第59録 エレミアさんとスティーブさん
前回のあらすじ
・紋章術士とはなんぞや
・そろそろ帰ろう
今回は、帰る前にもう一話します。
荷物が何も残ってないことを確認した俺とエレミアさんは、本が山積みにされている部屋へと戻る。
「……そう言えば俺、この部屋へは落とされてきた訳ですけど、何処から地上に戻れるんです?」
エレミアさんの着替えに遭遇したり、部屋の荷物を仕舞ったりしていてすっかり忘れていたが、俺はこの地下の部屋へ落とされてご招待されている。
……正直なところ、一瞬死ぬかと思った。
【普通に階段で出入り出来る。向こうの扉が本来の出入口】
俺の問い掛けに素早くメモで答えをくれるエレミアさん。
そうか、普通に出入り出来るのかこの部屋……
「じゃあなんでわざわざ落とされたんだ俺は……」
なにか気に触ることでもしただろうか……?
がっくりと肩を落とす俺の背中をポンポンとエレミアさんが慰めるように叩いてくれる。
そしてそっと、俺に一枚のメモを見せてきた。
【スティーブ叔父さんは変わり者。役者に憧れたかと思ったら、楽器を演奏したいと言い出したり、こないだは吟遊詩人になるとか言ってそれっぽい服を用意していた】
「そう言えば玄関で見たときそんな服着てましたよ……」
変わり者だとは聞いていたが、まさかここまでだとは思わなかった。
ぶっちゃけ玄関で会ったときもこっちのことはお構い無しだったもんなぁ……
「というか叔父さんなんだ、あの人」
何より驚きなのがそこだ。
下宿みたいなイメージだったから、まさかあの人がエレミアさんの叔父さんとは予想できない。
……いやまぁ性格からも想像できないけども。
【変わり者過ぎて実家からは勘当されている。私も似たような境遇だったから、地下の部屋を使わせてくれた。悪い人ではない。何処か他の人と波長がズレてるだけ】
「うんまぁ、波長がズレてるのは何となく分かります。悪い人……でもないんでしょうね」
俺を落とし穴に落としたときも、嘘はついていないのだ。
なんせエレミアさんの部屋には着いたのだから。
【とにかく、もう出るとしよう。地下だから分かりにくいけれど、そろそろ夕方だと思うから】
「……そうですね。そうしましょう」
あんまり考えても答えが出なさそうだからな。
俺とエレミアさんは本の部屋にある最後の扉を潜ると、側にあった螺旋階段を登っていく。
「しかしまぁ深い場所にありますね、あの本ばかりの部屋」
コツコツという、石を叩く音を足元から響かせながらエレミアさんへと問いかける。
本を地下に置いておくとか、傷んでくれと言わんばかりな行為だと思うんだが……
階段を登りながらではあるが、エレミアさんは器用にメモを認め、俺の疑問に答えてくれる。
【あの部屋は元々、ハーミルトン家が収拾した物を仕舞っておく部屋だった。保存の観点からあそこの本には防腐処理がされている】
へえ、そういう……というか実家から勘当された叔父さんとか収拾したものをしまう部屋があるとか、ハーミルトン家って大きな家なのかもな。
……気になるけど、エレミアさんも勘当されてるのと変わらないっていってたし、あまり触れないでおこう。
そのあとは、特にとりとめないことを聞いてはエレミアさんがメモで答える、と言うことを繰り返しているうちに階段が途切れ、扉があらわれた。
【この扉の向こうはまだ地下。ワインセラーのある通路に繋がってる】
「そうなんだ。ますますなんで落とされたのか分からないな……」
そのままこっちへ案内してくれれば良かったものを……
そう思いながら扉に手をかけ、開く。
「おぉ! 地の底から蘇りし少年よ! 私からのささやかなプレゼントはお気に召したかな?」
そこには何故か、スティーブさんが立っていた。
いや、あれがプレゼントならお気には召してないぞ。
「素敵な体験ありがとうございました。エレミアさんとは会えましたし、荷物も回収したのでこれで失礼します。さようなら」
なんかちょっと腹が経つので捲し立てるようにそう言うと、側を通り抜けようとする。
「ちょちょちょ! まちたまえ! 先程の体験がお気に召さなかったら謝る! だから行く前に少しだけ話を! 話を聞いてくれ!」
すると、慌てたスティーブさんがこちらを押し止めてきた。
「その、なんだ。うちの姪は色々と苦労してきている。今回の【勇者】の一件もそうだが、本当に色々とな。私にとってはかわいい姪だ。これ以上苦労はさせたくない。わかるかな?」
スティーブさんは俺を真っ直ぐ見据えながら、先程までとは異なり真剣な表情でそう言う。
エレミアさんがすかさずメモを書いて見せようとしているが、俺が答えるべき問いだろう。
「……スティーブさんの心配は、俺には分かりません」
「……」
俺の言葉に少し顔がこわばるスティーブさん。だが、俺はここで答えを止めるつもりはない。
「俺はまだスティーブさんと違ってエレミアさんとは会って直ぐですから。今までどれ程の苦労があったのかも知りません。でも彼女の【無声病】の治療に協力したい、という、気持ちに嘘はありません。それだけは答えられます」
最後まで俺も、真っ直ぐとスティーブさんを見てそう答える。
そうすることしか、俺にはできないから。
「……成る程、あの【勇者】もどきなんかよりずっと頼りになりそうだ。エレミア、本当にいいんだね?」
スティーブさんは俺の後ろでメモを書く手を止めてこちらを見ているエレミアさんにそう問いかける。
するとエレミアさんは先程まで書いていたメモを破ると、素早く言いたいことを書いた。
【構わない。私も彼のことは多くは知らない。けれど、彼のパーティーメンバーを見ていれば、彼が酷い人などではないのは分かる。そして今日私の部屋で話をして、より強くそう思った。だから、構わない】
「……そうか」
メモを読んだスティーブさんは、そう一言だけ呟いた。
そして最後に俺に向き合うと
「姪のこと、頼むぞ少年」
そう短く告げ、地上へと向かってしまった。
「……俺達も行こうか」
「……(こくり)」
頷いたエレミアさんを連れて地上へと上がり、家の玄関へと向かう。その間、スティーブさんと会うことはなかった。
扉を開け、外に出ると赤い夕日が丁度沈もうかと言った頃合いだった。
俺が先に外に出て、エレミアさんがドアを閉める。
そして歩きだそうとした時、ふとエレミアさんが立ち止まると、素早くメモに走り書きをして玄関の隙間から差し入れた。
……速くて見えづらかったが、そこには確かにこう書かれていた。
【行ってきます】と。
最後にもう一筆取ると、そちらは俺に渡してきた。
【行こう。マール達も待ってると思う】
「……そうだね。マールがお腹を空かせて待ってそうだ。早いところ戻ろうか」
思ったより長くなったし、心配してそうだからな。
「……(こくり)」
俺の答えに頷いたエレミアさんと二人、マールたちが待つ宿へと戻るのであった。
続きが気になるぞい!な貴方も、なんじゃつまらんのぅ、な貴方も下の☆から評価して頂けますと作者が泣いて喜びます。
気に入って頂けたらブックマークも宜しくお願いします~!




