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第一話 さすがに、一回も目を合わせようとしないのはおかしいだろ

 寝起きにカヤノと仲違いしてしまい、王都で仲直りのためのアイテムを手に入れ、帰ったらヴァランティーヌ神が降臨していた……上に、原稿の催促までされた翌朝。


 それでも一晩しっかり寝て回復したトールは、次なる問題に直面していた。


「ごちそうさま。今日も美味しかったよ」

「そうか。なによりだ」


 アルフィエルが嬉しそうに笑って、食べ終えた食器をまとめている。


 いつも通りの光景……だが。


「……あれ?」

「ご主人、どうかしたか?」

「いや……なんでも……」


 トールの返答は、尻すぼみに小さくなって消えてしまう。

 それを問い質すでもなく、アルフィエルは席を立って台所へと移動した。


「……アルフィに、なにかあったのか?」


 皿を片付けるため居間からダークエルフのメイドがいなくなったのを確認しつつ、トールはリンの耳に口を寄せる。


「ふえあっ……」


 予期せぬ急接近に、エルフの末姫は奇声を上げた。

 この程度の不意打ち、本来の実力を考えれば通用するはずがない。だが、トールに対してだけは例外。


「こっ、このままでは死ぬっ。死んでしまいますっ。でも、ここで離れるわけには……ッッ。はっ!? これが、トールさんの仰っていた、命捨ててこそ拾う瀬もあれですかっっ!?」

「いや、命は捨てないよ? 脳が一気に薩摩っぽくなってるじゃねえか」


 秘密の話とはいえ、確かに距離が近すぎた。

 トールは反省しつつ、リンから離れる。視界の隅で、以前プレゼントしたイヤリングが揺れた。


 ついでに、ニヤニヤしているエイルフィード神とカヤノも。


「ほらほら、見世物じゃないんだから」

「えー? 勝手に神サマたちの目の前でイチャコラして、それはなくなくない?」

「ラー! かーの、にっきかう!」


 エイルフィード神の戯言は聞き流すとして、カヤノが日記に描くと、早速ネタができて喜んでいるのはどうしたものか。将来有望すぎないだろうか。


 トールは教育方針に思い悩むが、今はアルフィエルが優先だ。


「だって、実際アルフィおかしかったでしょ?」

「いつも通り、朝ご飯は美味しかったよ? 早速産んでくれた卵を使ったオムレツは半熟で神サマ好みだったし」

「ラー! マー、いーもーどおり!」


 トールの疑念に、二人は首を横に振った。


 カヤノは素直に。

 エイルフィード神は、若干の含みを持たせて。というよりも、トールの質問には直接答えていない。


「リンは、どう思う?」


 片付けと並行して食後のお茶を淹れているため、アルフィエルが戻って来るまでにはもう少し時間がかかる。

 その間に、トールは再びリンに尋ねた。


 ある意味、アルフィエルに最も近いのがリンだ。なにか知っていてもおかしくない。


「体調が悪いとか、そういう感じしなかった?」

「わ、私も全然普通にいつも通りのアルフィエルさんだと思っていましたが? ぎゃ、逆に、トールさんは、どこがおかしいとお思いになられていたりなんかするわけですが?」


 おかしいと言えばリンもおかしいのだが、これはある意味いつも通りなのでカウントされない。


 トールは、ちょっと不服そうに腕を組んで答える。


「どこって……。さすがに、一回も目を合わせようとしないのはおかしいだろ」

「あ、あれ? はははは。そうでしたか? 私は、全然気付きませんでした! ほほほほ、本当ですよ! 聖樹様……ではなく、ウルヒア兄さまに誓って!」

「神サマとは、普通に目を合わせてたけどねぇ」

「ラー!」

「俺だけ?」


 そうなると、アルフィエルがおかしいのではなく原因はトール自身ということになるのだろうか。


 思い当たるところは……あった。


「交換日記の件を適当にはぐらかしたから? それとも、お土産が不満だった……?」


 ニワトリを除く土産物は、馬車に積んだままだ。なので、不満以前にまだ渡せていないというのが現状。


「でも、あのアルフィがその程度で怒るか……?」


 今までのダークエルフのメイドの反応を考えると、どうにも違和感が拭えない。

 もっと、重大なミスを犯しているような。最初から、ボタンの掛け違いをしているような。

 そんな不吉な予感が、トールの背筋を駆け上がっていった。


「そうなると……」

「トールさん、気付いたんですか!?」

「知らなかったとはいえ、ヴァランティーヌ神の相手を任せることになった件だろうか……」


 リンが、思いっきりテーブルに頭をぶつけた。ヘッドスライディングしたと表現したくなるぐらい見事に。

 しかし、ダメージを受けた素振りも見せずに昂然と顔を上げた。


「それは、トールさんが完璧に解決しましたよ!」

「え? あれで?」


 誤解も解けなかったし、単純に時間切れで帰っていっただけではないだろうか。

 どれだけ記憶を掘り返しても、なにかをしたとは言えない。


「トールさんが戻ってきてくださって、どれだけ心強かったことか。その上、ヴァランティーヌ神であろうとまったく臆さず対応するそのお姿は、カヤノちゃんが絵日記に残すほどです!」

「ラー!」

「いやいや、残すならヴァランティーヌ神のほうじゃないの?」


 とりあえず、違うらしい。


「お待たせした」

「あ、ありがとう」


 そこに、食後の紅茶を淹れてアルフィエルが戻ってきた。

 反射的にお礼を言ってから、思わず凝視してしまう。


 ぱっちりとした大きな瞳。すっと通った鼻梁。これ以上厚すぎるとバランスが狂ってしまう……と言うギリギリのラインを保っている唇。


 それらがこれしかないというバランスで整った、美貌。


 その事実を知ったからだろうか。王族の気品も感じられる。

 いや、逆に納得させられた。


 これだけ綺麗なアルフィエルが、ただのダークエルフであるはずがないだろうと。


「どうかしたのか?」

「ああ……。いや……そうだ。王都から持って帰ってきたお土産の整理を手伝って欲しいかなって」


 言い訳代わりに出てきたお願いだが、言ってから悪い手ではないことに気付く。

 作業中にタイミングを見計らって、直接尋ねてしまうのだ。


 もちろん、微妙な態度を取っているアルフィエルが受けてくれるかは別問題なのだが……。


「承知した」

「あれ? いいの?」


 あっさり肯定されて、トールは逆に戸惑った。


「自分が、ご主人の願いを聞かないはずはないだろう?」


 そう言って笑うアルフィエル。

 いつも通りのようだったが……やはり、言葉にできない違和感があった。

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