鉄と滲
白いフィルターに、紅い滲みがついていた
鈍色に澱む雲が層を成す、十五時に吸った一本の煙草
紅から連想される様な、鉄錆の味はそこに無く
燻され濁った灰色の粒子が、舌と鼻腔にこびり付く
赤錆び目立つプレハブ小屋の、玄関口に置かれた灰皿
饐えた様な、粘っこい風吹きすさぶ中で
化粧っ気のない顔ぶら下げて
トラックの荷台に載せられる荷物と、無機質な男達を視界に入れつつ
土気色の指に挟まれた、白い巻紙の煙草をぼんやり見つめる
口紅の様な艶もなく
絵の具の様な赤でもない
放っておけば黒くなる
薄く、引き延ばされ、滲んだ、紅
漸く唇ひと舐めし
ざらつきひび割れた谷間に、唾液が沁みる
流れ出る程活力もなく
然し傷を塞がなければと、仕方が無しの本能的義務が
煙に解かれ、僅かに浸み出す
何故だかひどく、縛られている様な気がして
悔し紛れにもう一本
しかし、そこには滲みがなく
軋みながらも廻り続ける世界の中で
私の意識唯一つが
怠惰に世界にへばりつく