第89録 飛竜の死体をどうしよう
前回のあらすじ
・チョコレート色の抱擁!
・大歓声
周囲に轟く歓声の中、俺はちょっと気になったことがあって、シャルロッテさんに話しかける。
「……シャルロッテさん、この飛竜の死体ってどうやって運ぶんですか?」
ここは山岳地帯にある窪地だ。この巨体を運び出すにはここで解体するか、俺のような【ストレージ】持ちが必要になると思うのだが……
「あぁ、それなら問題ありませんよ。第八師団は大型の【ストレージバッグ】を幾つか所有しているハズです。ここに来ている冒険者達の中にも持っている人がいるでしょう。ここで解体作業を行い、それぞれが欲しい素材に関して協議ののち、分配されると思います」
「でもこの巨体ですよ? 解体に結構かかるんじゃないですか?」
俺が空を見上げると、既に太陽は窪地の向こうへ消えようかという具合だ。夜になるまでそう長くはかからないだろう。
「そうですね。恐らく今日から三日ほどは解体に時間がかかるでしょう。それから各自の取り分などの取り決めをして、実際に分配して……ざっと五日程は見ておいた方がいいでしょう」
「結構かかりますねぇ」
正直な話、今この辺りに魔物が見られないのは飛竜が居たからだろうし、五日もあればそいつらが戻ってきそうな気がする。
そんななかで解体作業とか面倒にも程があるだろう。
「……ここで解体するにしても大変でしょうし、一旦俺が運んでしまうのはどうですかね?」
「……いいのですか? その、マキジはあまり目立ちたくないのでしょう? 【ストレージ】持ちというのがあまり知られてしまうと面倒なのでは?」
「まぁそうなんですけどね。でも、折角あぁして帰れるって喜んでる人達が居るのに、まだここで竜の死体のお守りしないといけないなんてちょっと可哀想じゃないですか」
俺は窪地の上に目を向ける。
そこには漸くこの任務から解放されると喜び会う冒険者達の姿があった。
「それにほら、一応こういう身分も貰ってますしね」
「それは……成る程、【特派】だったのですか」
俺が銀色の身分証を見せると、シャルロッテさんが得心がいったと頷く。
「あ、冒険者の皆さんも落ち着いてきたのか降りてきましたね」
俺がシャルロッテさんと話しているうちに、冒険者達も落ち着いてきたようだ。続々と窪地に降りてきていた。
「すまない。先程【鑑定】スクロールを使わせてもらったものなのだが……」
窪地に降りた他の冒険者達が、遠巻きに飛竜の死体を眺める中、さっきシャルロッテさんとやり取りをしていた冒険者がこちらへやって来た。
「ああ、先程の。どうかしたのだろうか?」
「いや、王国軍の連中が慌てて野営地に戻っていってしまってな。指揮を取る人間が居ないんだ。それで申し訳無いんだが、あんたに指揮を取って貰えないかと思ってな」
「私が? ……いや、確かに私は【勇者】と呼ばれてはいるが、このような大勢の人間を指揮した経験はなくてな。どうだろう、先程あなたはあの状況で私としっかり話ができていたのだし、一旦あなたが指示を出すというのは」
王国軍の兵士を見ないと思ったら野営地に戻っていったのか。
まぁ急に俺達が飛竜を倒してしまったんだから仕方がないの……か?
「俺がか……わかった。不安だがやってみよう」
どうやら冒険者達の指揮は彼が取るらしい。
なら丁度いい。飛竜を【ストレージ】に仕舞って下山するのを提案しようか。
「あの、ちょっといいですか?」
「ん? あぁ、君は確か……マキジだったか。どうかしたのか?」
「えぇ、ちょっと相談がありまして。実は俺、こういう者なんですよ」
そう言って【特派】の身分証を見せる。
「そいつは……! 道理で【勇者】が選ぶわけだ。それで? 相談ってのは?」
「俺は【ストレージ】持ちでして。何とかギリギリこの飛竜を仕舞えると思うんです。それで、一旦野営地まで運ぶのはどうかと思いまして」
「……【ストレージ】スキルを持ってるのか君は……確かにこのままここで解体するとなると、死体の監視任務が発生するだろうしな。お願いできるだろうか」
「勿論。最初からそのつもりですよ」
さて、それじゃああの小山を【ストレージ】に仕舞えるか……やってみるとしよう。
おっとその前に……
「マール! 確か念のため【ストレージバッグ】持って来てたよな!?」
「ありますよー! 今行きますね!」
俺からララーナを引き剥がしたあと、彼女とお喋りしていたマールをこちらに呼ぶ。
「二つありますけど、どうします?」
「両方使うよ。蓋明けてー」
「分かりました! ……はい!」
そう言ってマールが開けてくれたバッグのなかに、俺は【ストレージ】に入れてきていた物を詰めていく。
……野営地のテントに余計なものは置いてきて正解だった。これなら何とか飛竜の亡骸が入るだろう。
「……よし! これならいけるかな。じゃあ仕舞っちゃうか!」
「あ、私も一緒に行きます!」
俺とマールは連れだって飛竜の側へ行く。
そして【ストレージ】にその死体を仕舞おうとして……仕舞えなかった。
「あれ? おかしいな……」
「どうしたんですかマキジくん」
「いや、容量的には問題ないと思うんだけど、【ストレージ】に仕舞えなくて……」
なんでだ? 特になにもおかしなところは……あ。
「……そう言うことか」
「マキジくん?」
心配そうにこちらを覗き込んでくるマール。
まぁでも別に心配されるようなことじゃない。これは単なる俺のミスだ。
「何でもないよ。それじゃ今度こそ……」
そういうと俺は飛竜にかけたまんまの【移動阻害】と【AGL阻害】を解除し、【ストレージ】を発動する。
すると、先程まで仕舞えなかった飛竜の死体は、ものの見事に目の前から消え失せた。
「相変わらず奥が深いな、【阻害】スキルは」
「私には何がなんだかさっぱりなんですが?」
「俺もさっぱりだよ。自分のスキルなのにね」
本当によく考えて使わないと、自分が失敗する羽目になりそうだ。全く持って使いづらい。
「さて、じゃあ皆のところに戻ろうか」
「はい! あ! そう言えばさっきララーナさんがですね……」
不思議そうな顔のマールに笑いかけ、急に消えた死体に唖然とする冒険者達を尻目に、俺とマールはシャルロッテさん達の元へと戻っていった。
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