第52録 声なき紋章術士エレミア
前回のあらすじ
・ゲイルくんはクズの極み
・【無声病】とは一体……
今回は【無声病】についてとエレミアさんと筆談
ギルドカウンターでゲイルに勝ったことで貰った金貨100枚を受け取った後、ゲイルのパーティーから無情にも外されてしまった【無声病】を患った少女エレミアを連れ、宿へと戻ってきた俺達。
宿へと戻る途中、マリアさんから【無声病】について聞いたのだが、これは後天的な病らしい。
よくある精神的なトラウマで声が出なくなる……と言ったわけではなく、【紋章術】に使用される特殊なインクが原因だという。
その特殊インクは、この世界にある【邪霊樹】と呼ばれる樹木の樹液を用いて作られているらしい。名前からしてヤバそうな樹だが、トレントのように動いたりするわけではないそうだ。
ただ、その土地に住まう邪霊から力を吸っているらしく、呪いを溜め込んだりしているのだとか。
この樹液が千人に一人の確率で使用者の声を奪うと言われているそうだ。当然、インクを使う紋章術士が大半の発症者になる。
特定の職業の者がなる難病、それが【無声病】の正体だった。
一応この【無声病】、治療方法は確立されているのだが、この治療薬の材料がまた入手の難しい物ばかりらしい。
紋章術士は基本的に魔法スクロールや呪符を作ることを生業としているため、冒険者になるものは少ない。なので基本的に薬になったものを買うのだそうだが、この薬がまた凄く高い。
これまたマリアさんに聞くと一つ金貨500枚はするらしい……薬一つ5000万とか考えたくもないな。
こうして【無声病】が如何に面倒な病か知った上で、俺達は今エレミアさんと向かい合って座っていた。
なにも用意しないというのもあれなので、宿の店主に頼んでお茶と軽い茶菓子を出して貰っている。
「えぇっと……取り敢えず自己紹介しておくよ。俺はマキジ・ヨコシマ。今は冒険者として生計を立ててる」
「私はパーティーメンバーのマールです。回復魔法を使う回復術士ですね。そしてこちらが……」
「今、彼等に護衛を依頼してるアンナマリアよ~。宜しくね~」
「最後に拙者が主殿の影、ララーナでござる」
先ずはこちらから挨拶しておく。何事も先ずは挨拶からだからな。
こちらの挨拶が終わると伏せていた顔を上げて此方を見た後、エレミアさんは目の前に置いておいたペンを持ち、紙に何事かつらつらと書き始めた。
……内容はこうだ。
【私の名前はエレミア・ハーミルトン。さっきは治療薬が欲しかったとはいえゲイル達に賛同してあなた達には迷惑をかけてしまった。ごめんなさい。それに今もわざわざ私に声をかけて宿にまで連れてきてくれている。感謝しかない】
そこには自己紹介と、先程の一件に対する謝罪が書かれていた。
正直諸悪の根源はあのゲイルなので、そこまで彼女に対して思うところがある訳ではないのだが。
「いえ、いいんですよ。別にエレミアさんが悪いわけじゃないです」
「そうですね。先にこちらにちょっかいをかけ始めたのはあのゲイルです。別にエレミアさんが謝ることじゃないと私も思いますよ。事情が事情ですし」
「うむ、拙者も主殿に何とかしてもらうまで、自分のスキルをどうにかしようと足掻いていたことがあるゆえ、気持ちはわかるでござる。気にしていないでござるよ」
「そうね~【無声病】は本当に厄介な病だから~」
皆も俺と同じで特にエレミアさんに思うところはないみたいだ。
俺達の返答を聞くと再びペンを走らせるエレミアさん。
【有り難う。そう言って貰えると少しは私の罪悪感も紛れる。それで聞きたいのだが、どうしてあなた達はゲイルの仲間だった私に良くしてくれるのだろう?私の事などあなた達には関係のないことだと思うのだが】
「う~ん、確かにそれはそうなんだけど……俺がゲイルに勝ってしまったことでエレミアさんが【無声病】の治療機会を失ってしまったんだとしたら、少しくらいは何とかしたいと思ってしまうんだよ。偽善的かも知れないけどね。だから、もしよければ協力させてもらえないだろうか」
他の人が見れば大半は関係ないと放っておくだろう。
多分、この世界に来る前の俺ならそうしたと思う。
でも俺は今回の人生は自分のできる限りをするともう決めている。
だからこういう時に助けないという選択肢は取りえない。
ただ俺の全力で当たるだけだ。
【……有り難う。本当に、有り難う】
一筋、涙を流した後、エレミアさんはそう綴ってこちらに頭を下げた。
取り敢えずこれでこちらの気持ちは伝わっただろう。
さて、あとは……
「すいません、マリアさん。護衛任務中に勝手な判断で申し訳ないと思うんですが……」
闇ギルドの時はマリアさん主導だったからいいが、今回のは完全に俺が決めた問題だ。
護衛任務を受けている以上、こう言うことを決めるときは本来相談が必要だろう。マリアさんには申し訳ないことをしたと思う。
「良いわよ別に~それに始めに言ったはずよ~私はマキジくん達の旅に合わせる、って~。だから気にしないで~」
「マリアさん……有り難うございます」
ゴブリン討伐からこっち、マリアさんにはお世話になりっぱなしだ。いつか何か返さないと借りで首が回らなくなりそうだ。
「まぁ~、【無声病】を何とかするなら【モデラータ】より【レムリアリア】の方がいいからね~。だからなんの問題もないわ~」
「あ、そうなんですか」
「そうよ~、お金を稼ぐにしても~、薬の材料を集めるにしても~、首都のほうがいいもの~」
成る程、流石は首都と言ったところか。
じゃあ引き続き目的地は首都【レムリアリア】と言うわけだ。
さて、あとはマール達にも謝っておかないとな……
「マールもララーナも勝手に決めてしまって悪い」
「マキジくんはパーティーリーダーなんです。どうしても譲れないところは決めてしまって良いんですよ?」
「拙者は主殿の影でござるからな。主殿の判断に従うでござるよ」
……マリアさんだけじゃなくて、この二人にも何か考えておこう。
じゃあエレミアさんが泣き止んだら明日からの予定を話し合うとしようか。
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