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刻印術師とダブルエルフの山奥引きこもりライフ  作者: 藤崎
第三部 繰り返し編

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第十三話 結局、俺の覚悟の問題なのか……?

 考えるとは言ったが、そもそも選択肢はあるのだろうか。


 地の精霊殿をあてどなく歩きながら、トールは根本的な疑問に行き当たった。


「いや、さすがにある……。あるよな……? というか、そういうことにしないとさっきの話は成立してないし」


 無理矢理だが、そういうことにした。


 白亜の神殿の内部は、人の気配がほとんどない。そのため、トールが独り言を口にしながら歩いていても奇異な視線を向けられることはなかった。


 立派な、それこそ地球にあったら世界遺産になっていそうな地の精霊殿だったが、かといってもの悲しさとは無縁。


「けっこんしき、じゅんびかいしなのです」

「いそがしくなるのです」

「たのしみなのです」


 一列になって、何人かで反物を運んでいるノームたちがいる。

 その上を、肉や野菜といった食材をカゴに入れて、飛んでいくノームたちもいた。

 かと思えば、特になにもせずに歌って踊っているノームもいる。


 小さなサンタクロースといった格好のノームたちは、みんな笑顔。活気が感じられ、なにより楽しそうだ。

 カラノルウェンがイベントをやりたがる理由が、よく理解できた。


「それが、俺たちの結婚式だってのが問題なんだが……」


 トールは、行き交うノームたちの邪魔にならないよう壁際に座り込み、その光景を眺めることにした。

 通路すら活気があるのは、少しだけ、夏冬にお台場で行われる祭典に似ていた。


 喧騒が近いのに、トールの周囲だけは静か。

 耳鳴りがして、世界から浮かび上がっているような錯覚を憶える。今のトールは、この世界にとっての異物だった。


「結婚式を拒否する」


 ノームたちを瞳に映しながら、トールは一本指を折った。

 これが、ひとつ目の選択肢。


「この場合、リンとアルフィをがっかりさせる上に、ウルがとんでもないとばっちりを受ける……と」


 冷静になるまでもなく、多くの人に迷惑をかける選択肢だ。

 選択肢として上げておいてなんだが、選ぶのに躊躇する。


 だからといって、それだけで否定してはならない選択肢でもある。それゆえ、カラノルウェンはトールに選択を委ねたのだ。


 本当に嫌なら、選んでもいい……はず。


「結婚式をする」


 ふたつ目の選択肢。


「結婚式はするけど、あくまでもイベントだと押し通す」


 これが三つ目の選択肢となるだろうか。

 同時に、最も当たり障りのない選択肢でもある。


 ノームたちは結婚式をイベントとして楽しみ、カラノルウェンは地の精霊を慰めるという目的を達成できる。

 リンとアルフィエルも、残念がるだろうが、ある程度は満足してくれるだろう。

 ウルヒアも、全面的に救われる。


 トールとしても、まず満足できる落としどころだ。


「でもな……」


 普通に考えれば、お遊びとして処理するのが一番だ。

 本物にしてしまうのは、いくらなんでも性急すぎる。


「なんか、引っかかるんだよなぁ……」


 壁に後頭部をぶつけて、トールは真っ白な天井を見上げる。


 思い浮かぶのは、結婚式と聞いて気絶したリンのこと。

 カラノルウェンから“義妹”と呼ばれて驚くアルフィエルのこと。


 それから、オリハルコンの指輪のことを聞いて乙女のように陶然とする二人のこと。


 時期尚早だ。


 それは嘘偽りなくトールの本音だが、裏返せば時期が来ればそうなるのもやぶさかではないという意味であり……。


「結局、俺の覚悟の問題なのか……?」


 分からなくなって、トールはぐしゃぐしゃっと髪をかき乱した。


 そのまま、しばらくうめいていた……かと思うと不意に手を止め、かっと目を見開いた。


「よし。スケッチしよう」


 ノームたちが行き交う、こんな面白い光景を残さないなんてあり得ない。

 マンガのネタになるかどうかは分からないが、カヤノとの交換日記のネタにはなるだろう。


 それよりもなによりも、手を動かしていたほうが落ち着いて考え事ができる。カラノルウェンの胸の中よりも、ずっと。


 念のため持ち歩いていたスケッチブックを取り出して、一心不乱に筆を走らせた。

 その集中力はすさまじく、白い紙の上へ、瞬く間に眼前の光景が写し取られてく。


 それ自体が、この地の精霊殿に負けず劣らず不可思議な光景。


「うまいものなのです」

「でも、しょうぞうけんは、どうなるのです?」

「みんなおなじかおで、しょうぞうけんとはいったい?」


 スケッチに気付いたノームがのぞき込んでくるが、トールは気にしない。というよりは、気付いていない。


 一枚描き終えると、即座にスケッチブックのページをめくって次に取りかかる。


 こうして満足するまで描いたトールは、床に鉛筆を転がしつぶやく。


「結局、あれか」


 全部、お膳立てされている。

 トールの意思に任されたようで、ほとんど介在する余地が無い。


「当事者のようで、当事者じゃないんだな」


 ノームも「ものごとをいちばんたのしむのは、とうじしゃになることです」と言っていたのに、ゲスト扱いだった。


 これが、迷いの源。


 余計なお世話を、余計なお世話だと言えなくてもやもやしていたのだ。


「でも、今になって俺が積極的に関与なんてできるか?」


 式の進行はカラノルウェンが行うのだろうし、そもそも新郎新婦が関わる部分でもない。

 ウェディングドレスも、指輪もノームたちが用意する。特に、指輪はオリハルコン関連で大盛り上がりだ。


 それなら、独自のなにかを付け加えるべきだろうか? それは一体なんだろう?


「いや、指輪……オリハルコン……衣装……」


 このとき、トールに天啓が降りた。

 もしかしたら、エイルフィード神の悪知恵かもしれないが、この際、それでも構わなかった。


「そうか。いける……? いけるか……?」


 いける、いけないではない。


 やるのだ。


 トールは、その辺のノームを捕まえて指輪を作るノームたちの居所を聞き出すと、言い捨てるように礼だけ口にして走り出していった。


「これがわかさなのです」

「ふりむかないのです」

「きぼうはまえにあるのです」


 ノームたちの言葉は、聞こえなかったことにして。

覚悟、決めました。

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