絶対仕事辞めてやる!
高校を卒業して同級生の大半が大学や専門学校に進学する中、僕(佐藤 広樹)は特にやりたいことも目標もないので就職することにした。
社会人として働き五年が過ぎた。僕は都心の歓楽街の中にそびえ立つ高級ホテルのベルボーイとして働いてる。
客に呼ばれずとも周りを観察し、困ってる客がいれば真っ先にサービスを提供して、最高のひとときを過ごしてもらうお手伝いをしている。中には「ありがとう」なんて言ってくれる客もいれば、当たり前だと言わんばかりの態度でサービスを享受する客もいる。でもその程度であれば何とも思わない。
最悪の客はお察しの通り、タチの悪いクレーム客だ。コイツらはクレームを理由に宿泊費をタダにしろだの、無茶苦茶なことを言ってくるのだ。当然の如く、クソ真面目に対応していてもラチがあかない。ふざけんな馬鹿野郎。
こうなったら客の奴隷でしかない。嫌なことがある度に、僕は学生の時に見た異世界もののアニメを見たことを思い出し、自分が異世界に行ったらの妄想をする。そしてクソ客の顔をモンスターの頭部に当てはめてフルボッコにするのだ。
今日は散々だったな、と思いながら職場から帰宅した。時刻は深夜1時を過ぎている。職場から家が近い僕は、なにかと便利に使われることが多い。今日は本当なら半休のはずだったのに…。
一人暮らしなので全部自分でやらねばならないが、前日にカレーを作り置きしていたので、温めて食べるだけで夕飯は済ませれた。なんて遅い夕飯なんだ。...もしかしたら、いつまでも永遠にこんな生活が続くのだろうか。特にやりたいことも目標もないのは体たらくは健在なので、将来には絶望しかない。出来れば早く死んで、来世は美少女としてアイドルが着るような衣装を来てキャッキャウフフしてみたい。
...いや、異世界にも行ってみたいな。最強装備を見に包み、圧倒的な火力で世界を支配して、美少女の姫と恋に落ちる。それもいいな。てか明日仕事行かずに異世界に行きたいわ。
僕はそんなアホなことを考えながら眠りに着いた。明日は泊まり勤務だからもっと大変だ。頑張らないとな。
この時はまさか自分が異世界に転生するとは思わなかった。
朝が来たと思い、いつもの時間に目が覚めた。出窓から差し込む朝日が眩しい。そしてなにやら騒がしい。鳥の囀りじゃない。人の声だ、それも沢山の。
目を開ける前に腕に違和感があるのに気づいた為、目前の光景よりも先に自身の腹を見た。自分は今、手首を拘束されてるではないか。腕全体が腹の前で鉄の手錠で縛られている。それに体は立った状態になっている。そして顔をあげると沢山の人の顔が見える。そいつらは僕のことをじっと品定めをするかのような目で見ている。
なにがなにやらわからない。助けを呼ぶために声を張り上げた瞬間、目の前で何かが振り下ろされた。身が縮こまり、冷や汗をかく。
目の前に身の丈はある大斧を持った大男が睨み付けている。大男は言葉は発さないが、察した。次下手な行動を取ると重症を負わされることを。
僕はアホだが分かる。夢だ、きっと夢だ。そのうち目が覚めたらまたいつもの日常だ。あー、仕事行かなきゃなー...と考えたが、目の前の大斧を持つ大男、それの奥にいる群衆。右と左には僕と同じ無地の白い服をきた人間がいる。このとてもリアルな臨場感が夢...?
その時だった。
「皆様大変お待たせいたしました。これより奴隷市を開催致します!」
甲高い声が広場に響き渡った。
...は?
続く