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刻印術師とダブルエルフの山奥引きこもりライフ  作者: 藤崎
第三部 成長編

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第十二話 エイルさんにも、なにかお返ししないとなって思っただけだよ

「ん? どしたのトールくん? 神サマのことじっと見て」

「ああ……。ちょっと……」


 どう説明したものかと悩んでいると、エイルフィード神はクリームでてかった唇を妖艶に歪めた。


「もしかして、神サマのことす――」

「それはない」

「――きに、なっちゃったとか?」

「否定したよな! 誤解の余地なく!」


 思わずテーブルを叩いてしまい、ワインが揺れる。

 やってしまったとトールが顔をしかめるが、対面のエイルフィード神は泰然自若。


「でもね、そういうのダメだよ。トールくんには、リンちゃんもアルフィちゃんもいるんだからね?」

「否定したのに、断られてる!?」


 ちょっとどころではなく、意味が分からなかった。

 催眠術などとはわけが違う。天空神の恐ろしさの片鱗を味わわされた気分だ。


「やるなら、ばれないようにこっそりとね」

「しかも、不倫に誘われてるんだけど。誰一人として既婚者いないのに」


 トールは悟った。

 エイルフィード神に隠し事などできないのだと。


「あれだよ。エイルさんにも、なにかお返ししないとなって思っただけだよ」

「神サマに? へえ……」


 パンケーキを食べる手を止め、エイルフィード神がぺろりと唇を舐める。


 艶めかしく、生々しい所作。

 相手があの“エイルさん”だと分かっていても、どきりとさせられてしまう。


「はっきり言って、神サマは感謝され慣れしてるからね?」

「神様は言うことが違うぜ」


 だが、まったくの正論。

 これほど、日々感謝され祈りを捧げられている存在は他にあるまい。


「そんな神サマにトールくんは、なにをくれるのか。大いに興味アリだねっ」

「とりあえず、ここの支払いを持つということで」

「えー? でも、トールくんは本当にそれでいいのかな?」


 瞳にイタズラっぽい輝きを宿し、エイルフィード神は猫のように問う。


 トールは、目を背けることしかできなかった。


 そもそも、エイルフィード神はお金など持っていない。トールが支払わなければ、よく分からないカリスマでうやむやにするだけだろう。


 つまり、無銭飲食だ。


「カヤノのことが一段落したと思ったら、もっと面倒くさい問題に悩まされることになってる……」

「なんで、トールくんの周囲はめんどくさい人間関係しかないんだろうねぇ」

「それ、張本人の一人が言う!?」

「ふふり。心に棚を作るのは、神サマの得意技のひとつだからね」

「なんて最悪の神だ」


 どうして、こんなのを地上に解き放ってしまったのかと、トールは天を仰ぐ。

 無論と言うべきか、天上からの答えはない。


 それどころか、誰もなにも答えてはくれない。


「ほらほら。あれなら別に、候補から外した宝石とかでもいいんだよー」

「それは……。なんか、普通にプレゼントするのは違うかなって」

「ンフフフフ。トールくん、神サマのことをよく見ているね。嬉しいなー」


 相手は、一応限りなく主神に近い存在。

 欲しい物があれば、片手間に創造できてしまう。


 それでも、ハンドメイドや心を込めたプレゼントであれば別だろうが、実際はともかくとして、トールにそこまでの気持ちはない。


「じゃあ、トールくんはどうするのかな?」

「だから悩んでるわけで」


 残ったワインを飲み干して、トールは考える。


 お酒というのは、ありかもしれない。しかし、このエイルフィード神が酔ったら、なにをするか分からなかった。

 最悪、酔った振りをしてなにかをする可能性も考えられる。


 結論、さらに手が付けられなくなる。


「じゃあ……。毎日、感謝の祈りを捧げてみるとか? リンとかも一緒に」

「えー? そういうのは、像にやってよ。神サマ、偶像崇拝とか大いに認めちゃう派だし」

「残念。リンのお祈りのパワーとかすごそうだなと思ったんだけど」

「うん。神サマも、そう思うけどね……」


 エイルフィード神が求めているのは、そういうものではないらしい。


「……ふと思ったんだけど、こういうバカ話をしている時点で、すでにエイルさんの利益になっているのでは?」

「家に居場所のない、寂しいお父さんみたいな扱い!?」

「そもそも、エイルさんってただの居候だよな……。むしろ、俺が感謝される側なのでは?」

「くくくく。いいよ! ちょっと神サマの神殿行って、お布施とか回収してくるから!」

「ヤメテ」


 本神が自ら賽銭を回収に来るなど、前代未聞にもほどがある。

 そもそも、どうしてこの世界の女性はトールに貢ぎたがるのか。


「もう、面倒くさいから、肩たたき券とかでいい?」

「う~ん。もう一声」

「なら、俺がある程度の言うことを聞いてあげる券とかは?」

「あれー? なんでも言うことを聞く券じゃないの?」

「ある程度だよ、ある程度」


 なんでもなんて、怖くて渡せる物ではない。


「ある程度だからな。必ず、俺の同意を得るように」

「ンフフ。ルールの穴を突けっていってるんだね?」

「もうちょっと、言葉を素直に解釈しよう?」


 無茶なことをさせないためのルールなのに、穴を突いたり裏をかいたりしてどうするというのか。


「そっちがそのつもりなら、こっちも言うことを聞くだけとかできるんだぞ?」

「そこでトラップカード発動! リンちゃんとアルフィちゃんの目の前で、彼女たちと距離を進めろ的な命令をしちゃうよ」

「カヤノの教育に悪すぎる……」


 トールは、そう言い返すのが精一杯。


 勝てない。


 この天空神には、なにをしても勝てない。


 師匠とは違う意味で性質も相性も悪い。悪すぎた。


「じゃあ……。お返しに、なにをしてもいいチケットはいかが?」

「お返しになってなくない?」

「違う違う。もちろん、神サマになにをしてもいい券だよ?」

「殺す気……?」


 姉大好きっぽいマルファ神に知られたら、生きてはいられないような気がする。


 そして、これはやや異なる形ながら、実証されることになる。


 このあと、家に帰ってすぐに。

エイルさん編、予定より長くなりましたがもう少しで終わりです。

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タブレット&トラベラー ~魔力課金で行ったり来たり~
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