに少しだけでも鎧を綺麗にしたいのですが……」
おずおずと少し遠慮がちにこちらに問い掛けてくるシャルロッテさん。そう言えば彼女の鎧は飛竜の血をモロに浴びていたからな。
「まぁあんまり見映えよくないですもんね……【生活魔法】の【コールウォーター】の水で洗い流すとかでいいですか?」
「それで構いませんよ」
「それじゃあ俺が……と言いたいところですが、今あんまり魔力に余裕がないんですよね。マール、お願いできる?」
「はい! じゃあ私がやりますね! シャルロッテさん、良いですか?」
「えぇ、それではマール、お願いします」
話がつくと、二人は少し俺たちから距離を置いた。
まぁ流石にここでやられると水がこっちにも来るからな。
「拙者は特にないでござるな! というか、今回は飛び道具ばかり使っていたでござるから、寧ろ帰ってからの方が忙しいでござるよ……」
【大丈夫、私が一緒に手伝うから。またいっぱい作ろう】
「エレミア殿……そうでござるな! 新しいものも考えるでござるよ」
ララーナ、妙にテンション高かったせいか、飛竜に結構な量の苦無投げてたもんなぁ……今回の【爆裂苦無】はなかなか強力だったし、また新しいものが出来たら是非見せて貰いたいところだ。
さてと、あとは……
「うふふ~、わたしも何もないわよ~。でもそうね~強いて言うなら~……」
「あれ、何かあるんですか?」
「マキジくんに~たまには誉めて欲しいな~って。お姉さん結構がんばりましたよ~?」
にこにこと笑いながらそんなことを言い出すマリアさん。
……これはからかわれているんだろうか? それともガチなやつだろうか。
いやまぁ、どちらにせよマリアさんが頑張ってくれたのは事実だし、ここは言われた通りにするとしようか。
折角なので、いつも助けてもらっていることも含めてお礼を言っておこう。
「そうですね。今回もですけど、いつも本当に助かってます。ありがとうマリアさん」
俺はマリアさんの手を取って、軽く握るとそう言葉にする。すると……
「あ、あらあら~? そんなに簡単に返してくるとは思わなかったわ~……うん、でもそう言って貰えると、お姉さん嬉しいわ~。こっちこそありがとう~」
珍しく、本当に珍しくマリアさんがちょっと照れてくれた。
飛竜を倒したあとに照れてるの可愛いって弄られたけど……成る程、確かに可愛いな?
「も~、いつまで手を握ってるのかしら~? それともこのまま手を繋いで帰るの~?」
「おっと、すいません……! 流石に手を繋いで帰るのは恥ずかしいので止めておきますよ」
「うふふ~。お顔真っ赤よ~? やっぱりマキジくんが照れてくれた方が良いわね~」
はぁ……もう、敵わないなぁ。
と、思っていると別方向から更なる刺客がやって来た。
「む、マリアさんずるいですよ! 私だって今回結構頑張ったんですから、マキジくんに誉めてほしいです!」
「それならば拙者も! 拙者も頑張ったでござるよ!」
【今回のMVPはなんと言っても私の【戦術符】にあると思う。だからマキジは私も誉めるべき】
「ちょ、ちょっと皆落ち着いて……!」
鎧の洗浄が終わったマールと、近くで話していたララーナ&エレミアさんも何故か話に乗ってくる。
「ふふふ、マキジのパーティーは賑やかでいいですね。これは、また何かあったときは同行をお願いしないといけません」
「シャルロッテさんまで……! もう、からかわないで下さいよ!」
お堅い【教会】の騎士様にまでからかわれるなんて堪ったもんじゃないよ……
その後、三人にも感謝の気持ちを伝えると、それぞれ納得したのか、なんとか落ち着いてくれた。
そんな折に、先程の冒険者の男が戻ってきた。
「こっちの用意は終わったぞ。そっちはどうだ?」
「大丈夫です……こっちも終わりました……」
「? なんでさっきの今でそんなに疲れてるんだ? 何かあったのか?」
「いえ、なんでも……人の心は難しいなって考えてただけですよ」
「なんでまだ若いのにそんな事考えてるんだ……まぁ終わってるならいいさ。野営地に戻るとしよう」
「そうしましょう」
こうして俺達と冒険者達は、野営地へと向けて山岳地帯から下山し始めるのだった。
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