第33録 アーダジオ散策②
前回のあらすじ
・食べ歩きマールさん
・嫉妬の炎がメラメラと
今回はマールさんの杖の新調となにやら事件が…?
東区での怨嗟の視線から逃れて、俺達はアーダジオの北区へとやって来ていた。
この辺りは主に工業、つまるところ工房や製作所にそれを販売する直売所が立ち並ぶアーダジオの工業地帯だ。
そこかしこの建物からは製鉄の高く響く音が鳴り渡り、煙突からは炉の煙が上がっている。
実物は見たことはないが、教科書の写真で見た産業革命頃のイギリスを彷彿とさせるな。
「この辺りが北区ね~、かなり多くの鍛治屋さんや加工屋さんが軒を連ねてるから~気に入ったお店があれば見ていきましょうか~」
「いいですね。俺も今持ってるのが鞭だけなので、せめて籠手ぐらいは用意しようかなと思ってたので」
「私は今の杖が大分古くなってきたので新しくしようかなと」
俺は現状防具と呼べるものを身に着けていない……というのも下手に慣れない鎧なんかを着けると逆に動きづらくなるのだ。
旅に出る前に一度ガデツさんのところで色々試着したりしたんだけど……なんていうか、重かった……
それでも籠手ぐらいは身に着けておいた方がいいとは考えている。
ここへ来る時の盗賊しかり、旅をする以上備えはあった方が良いからな。
マールの杖は樹齢の長いマジカルツリーを元に作られている。
マジカルツリーは大気、土から魔力を吸い上げ成長する特殊な木で、これで作られた杖は使用者の魔力を底上げする効果を持つらしい。
マールはこれを中古で安く購入して使っていたようだが、そろそろ買い替え時期みたいだ。
……うん、前言撤回。俺より先にマールの杖を新調しよう。
「じゃあマールの杖からにしよう。俺の籠手は【阻害】で今のところ要るかどうか怪しいし」
「……いいんですか?そう言って貰えると助かりますけど……」
「ああ、構わないよ」
「じゃあ~杖を専門的に扱ってるお店があるから~、そこへ行きましょうか~」
……思ったけど、マリアさんちょっと詳しすぎないか?まるでここに住んでる人レベルというか……ちょっと聞いてみるか。
「マリアさん随分と詳しいですけど、アーダジオに住んでたんですか?」
「えぇ、そうよ~。私はここの生まれなの~。アンジェもそうだし~アレグレッテの住民も元アーダジオ生まれが多いわ~」
マリアさんが言うには、アレグレッテが作られたとき、アーダジオから多くの人が関わったのだそうだ。その街造りを行った人々がそのまま住んだ結果、今のアレグレッテがある。
「そうだったんですね……じゃあ今回は久々の帰郷ってことですか?」
「まぁそうなるかしら~?これでも昔はちょくちょく帰っては来ていたのだけど~もう両親がこの街居ないから~……」
「あ……なんかすみません」
「いいのよ~気にしないで~」
いかんいかん。あんまり踏み込み過ぎると地雷を踏みかねないからな。この辺りにしておこう。
マリアさんは優しいお姉さん、今はそれでいい。
「……あ、ここじゃないですか? 杖の専門店!」
どうやら話をしているうちに、件のお店に着いたらしい。
「そうよ~、ここが杖ばかり扱ってるお店で【クリント杖工房】っていうの~入りましょうか~」
「窓から見える店内もホントに杖ばっかりですね……」
言いながら店内に入る二人に続いて扉を潜る。
するとそこには異様な光景が広がっていた。
ところ狭しと置かれた杖、杖、杖。
天井からぶら下げられているものまであって、杖の森と言われても過言ではない。
「いらっしゃい……久し振りのお客さんだ、ゆっくり見ていきな……」
そして極めつけはカウンターにいる爺さんだ。見るからにヨボヨボだが、その目はこちらを品定めするかのように爛々と輝いている。
……好きなことやってるとこうなるんだろうか?
「えぇっと……私、この杖が古くなってしまったので新しいものを探しているのですが……」
マールが臆面なく店主に話しかける。
「ほぉ……マジカルツリーで出来た杖かい。確かにかなり使い込まれているな……もうすぐ寿命だろう……」
「やっぱりそうですか……使いやすくて便利だったんですけど……これに換わる杖はありますか?」
「ヒッヒッヒッ……ここは杖だけがごまんとある【クリント杖工房】だ……ちょっと待ってな……」
ゾクリとする笑いをあげながらカウンターから出て、杖を掻き分ける店主、恐らくクリントさん。
そして少しすると一本の杖をマールさんに渡した。
「……これなら嬢ちゃんに合うだろう……どうだい?」
「……ちょっと失礼しますね」
そう言うと自分の身長程ある杖を振るマール。
いつ見ても見事な杖術だ。
「……凄く扱いやすいです。長さも丁度良いですし……後はどう言った材質で出来てるかですが……」
「それも問題ない……それはマジカルツリーとエルダートレントの素材を組み合わせてある……さっきの杖よりも魔力効率がいいだろうさ……」
「エルダートレント!? そんな高価な素材で作られた杖、私にはとても……!」
後から聞いた話だが、エルダートレントとは樹齢を重ねたトレントで非常に珍しい魔物らしい。その素材はかなり魔力を伝えやすく、希少性と相まってかなり高価なのだとか。
「いいさ……マリア嬢ちゃんの知り合いのようだし……さっきのマジカルツリーの杖を買取りさせて貰えるならそうだな……金貨5枚でどうだい……?」
「金貨5枚……!? いいんですか!? これなら金貨30枚は下らないのに……!」
……300万以上するんだその杖……異世界凄い……
「いいさ……どうせこのままここにあってもこの杖が可哀想だからな……使ってやってくれた方が良い……どうする?」
「買わせていただきます!」
その後はもうスムーズだった。いままで使っていた杖を買い取ってもらい、昨日の盗賊討伐の報酬を使って杖を購入。
クリント? さんに何度もお礼を言いながら店を後にした。
「すいませんマキジくん……旅のこともあるから大きな買い物は避けようと思ってたんですけど……」
「大丈夫だよ。それに戦闘中に何かある方が怖いし、杖が新しくなって逆に良かったよ」
今はマリアさんも居るからいいけど、ホントなら二人旅だったんだ。これからを考えると良い装備が安く手に入ったんだから問題ないだろう。
さっきこっそり【分析】しておいたから間違いない。
分析結果
・【魔檄杖】マジックティーチ
特殊効果
魔力伝達(大)、魔力増幅
……武器に名前付くことってあるんだな……
「次はマキジくんの籠手かしら~どうする~?」
「うーん……考えたんですけど、俺は首都に着いてからで良いかなって」
目的地に着くまで現状慣れてる方が良さそうだからな。マールの方は杖が変わったわけだし。
「さて、残りは西区ですね……マリアさん?」
「……二人共、走れるかしら~?」
「私は大丈夫ですけど……どうしたんですか?」
珍しく険しい顔をするマリアさん。
「丁度話してた西区の~裏組織の連中に囲まれそうなの~。さぁ~走るわよ~!」
「え、ちょっ……! マリアさん!?」
急にどうしたっていうんだ!?
俺とマールは兎に角、走り出したマリアさんの後ろ姿を追いかけることしか出来なかった。
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