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刻印術師とダブルエルフの山奥引きこもりライフ  作者: 藤崎
第三部 繰り返し編

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エピローグ

本日は二話同時更新。こちらは、その二話目です。

更新通知などで開いている場合は、前の話からお読みください。

 地の精霊殿での人生を変える一大イベントを経験した、刻印術師とダブルエルフ。


 その後の生活は、当然ながら、変わった部分と変わらなかった部分とがあった。


 変わらなかったのは、住居と同居人たち。


「いやぁ、今日も朝からラブラブだねぇ」

「ラー」


 行儀悪く食卓に肘を突きこちらをみているエイルフィード神も、日記帳を片時も手放さないカヤノも、さすがに寝室こそ別になったが一緒に住んでいる。


 変わったのは、まず、リンの距離感。


「トールさん、トールさん」

「ん?」

「えへへ……。呼んでみただけです」


 アルフィエルが朝食を用意している間、リンはトールの膝に乗って胸板に頬をこすりつけていた。

 まるで、大型犬が飼い主にじゃれているかのよう。


 いや、まるでではなく、そのものか。


 関係がはっきりしたことで、リンから遠慮がなくなった。


 これは、非常に大きな変化と言えるだろう。


「ふふふふふ……。こんな簡単に夢が見れるなんて、すごいですね! 現実! しかも 毎日!」

「言ってることが間違ってるのは分かるのに、反論できない……」


 枷から解き放たれたリンは絶好調過ぎて、たまに手に負えなくなる。


 それが嫌じゃないのは……たぶん、以前から変わっていないはず。


「待たせてすまない」


 アルフィエルが、メイドという立場を維持しているのも変わらないこと


 ただし、食生活は別だ。


「さあ、今日もご主人だけの特別料理だぞ」

「ウナギと、謎の肝……」

「スッポンのストックは切れてしまったのだ。すまない」

「それは全然まったく以て完璧に謝るところじゃないからね?」


 いい加減、飽きた。

 しかし、食べねば保たない。


 保たない。


「大丈夫ですよ、トールさん。喉を通らなくなったら、私が食べさせてあげますから」

「ラー! かーのもすー!」


 スケッチブックを置いて、カヤノも空いてる膝に飛び乗った。

 弟か妹のために必要だと聞いてからは、非常に協力的だ。


「この分なら、神サマの加護なんていらなかったかなー」

「そんなことはないぞ、エイル様。自分たちは、とても勇気づけられている」

「ですです」

「それなら良かった」


 いい話みたいな雰囲気が醸し出されているが、トールは笑うことしかできなかった。


 そのタイミングで、通信の魔具が鳴る。

 言うまでもなく、ウルヒアからの通信だ。


 アルフィエルが、通信の魔具を朝食の準備が整ったテーブルの中央に置く。


「トール、すまないが厄介事だ」

「今のこの状況よりも?」


 リンとカヤノが膝に。

 通信の魔具を置いたアルフィエルは、トールの背中にしなだれかかっている。


 まるで、どこかの魔王のよう。


 ちなみに、エイルフィード神は、ちゃっかりフレームアウトしている。


 そして、ウルヒアはその光景を完全に無視した。


「止めたのだがな、トールの家を客が訪ねることになってしまった。もうすぐ、到着するはずだ」

「客?」

「ああ。どうやら、トールと同郷の――」

「――客人(まろうど)か」


 それはさすがに、放ってはおけない。

 朝食は後回しにして、家の外に出ると……。


 女性が追われながら、家の前の坂道を駆け上がっているところだった。


「どうして逃げるんだ、フミノ! 僕たちは、こんなにキミのことを愛しているのに」


 しかも、女性を追いかけているのは一人ではない。


 いかにも貴公子然とした金髪碧眼の美男子。

 学士風のローブを着た、眼鏡の優男。

 まだ幼いが、愛嬌のある顔をした少年。

 どこか影のある、顔に傷のある剣士。


 いずれ劣らぬきらきらした美形たちが追っているのは、薄紅色のドレスで全力疾走している地味な顔の少女だった。

