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刻印術師とダブルエルフの山奥引きこもりライフ  作者: 藤崎
第三部 成長編

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第八話 まあまあ、神サマのためにやってる部分もあるから

カヤノの爆弾処理のため、なぜか神サマとのデートイベントが始まります。

「トールくんと二人でお出かけなんて、初めてだねぇ」

「エイルさんは、お出かけ自体が初めてなのでは?」

「そうだよ」


 一番遠出して、グリーンスライムの沼だろうか。ほぼ引きこもり状態だ。


「さすがに、今回はあのグリーンスライムに頼るわけにはいかないもんね」

「今までに、一度として頼ったことはないんだけど」


 感謝をしたことがないではないが、まあ、そういうことだ。


「だから、まあ、誘ってくれて助かりました。本当にありがとうございます」

「まあまあ、神サマのためにやってる部分もあるから」


 トールが過度に気にしすぎないよう、エイルフィード神はさわやかな笑顔を浮かべて手を横に振る。


「でも、神サマのデート処女は、トールくんのものだよっ」

「そういうの、なんか重たい」


 トールの冷たい対応に、御者台に並んで座るエイルフィード神がぶるりと体を震わせた。

 その頬は、わずかに赤く染まっている。


「最初は珍しい対応に新鮮な気持ちで楽しんでいただけなんだけど、最近はちょっと気持ちよくなってきたかもしれない」

「描けないことを増やして、逆に報告を妨げる作戦なの!?」


 馬車が揺れ、体が浮きかけた。

 だが、それ以上の勢いでトールは立ち上がる。


「ふふり。そうかもしれないし、そうではないかもしれない」

「ガンダルフ気に入っちゃったかー」


 是非作戦であって欲しいが、エイルフィード神に関しては、トールの期待は常に裏切られている。

 正直なところ、望み薄だった。


「別に、神サマとしては報告されても構わないけどねー」

「休暇が終わったら、めっちゃ怒られるんじゃ?」

「そのときはそのときだよ」

「飾らない人だー」


 これが事実上の主神の言葉である。

 御者台に座り直したトールは、隠すことなくため息を吐いた。


 上を見れば、さわやかな青空。

 太陽がさんさんと降り注ぎ、まるで前途を祝福しているかのよう。


 そんな中、ユニコーンがひく馬車が王都への道を順調に進んでいた。


 乙女しか背に乗せることはないが、乙女の親玉のような存在がいるので、御者がトールでも問題はない。

 というよりは、勝手に進んでいる。


 しかも、自動車並みのハイペースで。この分なら、昼頃には王都に到着するだろう。


「まあ、神サマの素行はともかく」

「そこは、ちゃんと自覚あるんだな」

「カヤノちゃんには、なにを買って帰ろうか」

「それだよなぁ」


 絵日記の存在を暴露されたカヤノは、完全にへそを曲げてしまった。非はトールにあるため、アルフィエルも怒るに怒れない。

 食事すら拒否する異常事態に、トールはエイルフィード神だけを連れて王都へとユニコーンの馬車で向かっていた。


 アルフィエルはともかくリンはついて来たがったのだが、エイルフィード神がいる以上護衛は不要。

 忙しいダークエルフのメイドに代わって、カヤノの面倒を見てもらうために残ってもらった。


「カヤノだけじゃなく、アルフィとリンにも、お土産は必要だし……」

「そして、晩ご飯までには帰りたいよね」

「あれー? なんで、俺こんな追い詰められてるんだろ?」

「失言したからじゃない?」

「俺は、いつの間にどっかの国の大臣になっていたんだ……」


 ユニコーンの馬車とすれ違い、驚きでぎょっとするエルフの商人のことなど気付かず、トールは嘆いた。


「トールくんも、大変だよねぇ。リンちゃんとか、帰り道に拾った石とかでも喜びそうだから、逆に難しいし」

「それ、リアルに想像できすぎるから止めて」


 本気で嫌そうなトールに、エイルフィード神は今回ばかりは気の毒そうな視線を向ける。


「そうか。経験あるんだね……」

「石は渡してないぞ、石は」


 ある日。トールは一人で街へ出たが、お土産など買ってこなかった。

 後悔しても、後の祭り。

 食べ終えた肉の串ぐらいしかないと申し訳なさそうに言ったら、喜んで受け取られそうになった。


 それだけだ。


「で、誘ったのは神サマだけど、目星ぐらいはついてたりするの?」

「全然まったくこれっぽちも。子供に、どんなプレゼントしていいのか分からない」


 アルフィエルと、結果としてリンにも贈ったようなアクセサリーは、まだ早いだろう。

 かといって、お菓子やおもちゃ……というのは、なにか違う。それに、王都で手に入る物だったら、自作したほうが質は高い。


「露骨に子供扱いは、神サマどうかと思うなー」

「確かに、子供だましは逆に子供には通じないものだけど……」


 発想の転換が必要かもしれないと、馬車に揺られながらトールは考え込む。


「……カヤノを喜ばせるというよりは、俺の謝罪の気持ちが伝わるようなののほうがいい……か?」

「だねぇ」


 左手で、吹く風を握るようにしていたエイルフィード神がうなずく。


「素直に許したくなるようなプレゼントがいいと思うな」

「抽象的すぎる」

「でも、重要だよ。カヤノちゃんも許したいと思ってるはずだからね」

「むむむ……」


 確かに、怒りは持続しないものだ。時間が経って落ち着けば、そういう気持ちになるかもしれない。

 むしろ、エイルフィード神は、それを狙って王都行きを提案したのだろう。


「エイルさん、やるときはやるなぁ」

「ふふり。滅多にやらないけどね! 神サマは休暇中だから!」

「まあ、神と医者と軍人と警察は暇なほうがいい……のか?」


 あとは、消防士とかもそうかな。


 神とそれらを同一に並べるのもどうかと思うが、間違ってはいないだろう。そもそも、神の仕事というのが分からないが。縁結びだろうか?


「そして、アルフィちゃんとリンちゃんへのお土産は、カヤノちゃん以下じゃないといけないわけだ」

「ハードル高い……」


 唯一の安心材料は、資金の心配がないことだろう。


 その後も、ああでもない、こうでもないと話し合うが、これといった妙案は出てこない。


「店とか市場で現物を見つつ、決めるしかないか」

「そういう前向きな先送り、神サマは結構好きだよ」

「エイルさんに好かれてもなぁ」


 結局、考えがまとまらないまま、トールたちは王都に到着した。

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タブレット&トラベラー ~魔力課金で行ったり来たり~
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