第六話 ガチャ占いかよ
翌日。顔見せのため、トールたちはグリーンスライムの沼へと出発した。
前回は豊穣の鍬を受け取ったときなので、かなり久しぶりという気がする。
実のところ、王都へ行ったりカヤノを迎え入れたためそんな気がするだけで、今までと大してスパンは変わってなかった。
妙に体が軽いトールが率いるメンバーは、リン、アルフィエルに、カヤノ。さらに、グリフォンとユニコーン二匹。現状のフルメンバーだ。
「いつの間にか、大所帯になったもんだ」
ユニコーンの背にまたがってはしゃぐカヤノを眺めつつ、トールは少しだけ感慨に耽る。
一人、リンすら抜きで引きこもり生活を送ろうと思っていたときには、想像もしていなかった状況。
だが、悪くない。単純労働に疲れ、王都を離れたかったというのが本音。別に、他人が煩わしいと思ったからではない。
「まあ、ダークエルフのメイドさんとかエルフの土下座姫と田舎でスローライフとか想像してたら、かなりアレな人間だけどな……」
「ご主人、なにか言ったか?」
「いや、なんでもないよ」
「そうか。なら、いいのだが……」
苦笑しつつ否定するトールに、アルフィエルは優しげに微笑んだ。
「ご主人の足取りが軽いようで、なによりだ」
「はっ」
正面から投げかけられた言葉に、トールは反射的に飛び退った。同時に、顔を背けて肩を抱く。まるで、か弱い乙女のように。
昨日のマッサージ。
詳細は話せないし忘れたいが、忘れられない。そんな経験をしたトールは、思わず身を固くする。
「ご主人、そんな反応をされると……」
「そうですよ。アルフィエルさんも、傷つきますよ?」
「いや。正直、興奮する」
「そこ、もうちょっと猫をかぶろう。な?」
あけすけなアルフィエルに、トールは逆に冷静さを取り戻した。もちろん、そこにはダークエルフのメイドへの信頼感もある……はずだ。
「ご主人。こう考えよう。猫をかぶって、自分はこの程度で収まっているのだと」
「なん……だと……?」
「じ、実力行使はダメですよぅ!」
護衛役であるリンが、トールの身の危険を感じて二人の間に割って入った。しかし、それ以上どうにもできず、固まってしまう。
そんなリンの頭越しに、言葉のボールが飛び交っていく。
「ふふふ。ご主人、忘れられなかったら、いつでも命じてくれて構わないのだぞ」
「ええ? ダメですよ、アルフィエルさん。そんな誘うようなこと!?」
「くっ、アルフィ……。例えこの身は屈しても、心までは……ッッ」
「はうわっ!? トールさん、あくまでもマッサージはマッサージなんですよ!?」
「ご主人、その強がり、いつまで続くかな? ふふふふふ……」
面白がってノリノリで続けるトールとアルフィエルに対し、リンは混乱している。エルフの末姫には、刺激が強すぎたのかも知れない。
「ナー!」
そこに、前方から不機嫌そうな声が飛び込んできた。
先を進んでいたはずのユニコーンたちが立ち止まり、その背に乗っていたカヤノが頬を膨らませてトールたちをにらんでいる。
グリフォンが、ユニコーンたちへ止まるように指示を出したようだ。
「クラテール、ありがとう。ごめんなさい!」
「ぐるるるぅ」
リンに感謝され、こいつら舎弟なんで問題ありませんわと言わんばかりの表情で、グリフォンが答えた。
「悪い、悪い。カヤノのことを忘れてたわけじゃないからな」
トールもカヤノの髪を撫でて、機嫌を取った。ちょっと聞かせられないような話だったのは事実なのだが。
「ラー!」
「お、許してくれるのか。カヤノは優しいな」
「アー!」
あっさり機嫌を直したカヤノとともに、トールたちは再び森を分け入りグリーンスライムの沼へと歩き出す。
「ところで、今回出てくるのは、どんな品になるのだろうか?」
近付くにつれ、自然と話題はひとつに集約される。
「うっ」
気になるが、敢えて考えないようにしていた問題。
その関心事を悪意なく持ち出すアルフィエルに、トールは答えを返せない。というよりは、答えたくない。
下手なことを言うと、現実になってしまいそうだからだ。
「トールさん! 私、思うんですが」
「ん?」
「偶然だとは思うんですけど、なんだか未来を見通して必要な物を渡してくれるような気がしませんか?」
「なるほど。未来を占う要素もあると考えることが可能なのか」
「ガチャ占いかよ」
ガチャで良い結果を導くための信仰はあった。いくつも、いくらでも。
しかし、ガチャの結果から今後のことを占うなど、トールも聞いたことがない。
「というか、それ。媚薬が二連続で出た俺の運勢ってどうなるの?」
「どうと言うと範囲が広いが……」
グリフォンの先導を受けて、少しだけ先を行くユニコーン二頭。カヤノは、前ではなく後ろを向いて、トールたちを見ている。
そのカヤノに手を振りながら、アルフィエルはおもむろに口を開く。
「結論だけ言うと、自分もトゥイリンドウェン姫もユニコーンに乗れなくなる」
「はうわっ。あわわわわわっ」
畏れ多いと、リンがその場に土下座しよう……として、トールがその腰を掴んで引き上げた。この流れは、トールも予想済み。
「ラー!」
その動きには、ユニコーンで先行していたカヤノもご満悦だ。
「そういえば、あのユニコーンは雄と雌のどちらなのだろうか」
「……そもそも、ユニコーンに雌っているのか?」
アルフィエルの質問に、質問で返すトール。
いなければ繁殖はできないはずだが、穢れなき乙女しか乗せないという性質を考えると、どうしても雄のイメージがある。
いや、純潔を求めるのであれば、アルテミスのように女性のほうがふさわしいのかもしれない。
そんな風にユニコーンの生態に思いを馳せていると、通い慣れたグリーンスライムの沼へと到着した。




