第八話 まあまあ、神サマのためにやってる部分もあるから
カヤノの爆弾処理のため、なぜか神サマとのデートイベントが始まります。
「トールくんと二人でお出かけなんて、初めてだねぇ」
「エイルさんは、お出かけ自体が初めてなのでは?」
「そうだよ」
一番遠出して、グリーンスライムの沼だろうか。ほぼ引きこもり状態だ。
「さすがに、今回はあのグリーンスライムに頼るわけにはいかないもんね」
「今までに、一度として頼ったことはないんだけど」
感謝をしたことがないではないが、まあ、そういうことだ。
「だから、まあ、誘ってくれて助かりました。本当にありがとうございます」
「まあまあ、神サマのためにやってる部分もあるから」
トールが過度に気にしすぎないよう、エイルフィード神はさわやかな笑顔を浮かべて手を横に振る。
「でも、神サマのデート処女は、トールくんのものだよっ」
「そういうの、なんか重たい」
トールの冷たい対応に、御者台に並んで座るエイルフィード神がぶるりと体を震わせた。
その頬は、わずかに赤く染まっている。
「最初は珍しい対応に新鮮な気持ちで楽しんでいただけなんだけど、最近はちょっと気持ちよくなってきたかもしれない」
「描けないことを増やして、逆に報告を妨げる作戦なの!?」
馬車が揺れ、体が浮きかけた。
だが、それ以上の勢いでトールは立ち上がる。
「ふふり。そうかもしれないし、そうではないかもしれない」
「ガンダルフ気に入っちゃったかー」
是非作戦であって欲しいが、エイルフィード神に関しては、トールの期待は常に裏切られている。
正直なところ、望み薄だった。
「別に、神サマとしては報告されても構わないけどねー」
「休暇が終わったら、めっちゃ怒られるんじゃ?」
「そのときはそのときだよ」
「飾らない人だー」
これが事実上の主神の言葉である。
御者台に座り直したトールは、隠すことなくため息を吐いた。
上を見れば、さわやかな青空。
太陽がさんさんと降り注ぎ、まるで前途を祝福しているかのよう。
そんな中、ユニコーンがひく馬車が王都への道を順調に進んでいた。
乙女しか背に乗せることはないが、乙女の親玉のような存在がいるので、御者がトールでも問題はない。
というよりは、勝手に進んでいる。
しかも、自動車並みのハイペースで。この分なら、昼頃には王都に到着するだろう。
「まあ、神サマの素行はともかく」
「そこは、ちゃんと自覚あるんだな」
「カヤノちゃんには、なにを買って帰ろうか」
「それだよなぁ」
絵日記の存在を暴露されたカヤノは、完全にへそを曲げてしまった。非はトールにあるため、アルフィエルも怒るに怒れない。
食事すら拒否する異常事態に、トールはエイルフィード神だけを連れて王都へとユニコーンの馬車で向かっていた。
アルフィエルはともかくリンはついて来たがったのだが、エイルフィード神がいる以上護衛は不要。
忙しいダークエルフのメイドに代わって、カヤノの面倒を見てもらうために残ってもらった。
「カヤノだけじゃなく、アルフィとリンにも、お土産は必要だし……」
「そして、晩ご飯までには帰りたいよね」
「あれー? なんで、俺こんな追い詰められてるんだろ?」
「失言したからじゃない?」
「俺は、いつの間にどっかの国の大臣になっていたんだ……」
ユニコーンの馬車とすれ違い、驚きでぎょっとするエルフの商人のことなど気付かず、トールは嘆いた。
「トールくんも、大変だよねぇ。リンちゃんとか、帰り道に拾った石とかでも喜びそうだから、逆に難しいし」
「それ、リアルに想像できすぎるから止めて」
本気で嫌そうなトールに、エイルフィード神は今回ばかりは気の毒そうな視線を向ける。
「そうか。経験あるんだね……」
「石は渡してないぞ、石は」
ある日。トールは一人で街へ出たが、お土産など買ってこなかった。
後悔しても、後の祭り。
食べ終えた肉の串ぐらいしかないと申し訳なさそうに言ったら、喜んで受け取られそうになった。
それだけだ。
「で、誘ったのは神サマだけど、目星ぐらいはついてたりするの?」
「全然まったくこれっぽちも。子供に、どんなプレゼントしていいのか分からない」
アルフィエルと、結果としてリンにも贈ったようなアクセサリーは、まだ早いだろう。
かといって、お菓子やおもちゃ……というのは、なにか違う。それに、王都で手に入る物だったら、自作したほうが質は高い。
「露骨に子供扱いは、神サマどうかと思うなー」
「確かに、子供だましは逆に子供には通じないものだけど……」
発想の転換が必要かもしれないと、馬車に揺られながらトールは考え込む。
「……カヤノを喜ばせるというよりは、俺の謝罪の気持ちが伝わるようなののほうがいい……か?」
「だねぇ」
左手で、吹く風を握るようにしていたエイルフィード神がうなずく。
「素直に許したくなるようなプレゼントがいいと思うな」
「抽象的すぎる」
「でも、重要だよ。カヤノちゃんも許したいと思ってるはずだからね」
「むむむ……」
確かに、怒りは持続しないものだ。時間が経って落ち着けば、そういう気持ちになるかもしれない。
むしろ、エイルフィード神は、それを狙って王都行きを提案したのだろう。
「エイルさん、やるときはやるなぁ」
「ふふり。滅多にやらないけどね! 神サマは休暇中だから!」
「まあ、神と医者と軍人と警察は暇なほうがいい……のか?」
あとは、消防士とかもそうかな。
神とそれらを同一に並べるのもどうかと思うが、間違ってはいないだろう。そもそも、神の仕事というのが分からないが。縁結びだろうか?
「そして、アルフィちゃんとリンちゃんへのお土産は、カヤノちゃん以下じゃないといけないわけだ」
「ハードル高い……」
唯一の安心材料は、資金の心配がないことだろう。
その後も、ああでもない、こうでもないと話し合うが、これといった妙案は出てこない。
「店とか市場で現物を見つつ、決めるしかないか」
「そういう前向きな先送り、神サマは結構好きだよ」
「エイルさんに好かれてもなぁ」
結局、考えがまとまらないまま、トールたちは王都に到着した。




