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刻印術師とダブルエルフの山奥引きこもりライフ  作者: 藤崎
第二部 育成編

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第七話 中身は……なんでしょう?

「ヨクキタナ」

「ああ。もう分かってるだろうけど、挨拶にな」

「ソウダナ マンガイチタベテシマッテハ コトダカラナ」

「グリーンスライムジョーク、ブラック過ぎない?」


 トールたちが沼に到着すると同時に、グリーンスライムの端末が水面から姿を現した。グリフォンは動じなかったが、ユニコーン二頭はびくりと震える。


 その背から飛び下りる、ひとつの人影。


「ラー!」


 初めて見た摩訶不思議な存在に、カヤノが興奮してグリーンスライムの沼へと駆け出す。

 その聖樹の苗木の首根っこを、素早く動いたダークエルフのメイドが捕まえた。


「さすがに、グリーンスライムに飛び込むのはダメだぞ。溶かされてしまう」

「その台詞はともかく、いい動きだった。ありがとう」


 アルフィエルに感謝しつつ、トールは再びグリーンスライムの端末へと目を向ける。


「というわけで、うちの新入りのカヤノと、ユニコーンたちだ」

「メズラシイモノヲ ミタナ」


 珍しさではグリーンスライムも負けていないはずだが、沼から浮き出た端末が沼の外へと出てくる。まるで、凧のように沼とつながったまま。


 まずはユニコーンの角をかすめるように観察したが、すぐに離れてしまった。どうやら、こちらはグリーンスライムとしては、珍しくなかったらしい。


 続けて、その進路をカヤノへと向けた。


 グリーンスライムの端末が離れ、ユニコーンたちは露骨に安心している。


「ラー!」

「モノオジシナイ コダナ」


 そして、カヤノとくっつくほど至近距離で言葉を交わした。


「シッテハイタガ マッタクアキレルナ」

「それなら、俺のせいじゃないってことも知ってるよな?」

「こら、カヤノ。ぺたぺた触ってはいけないぞ」

「アー!」


 アルフィエルの注意をちゃんと聞き、カヤノはグリーンスライムの端末のあごを撫でるように手を動かす。

 しばらくされるがままになっていたが、やがて満足したのか、グリーンスライムの端末は沼まで戻り……。


「ラー!」


 入れ替わりに、ずどんっと低く重たい音がして、沼から岸辺に一抱えほどある物体が落下した。

 相変わらず乱暴な方法だが、いつも通りと言えばいつも通り。


 とりあえず、カヤノはとても嬉しそうだった。


「……食事を提供する代わりに報酬を与えるという建前が、見事に崩壊しているんだが?」

「ササイナチガイダ」


 とんだ朝貢貿易だ。


 しかし、出された物をそのままにはしておけない。


「鞄……か?」

「スーツケースとまではいかないけど、昔の旅行鞄みたいだな」


 岸辺に転がる、角張った革製の大型鞄。

 黒く、見るからに重たそうで、高級感がある。


「アンティーク製品として、テレビの鑑定番組に出てきてもおかしくない……って、ん? 革製?」

「おかしいですよ。革でできているのであれば、溶けてしまうはずでは?」

「それはつまり、グリーンスライムでは溶けない革なのではないか?」

「ソノトオリダ コレハブラックドラゴンノカワデ ツクラレテイル」


 ドラゴンの鱗や革は耐性はあるが、中身はそうではない。つまり、グリーンスライムに取り込まれたら外側だけを残して消化されることになる。


「モットモ モンスタートタタカウノデハナク ソウジヲスルノガ シゴトダガナ」

「でも、向こうから来たら消化するんだよなぁ」


 無敵過ぎる。


「それはともかく、これはどんな鞄なのだ?」

「とりあえず、開けてみるか」

「開けるのなら、私が!」


 自ら危険を買って出るリン。トールの護衛としては当然の動きだが、エルフの末姫としてはどうなのかと思わなくもない。


「だが、実際に、一番対応力があるのはトゥイリンドウェン姫では?」

「だよなー」


 もちろん、トールもルーンを刻んだ護符があるので身の危険はないに等しいのだが、それはリンも大差ない。

 総合的に見て、リンが適任なのは揺るがぬ事実だった。


 それに、ここでリンの役目をないがしろにしたら、また土下座しかねない。


「……リンが土下座して、なにか支障あるっけ?」

「落ち着け、ご主人。本来は大問題だ」

「はっ」


 それはともかく。


