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刻印術師とダブルエルフの山奥引きこもりライフ  作者: 藤崎
第二部 来訪編

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第四話 どんだけ大物に育てればいいんだ……

 トールが客人(まろうど)として迷い込んだ異世界に名前はないが、神は実在する。代表的なのは、以下の五と一の大神たちだろう。


 名を秘されし始まりと終わりの大神。


 世界を創造し、神々を産み、そして、世界の黄昏においてはすべてを消滅させるとされる。他の神々とは別格として扱われる存在。

 名前と同様に姿も秘されており、いくつかの正多面体を備えた車輪の姿で描かれる。


 星と秩序の女神ヴァランティーヌ。


 公平にして苛烈なる英雄神。五大神の第五位。

 法の守護者であり、戦神の側面も併せ持つ。剣と盾を構え、プレートメイルを身にまとった美女の姿で描かれる。


 水域と時の女神ヘルエラ。


“留まることなき”の異名を持つ。五大神の第四位。

 流転する定めから、幸運神。ひいては、商業神としても信仰を集める。

 美女ということは共通しているが、特に決まった姿は存在しない。ただ、渦を模したモチーフを必ず身につけている。


 大地と豊穣の女神マルファ。


 ドワーフが自らの創造神と崇め、エルフもまた世界樹をもたらしたマルファを祖神と見なしている。もちろん、人間の信者も多い。

 五大神の第三位であるが、世界で最も広く信仰されている神格。

 彫像や絵画では、愛らしくいたいけな童女の姿で描かれる。


 月と闇の女神リュリム。


 弱者の庇護者。死者の魂を守護し、安寧を与える存在。その一方、罪深き魂には厳しい罰を下すことでも知られている。

 五大神の第二位。ダークエルフの創造主。黒髪の憂いある美女の姿で描かれる。


 太陽と天空の女神エイルフィード。


 地上にルーンをもたらしたとされる慈悲深き女神。

 五大神の第一位。謎の多い『名を秘されし始まりと終わりの大神』に代わり、実質上の主神として扱われている。

 戦乙女の創造主。すべてを知る知識神。

 長槍を手にした、金髪碧眼の美しい女性の姿で描かれる。


 その女神エイルフィードが、地上に降臨した。いや、出現したのは地下室だったが地上には変わりない。


「トマトのリゾット、美味しいね! 神サマ、思わず柏手を打っちゃう」

「ラー! マー! オーシ!」


 しかも、隠れ家の居間で、朝食に舌鼓を打っている。放っておいたら、言った通りに柏手も打ちそうだ。


 トールは食べるだけで精一杯で、味はおろか熱ささえ分からないというのに。


「こ、光栄です……」

「ほらほら、アルフィちゃん堅い、堅いよ。シュトーレンじゃないんだから。神サマのことは、おばあちゃんだと思って気軽に接してくれたまえ」

「お、おばあ?」


 カヤノを膝に乗せて食べさせていたアルフィエルが、ぴしりと固まった。実質上の主神から孫扱いされたリアクションとしては、かなり努力の跡がうかがえる。


「そそそ。関係的には、そんなに間違ってないって神サマ思うなぁ」


 戦乙女の創造主であるエイルフィード神。

 その戦乙女の血を引くアルフィエル。

 確かに、祖母と孫と呼んでもおかしくはない……かもしれない。


「いや。しかし、それはいくらなんでも畏れ多い……」

「そんなことないよー。アルフィちゃんの就職が決まって、神サマもレーアちゃんも喜びすぎて地上に雨降らしちゃったぐらいだしね」

「あれ、マジで涙雨だったのかよ!」


 黙って聞いていたトールだったが、さすがに黙ってはいられなかった。

 思わず立ち上がってしまったが、エイルフィード神は「あははー」と笑いながら顔の前で手を横に振る。


「ごめんね、今のは神サマジョークだよ。それをやったらさすがに、ヘルエラちゃんに怒られちゃうからね」

「怒られはするけど、できはするんかい」


 さすが、女神。スケールが大きかった。

 そして、神サマジョークは心臓に悪い。


 これでは身が持たないと思いながら、トールは席に座る。


「許されるのは、実際に嫁入りしたときとかかなぁ。いざとなったら、神サマの天空神権限でヘルエラちゃんには涙をのんでもらうし」


 本当に、心臓に悪い。


「そうですよ、アルフィエルさん。せっかく、エイルフィード様も、こうおっしゃっているのです。身内の方とは仲良くしないといけません」


 お姫さまモードになってなんとか取りつくろうことに成功したリンが、厳かに言った。押しつけようという意図はない……はずだ。


「うんうん。そうだー」

「ラー!」

「というわけで、リンちゃんももっとフレンドリーにね?」

「ほわっ!?」


 アルフィエルへ向かっていたはずの矢印が跳ね返ってきて、リンは椅子の上で仰け反った。リンが土下座できないとは、その衝撃はいかばかりか。


「エルフだって、マーちゃんの愛娘なんだから、つまりは神サマの姪っ子になるよね?」

「ぴぎゃあ」


 奇声を上げて、リンはその場に突っ伏した。

 とりあえず、うめき声は聞こえるので、呼吸はしているようだ。


「ところで」


 しかし、そろそろ助け船を出さないと、リンの命がピンチだ。


「まずはカヤノのことを確認というか、今の育て方でいいのか聞きたいんだけど?」

「うん。基本的には、今まで通りでオッケーだよ」

「ここのところは、薬草の類を植えてばかりなのですがいいのでしょうか……。いいのだろうか?」


 途中でエイルフィード神が頬を膨らませたために、アルフィエルは慌てて口調を崩した。慣れるまで大変そうだが、一番大変なのは、慣れた先も滞在する気満々なところかも知れない。


「うん。なにを育てるかで、確かにカヤノっちの成長の仕方が変わってくるのは事実だけど。もっと、重要な物をちゃんと与えてもらってるからね」

「……なにか、あげたっけ?」


 心当たりがないと、トールがアルフィエルとリンを順番に見回す。


「特に心当たりはないな」

「……もしかして、こっそりと一緒に冷蔵庫のジャムをなめていたことですか!?」

「ナー! リン! シー!」


 カヤノがリンを口止めするが遅い。というよりも、共犯者がいきなり自白するとは普通は思わない。


「そのジャムは神サマも味わってみたいけど、そういうことだよ」

「……甘い物ではないことは分かるけど」

「それはね、トールくん、アルフィちゃん、リンちゃん。キミたちの愛情だよ」


 初めて姿を見せたときのような高貴さを漂わせ、女神エイルフィードが言った。


 思わず、感動に涙ぐみそうになる。


 だが、それも長くは続かない。女神は、すぐににへらと相好を崩した。


「この娘にはねー。将来的に、天界に来てもらおうと思ってるんだ」

「らー?」

「ああ、大丈夫。最低でも何百年か先だから」

「エルフ時間と神様時間と樹木時間が合わさって、タイムスケールが訳の変わらないことになってるんだけど」


 当面はお別れの心配はない。

 それが分かって、目に見えて安堵の空気が流れる。


「そして、今の世界が役割を終えたら、世界樹になって新しい世界の柱になってもらうんだ」

「どんだけ大物に育てればいいんだ……」


 見上げるような大木となったカヤノの袂に「私たちが育てました」と自分たちの写真が看板のように設置されている。


 現実逃避しすぎて、そんな光景をトールは幻視してしまった。

感想、評価ありがとうございました。

神サマは、当初の予定通りこのままでいきます。

トールくん、頑張れ超頑張れ。

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