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刻印術師とダブルエルフの山奥引きこもりライフ  作者: 藤崎
第二部 拡張編

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第二話 早いということは、いずれ来る明日ということではないか

「間が空いて悪い。こっちも、忙しくてな」

「カマワヌ イママデケミシテキタトキニクラベレバ スウジツナドゴサニモナラヌ」


 いつもの沼に到着すると、歓迎するかのように、人の姿を象ったモノが出現した。中性的で一糸まとわぬ、感情を窺わせない端末。


 無事を確認する言葉がなかったのは、グリーンスライムにとっては分かりきったことだったからだろう。


 グリーンスライムの震動感知は、相当範囲が広いらしい。

 ここからでも、トールの隠れ家の様子はある程度分かるはずだ。


「ダガ チョウドイイ」


 のっぺりとした端末が、くるりと回りながら言う。


「ヒサビサニモンスターヲタベタガ イササカオモスギタ」

「年寄かよ」


 グリーンスライムにもそういうのがあるんだなとある意味感心していると、その横でリンとアルフィエルが余った資材を沼へと投下しだした。


「ウム コウイウノデイイノダ コウイウノデ」

「まあ、お互い得はしてるけどさ」


 問題はないはずなのに、釈然としなかった。


 しかし、それを疑問を感じているのはトールだけ。リンはその場にひざまずき、手をすり合わせて祈り始めた。


「それでは、グリーンスライムさん。よろしくお願いします!」

「おいこら、リン。なにをよろしくお願いした?」

「ご主人、それを聞くのは野暮というものだろう」

「いや、そういう問題じゃない。そもそも、ランダムのはずだろ?」


 ガチャなのだから。

 そこを恣意的な運用をするのは、ガチャの道に反する。


「ドッカンと、変な物を吐き出されたら、たまったもんじゃないぜ」

「だが、希望を抱くのは自由なはずだ」

「まあ、それはそうだけど……」


 そこを認めないほど、トールも無茶苦茶ではない。ルーンが絡まなければ、比較的常識人……のはずだ。


「それに、もう惚れ薬はないだろう」

「そりゃな。さすがに、三度目はな」

「ああ。惚れ薬の次といったら、媚薬だろう」

「び、びびび、媚薬ですか!? あのこう、それはまだ早い。アルフィエルさん、アルフィエルさん! ちょっと時期尚早なのではではないですか!?」

「なにを言っているのだ、トゥイリンドウェン姫」


 慌てふためくリンに対し、アルフィエルは前屈みになって人差し指を左右に振る。

 ちなみにトールはというと、「リンは媚薬がどういう物かは、知ってるのか……」と、現実逃避していた。


「早いということは、いずれ来る明日ということではないか」

「な、なるほど。深い……」

「いや、浅えよ。当たり前のことしか言ってねえよ。感心するところ、どこにもねえよ」


 現実に引き戻されたトールが言うが、通じた試しはない。

 今回も、例外にはなり得なかった。


「そんなことはないですよ、トールさん。私は、すっかり感じ入りました」


 立ち上がったリンが、厳かに言った。

 トールでさえも、いや、だからこそか。普段とのギャップに、思わず息を飲む。


 だが、致命的な事実に気付いてしまった。


「なんか王女らしい雰囲気を醸し出してるけど、媚薬の話だからな?」

「もちろん、そうですよ」

「えー……」

「そもそも、トゥイリンドウェン姫は紛れもなく王女ではないだろうか」


 アルフィエルのもっともなツッコミは、トールだけでなくリン本人にすらスルーされた。時に、真実は不都合なものとなるのだ。


「それに、すぐに使わなくてもいいんですしね。こう、トールさんが完全に善意で助けた女の人といい感じになったタイミングで使うとか、時期を見計らうこともできますよね!」

「前例があるみたいなことを言わないで欲しいんだが……」

「なにをいうのだ、ご主人。前例ならいるさ、ここに一人な」


 クラシカルなメイド服を着たダークエルフが、誇らしげに手を挙げて断言した。


「ああ……。うん。まあ、そうなるのか……。でも、主人公体質みたいに言われても困るというかなんというか……」


 釈然としないが、否定もできず。そもそも、そういうつもりで助けたわけでもない。

 トールは曖昧な笑みを浮かべ……気付いた。


「そもそも、媚薬があるとも出るとも決まってねえじゃねえか」


 そうだ。すべては仮定の話。

 未来は無限大だ。


「心配しないで下さい! この流れなら、グリーンスライムさんも、あれです。トールさんがよく言う空気を読むってやつで期待に応えてくれるはずですよ!」

「心配しかねえよ」

「自分としては、ご主人に使うのではなく、トゥイリンドウェン姫が自身に使って、耐えきれなくなったところをご主人がなんとかしてくれる……という展開のほうがスムーズにいくのではないかとおもっているぞ」

「な、なるほど。深い……」

「具体的にシミュレートするの、止めてもらえますかねぇ!」


 しかも、実際効果的な気がするから性質が悪い。


「ヤハリオマエタチハ オモシロイ ナ」

「日常会話を漫才みたいに言わないでくれ。俺に効く」


 無駄に盛り上がる三人に、グリーンスライムの端末がわざわざ全身をぷるぷる震わせて賛辞を贈った。

 トールは、さめざめと泣くことしかできなかった。


「デハ マタナ」


 そう言って、グリーンスライムの端末がドロドロに溶けて沼に消えていく。


 同時に、グリーンスライムの沼から長い棒状の物が射出された。くるくると回転しながら、地面に食い込む。


「鍬……かな?」


 端末の代わりに残されたのは、一振りの農具。


 惚れ薬でも媚薬でも家具でもない。

 シルエットだけなら、いかにも戦国時代の農民が持っていそうな鍬だった。ただ、実際の構造は柄と刃床部が一体になっている。


「柄まで鉄でできてるから、グリーンスライムに消化されなかったのか……」


 それはいいが、全体が鉄では重すぎて使い物にならないのではないか。

 そう思いながら拾い上げるが、トールは逆の意味でバランスを崩してたたらを踏んでしまった。


「あ、軽い」

「ルーンで軽量化されているのか?」

「いや、ルーンじゃないな。でも、機工術師(エンチャンター)の手は入ってるみたいだ」


 鍬の魔力を読みながら、トールがつぶやく。


「呪いのアイテム的な要素はなさそうだけど……。詳しくは家に帰ってから確認しよう」


 アルフィエルとリンが顔を見合わす。

 トールがアイテムの鑑定ができるなど、聞いたことはなかった。


 しかし、戸惑いはごく短時間。


 トールが言うのだからできるのだろうと、当たり前のように納得した。


 それよりもと、アルフィエルはトールにうなずきかける。


「ご主人、これは天啓だな」

「グリーンスライムの気まぐれとしか思えないんだけど?」


 その意見はもっともだが、アルフィエルの見解は違った。


「家の前に、畑を作るのだ」


 念願が叶ったと言うかのように、アルフィエルは高らかに宣言した。

スローライフなら、農業しなくちゃね!

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タブレット&トラベラー ~魔力課金で行ったり来たり~
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