 いや、若く見えるだけで、実際の年齢はもっと上かもしれない。


「せ、先輩! 助けてください!」

「ご主人、知り合いか?」

「いいやまったく」


 顔にも声にも心当たりはない。

 完全に、赤の他人だ。


「待ってくれ! フミノ! 僕たちの一体、なにが不満だと言うんだ!?」

「ぎゃ、逆ハーはお断りします!」

「逆?」

「ハー?」

「それ、俺の前で言う?」


 一体、なにをやらかしたら、こんな状況になるのだろうか。


 リンとアルフィエルは、一周回って興味深そうにしていた。


 エイルフィード神は通信の魔具を抱えながら不安になるぐらい良い笑顔を浮かべているし、カヤノもたくさんの人が来てテンションが上がっている。


「ウル、説明」

「中原の人間諸国には、母系の国があるらしくてな……」

「あー……。一妻多夫が、普通に認められていると」


 それが嫌で、同郷の客人(まろうど)がいるというこのアマルセル=ダエアに逃げ込んだが……それで一件落着とはならなかった。


「本気で、厄介事じゃねえか……」


 そういうことのようだった。


「外交問題になっても、まあ、どうにかできるといえばできるのだが」

「できるのかよ」

「我が国は食料輸出国であり、軍事大国でもあるからな」

「無敵かよ」


 鬼に金棒どころではない。鬼が戦車でやって来るようなものだ。


「だが、できれば最後の手段にしたいのでな」

「それ、最後は物理的になんとかするって言ってるようにしか聞こえないんだけど……」


 とにかく、無関係だと突っ撥ねるわけにはいかないらしい。


「ご主人、これはつまりこういうことだな?」

「アルフィエルさん、私も分かりましたよ!」

「あ、これ絶対分かってないやつだ」


 トールは、安らかに覚悟を決めた。


「自分たちの仲睦まじいところを見せつけて、ハーレムの良さを分からせれば解決ということだな」

「私たちの最近の得意技ですね!」

「それ、たぶん、彼女の希望とは正反対だと思うんだけど……」


 長いスカートをつまんでこっちに走ってくる彼女には悪いが、あまり期待されても困る。


「とりあえず、話だけは聞こうか」


 トールたちにできることは、それしかなかった。


「ああ。どうせだから、一緒に朝食をとるとするか」

「そうですね! せっかくです、テーブルも外に出しましょう」

「ラー!」

「うむ。ご主人、すまないが応対は任せた」

「ああ。悪いけど、頼むよ」


 トールは、追加の朝食を用意するため家に戻っていくリンとアルフィエルを見送ると、ようやく坂を登り切ったフミノが膝に手を置いてあえいでいた。


「はぁ……はぁ……はぁ……。あの、ほんと、たすけて……」

「まずは、体力の回復からかな」


 トールはGペンを取り出して、《回復》のルーンを刻む。


「あ、ありがとうございます……」

「貴様! フミノを回復してくれたのか。感謝するぞ」

「あー。これ、めっちゃめんどくさそうだ……」


 単純で、近視眼的というわけでもないらしい。

 となると、逆に対処が難しそうだ。ウルヒアとの通信を切ったエイルフィード神がニヤニヤしていることからも、それは明らか。


「これも、トールくんの人徳かな?」

「神様のお墨付きもらっちゃったよ」


 こっそりとつぶやき合う二人。


 長い人生になるが、退屈だけはしそうになかった。


 これからも変わらず、ずっと。

トールくんたちの物語は、これにて閉幕です。

完結記念に感想とか評価をいただけると作者は小躍りして喜びます。


また、(この話の続きとは限りませんが)番外編も更新予定です。

その際には、またお付き合いいただけたら幸いです。


ご愛読ありがとうございました。

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・異世界と地球の両方が舞台の新作です。合わせてお読みいただけると嬉しいです。

タブレット&トラベラー ~魔力課金で行ったり来たり~
― 新着の感想 ―
[一言] 完結おめでとうございます。お疲れ様でした。 相変わらずの面倒が向こうからやってくる体質ですが、 幸せそうで何よりでした。 神サマ、休暇長くね?w
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