第十三話 そもそも、聖樹の実ってどういうもんなの?
「それでトールさん、私がメイドさんになった場合はどんな感じになりますでしょうか?」
「えっ? その話題引っ張るの?」
場所を隠れ家の居間に移し、トールがコーラを冷蔵庫に入れて戻ってきた。
その安心し、油断したタイミングを逃さず、リンはトールを攻め立てた。
こう見えて剣の達人であるリンらしい、虚を突いた一撃。急には、頭が働かない。
いや、それはトールの誤解だろう。
あくまでも、純粋に気になっているだけなのだ。
テーブルの中央に置かれた、聖樹の実よりも。
「引っ張るというか、まだ始まってもいませんよ?」
「マジかー」
純真で、陰の一片すらない笑顔。
それなのに、ニコニコとしたリンからは、静かなプレッシャーを感じる。答えないことには、この場を切り抜けることはできない。
そんな確信。
「これが、達人一流の気迫……」
それに押されつつ、トールは椅子に座った。
リンは当然、アルフィエルやカヤノからの視線を感じる。エイルフィード神は視線を逸らしているが、笑っているのを悟られないためだろう。
(笑ってないよ。神サマを笑わせたら、大したもんだよ?)
(このタイミングでテレパシー送る!?)
笑うのを悟られないのに苦労するのは、トールのほうだった。
恐らく、一番の勝ち組はグリフォンとユニコーンたちだろう。様々な重圧から解放され、楽しんでいるに違いない。
ふと、グリフォンたちがワイヴァーンも一緒に屋台で飲んでいるイメージがトールの脳裏に浮かんだ。うらやましい。ちょっと混ざりたい。いや、邪魔だと思うので、近くから観察するだけでいい。
「それで、トールさん。どうでしょう!?」
「リンが、メイドになったら……か」
「はい! 自信ありますよ!」
助けを求めたわけではないが、妹のことなのだからとウルヒアに視線を向けた。
「こっちを見るな」
しかし、虫でも追い払うように邪険にあしらわれてしまう。
納得いかないが、親身に相談に乗られるよりはましなので良しとする。
「そもそも、ウルヒアの意見を聞いても、リンは喜ばないだろうしな」
「分かっているなら、僕に頼るな」
「ごもっとも。だが、無理だね」
これまた適当にあしらって、トールはメイドのリンをイメージする。
イメージする……。
イメージ……。
「とりあえず、リンがメイドになったら、逆の意味で正統派なメイドになってしまう気がするな」
「え? もしかして私には隠れたメイドの才能が!?」
「まあ、ある意味で?」
あることは、あるはずだ。
たぶん、はわわメイド観賞用とかそういう感じで。
「やりましたよ、アルフィエルさん! これで、私もメイドさんの仲間入りです!」
「それは……いや、だがしかし……」
「そうなると、アルフィはメイド長路線で行く手もあるな」
「それだ!」
アイデンティティが奪われそうになって情緒不安定気味だったアルフィエルの瞳が、流星のように輝いた。
「メイド長。ご主人との過去のあれやこれやを感じさせて実にいい響きだぞ、メイド長」
「俺たち、まだ会って一ヶ月かそこらだよね?」
冷静な指摘は、往々にしてそうなる運命なのだが、アルフィエルの耳には届かなかった。耳の形状ではなく、受け手の問題であるがゆえに。
「ちょうど良い訓練だぞ、トール。使用人と妻の手綱を握るのも、いい主人となるためには必須技能だ」
「なんで、そのふたつを並べて言った?」
通信の魔具越しではなく、実際に顔を合わせてにらみ合う刻印術師とエルフの貴公子。
端から見れば一触即発だが、二人を知る者からすると仲よさそうとしか見えない。
(これが、客人界を席巻するびーえる? 神サマ、初めて見ちゃった)
(テレパシーの無駄遣いは止めようか)
わりと本気なトーンでエイルフィード神に釘を刺したトールは、視線を和らげ話を強引に戻した。
「その箱の中に、聖樹の実が入っているわけだけど……」
テーブルの中央に置かれた小箱。
集中すれば確かに、その中から強力の魔力の波動を感じする。
「そもそも、聖樹の実ってどういうもんなの? 食べたら、寿命が延びるとかそういう話は聞いたけど。食べ物扱いして良い物なの?」
「実を付けた事例自体が少なくて、確定的なことは言えないのだが……」
「エルフ時間でもかよ」
こくりとうなずき、ウルヒアが続ける。
「極めて稀に実をつけ、生者が口にすれば不老不死となり、死者をも蘇らす。それは、ある一面では事実だ」
「SSRか……って、一面には?」
「ああ」
元々知っていたのか、それとも調べたのか。
ウルヒアが、重々しく口を開いた。
「食べたものの肉体を、望む方向に変化させることができる。恐らくだが、その本質はこういうことになるのだと思われる」
「もし、ゴムの体になりたいって願ったら?」
「ゴム? そうだな。性別どころか種族が変わった事例もあったようだ」
「へええ……。そいつは、すごい」
種族を越えた愛も、聖樹の実ひとつで解決だ。
「闇オークション的なヤツに流したら、凄いことになりそうだな」
「そうだな。立派な指名手配犯だな」
「大丈夫ですよ。トールさんと一緒なら、逃亡生活でも全然オッケーですから」
「まず、流すのを止めようね? 立場的にね?」
「頑張ります!」
頑張らなくちゃいけないことだろうかと疑問はあるが、良しとする。リンなので。
「まあ、過去に事例があったりするのなら、大丈夫なのかな……」
「ご主人、なにか心配事があったのか?」
「ああ。聖樹の実って、植えたらもしかしてカヤノの妹とか弟になったりするんじゃないのか……と思ってさ」
「いや、それは……」
そんなはずはないと否定しかけたウルヒアだったが、そもそも、苗木がどう生まれるかも知らなかったことに気付き口ごもってしまった。
そして、全員の視線が同じ場所に集まる。
「らー?」
カヤノは可愛らしく。
いや、実際に可愛いのだが、小首を傾げてアホ毛をぴこぴこ前後に振った。
反応は、それだけだった。
今年の更新は最後となります。
ご愛読いただき、ありがとうございました。
また、次回はいつも通り1/2に更新です。
来年もよろしくお願いします。