「そもそも、グリーンスライムが変なのを寄越すとは思えないけどな」


 ランダムではあるが、もはやグリーンスライムの意思が働いているのは確定的に明らかだ。そこのところは信頼している。


「俺たちのことを、面白いおもちゃだと思ってるみたいだし」

「ジャスイダ」


 グリーンスライムの端末が即座に否定するが、説得力は欠片もなかった。


「でも、自分のアイテムで面白いことになるといいなとは思っているだろう?」

「ジャスイダ」


 グリーンスライムの端末が即座に否定するが、説得力は欠片もなかった。


「中身は……なんでしょう? 絵の具とテントとガラス……?」

「アー!」

「絵描きの鞄だろうか? それにしては、キャンバスがないようだが」

「もう開けちゃってるよ」


 グリーンスライムの端末と戯れている間に、リンが鞄を開けていた。

 爆発することも変な物が飛び出すこともなく、中身も普通だった。絵の具とテントとガラスに、関連性を見いだせないことを除けば。


「……説明書があるな」


 トールが、リンに覆い被さるようにして、上に置かれた四つ折りの紙を手にする。ざっと広げながら中身に目を通す……が。


「は? マグビーの衣装鞄? 《翻訳》のルーンの誤訳か? それとも、中身が入れ替わった?」


 衣装鞄という名にも関わらず、服などどこにもない。

 しかし、読み進めていくうちに誤訳でも中身が違うわけでもないことが判明した。


「これは、実際に使ったほうが分かりやすそうだ」

「使えるのか?」

「まあ、この中だと俺以外には難しいかな?」


 まずは、リンとアルフィエルに指示を出し、テントを立ててもらう。

 テントといっても、一人用で大きな物ではない。その代わり、高さは大人が立っても余裕がある。


 その間に、トールは絵の具の準備を始めた。


 カヤノは、落ち着きなく見て回ったが、さりげなくグリフォンが鼻先を寄せて邪魔にならないよう誘導している。優秀だ。


「できました!」

「んじゃ、カヤノ。ちょっとこの中に入ってみてくれ」

「アー!」


 カヤノが入った後、その入り口部分に、板ガラスを二枚縦に重ねて立てる。ガラスというよりも、透明なアクリル板に近く、特に苦労はない。


「ラー!」


 閉じ込められて嬉しそうなカヤノは自由にさせて、トールは絵筆を握る。


「絵を描くのか? どこに?」

「そこにさ」


 絵筆の先には、テントに立てかけられたガラスと、その向こうのカヤノがいた。


「カヤノ、動くなよ」

「ラー!」

「動くなって」


 落ち着きのないカヤノが、ぴしっと気をつけの姿勢を取った。代わりに、ぴこぴこアホ毛が動くが、これは許容範囲内。

 そのチャンスを逃さず、トールはガラスの上から絵筆を振るう。


 基調は白の絵の具。

 それが、ガラスの上に広がっていく。


 カヤノの服を、上書きするかのように。


 教育番組っぽいなと思いつつ、手早く完成させる。

 ガラス越しに、セーラー服風のワンピースを着たカヤノが姿を現した。


「顕現せよ」


 トールの言葉と同時に魔力の光が溢れ出て、テントの中のカヤノを包み込む。


 数秒後。


 絵と同じセーラー服風のワンピースを身にまとったカヤノが、そこにいた。


「こういう魔具だそうだ」

「ほう。これは……」

「かわいいです!」

「ラー?」


 あまり変わらないと言えば変わらないのだが、よりファッショナブルな服に、カヤノはその場でぐるぐる回ってスカートの裾をぶわーっとさせる。

 描かれていないはずの背中側も、当然のようにできあがっていた。どういうわけか、トールが思い描いていたデザイン通りに。


「ラー」


 気に入っているかまでは分からないが、少なくとも嫌がってはなさそうだ。


「住居は整って、食も畑を作って……次は、衣服か」

「スキナフクヲ キセテヤルガイイ」

「なるほど。ご主人の趣味が白日の下にさらされるわけだな」

「いや、普通に相手の要望を聞くけど?」

「ええ……?」

「なぜ、そこで嫌がる……いや、言わなくていい」


 トールの色で塗られたかった――などと言われるのは明らかだったから。

なんだか、ひみつ道具みたいになってしまった。

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タブレット&トラベラー ~魔力課金で行ったり来たり~
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