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刻印術師とダブルエルフの山奥引きこもりライフ  作者: 藤崎
第三部 成長編

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第四話 今日は、楽しい夢が見れそうだね

「ところで、ご主人」

「あ、今なんかすっごい嫌な予感がする」


 夜。

 住人たちが、森の中というトールの部屋に集まっている。


 就寝前の、穏やかな一時。


 その中で、またしてもと言うべきか、名実共に家長となったはずのトールが、アルフィエルに追い詰められていた。


「嫌な予感? なんの根拠があるのだ?」

「根拠がないのが予感なんじゃないかなぁ」


 座ったまま藁のベッドの上で後ろに下がると、その分、四つん這いのアルフィエルが距離を詰める。

 その度に、ダークエルフのメイドたわわに実った胸が揺れ、クラシカルなメイド服の隙間が実に悩ましい。


 リンもカヤノもエイルフィード神もいるが、いけない。これはいけない。


 ただでさえ、褐色の肌が朱に染まって得も言われぬ色香を発散しているというのに。


「自分は、ただ確認したかっただけだ」


 しかし、アルフィエルは冷静そのもの。

 完全にいつも通りの調子で、トールに問いかける。


「これは、逆に意外とまともな内容だったというオチが――」

「いつになったら、同衾は解禁されるのだ?」

「――なかった。知ってたけど!」


 もちろん、トールにとっては寝耳に水。

 同衾と解禁。微妙に韻を踏んでいるのが、かなりあれだ。


「というかなんで、いずれ許されるのが前提という話に?」

「???」

「本当に心底意味が分からないってリアクション止めよう?」


 トールは無力感に苛まれた。


「トールくんさあ、それはさすがに通らないと思うよ?」

「通りますよ。全然、アンパイでしょ」

「ないなー。トールくん、現状認識甘いよ?」


 あと、ハンモックで寝っ転がっているエイルフィード神がニヤニヤしてうざかった。


「なあ、ご主人」

「あ、はい」


 まるで教師が生徒を教え諭すような表情と口調に、トールは思わず背筋を伸ばして正座してしまった。

 リンなら、この時点で土下座だろう。


「同じ部屋で寝ることまで許して、それはないと思わないか?」

「俺が呼び込んだみたいになってるんだけど!?」


 トールの記憶が正しければ、エイルフィード神の寝室がないために、どさくさ紛れで無理矢理強行されたはず。

 そして、それは混じりっけなしの100パーセント事実。


「だよねぇ。ここまで許しておいて、一緒のベッドはNGって生殺しだよね?」

「うむ。天の神様の言う通りだ」

「天の神様なのは間違ってない。間違ってないけど……」


 エイルフィード神の存在そのものが間違いだと、トールは叫びたい。


「トゥイリンドウェン姫も、そう思うだろう?」

「ふえぇっ!?」


 少し離れた場所にあるリンとアルフィエルのベッドで成り行きを見守っていた、エルフの末姫。突然話を振られ、ベッドの上で飛び上がった。


「わた、私はその……」

「リン、信じてるぞ」

「トゥイリンドウェン姫、遠慮する必要はないぞ。欲望を解放するのだ」

「えっ、えうっ、えええええ?」


 なぜかいきなり、キャスティングボートを握らされてしまったリン。


 真剣なトール。

 真剣と表現するには鬼気迫っているアルフィエル。

 ニヤニヤしているエイルフィード神。

 スケッチブックに、クレヨンで絵を描き続けるカヤノ。


「はうっ。あう……。あわわわばばば……」


 いくつもの視線に晒され、リンはシステムエラーを起こしてしまった。体がぶるぶると震えている。

 すがるように、トールから贈られたイヤリングに触れた。完全に、無意識の行動。


「……あ、そうです!」


 直後、その脳裏に天啓が走る。


「お、お互いのですね? べ、ベッドをくっつけるというのは、どうでしょう?」


 穏当な妥協案。

 それは、この場においては名案と同義だった。


「まあ、それくらいなら……」

「ふうむ。刻んでいくべきか」


 これならば、双方ともに受け入れやすい。


「……そもそも、俺が妥協する必要ってあったっけ?」

「さあ、ベッドを運ぶぞ。トゥイリンドウェン姫、悪いが手伝ってくれ」

「はい! 私の命に代えても!」

「そこまで気合いを入れるもんじゃないだろ?」


 リンの勢いに、トールは逆に脱力してしまう。

 手伝うと認めてしまうようであれなのだが、かといって、前言を翻す気にもなれなかった。


 どうせ聞き入れられないだろうというのもあるし。


「らー?」


 騒ぎに参加せず、じっとこちらを見ているカヤノのほうが気になっていたというのもあった。


「いや、なにを描いてるのかなって」

「パー! ナー!」


 パパだめと、カヤノがスケッチブック越しに、拒絶した。

 娘の視線が気になっていたトールは、目に見えて意気消沈する。


 父親がこんなに辛いものだとは知らなかった。


「さあ、トゥイリンドウェン姫。寝相が悪い振りをして、ご主人のベッドへ乱入する準備はできたか?」

「ええっ。そんなオプションが!?」

「ねーよ!」

「でも、でも、アルフィエルさん! それって、はしたない女の子だと思われてしまうのではないでしょうか!?」

「ならば、寝ぼけてベッドを間違えるという手もあるぞ」

「あ、それなら」

「それならじゃねえよ」


 お互いのベッドの高さも微妙に違うのだ。

 転落防止の衝立を用意すべきだろうと、トールは決意する。できれば、よじ登れないほど高く、ベッドの四方をぐるりと囲めるようなものがいい。


「……それなら、師匠の牛車を持ち込んで、その中で寝ればいいのか?」


 ちょっとしたキャンピングカーだ。それはそれで楽しそうではある。

 レアニルが聞いたら、憤死しかねないが。


「それはそれで、次の問題が発生すると神サマは思うな。あの中だと、逆に逃げ場ないよね?」

「入ってこられるのが前提って、おかしくないです?」

「よし。話もまとまったし、そろそろ寝よう? 今日は、楽しい夢が見れそうだね」

「エイルさんの言葉に、裏しか感じない……」

「もしかしたら、二人がかりで夢を見る暇もないかもだけど」

「カヤノもいるんだし。環境を考えよう?」


 二択で言えば、その夜トールは夢を見た。


 ただし、はっきりとした意識のある夢を。


「……ここ……は……?」


 パステルカラーで塗りつぶされた世界。その中で、宙に浮いていた。

 俯瞰して夢の中に存在しているトールは、ここが本当に夢なのか疑問を抱いてしまう。


 夢なのに、夢ではないという感覚。


 その気持ち悪さに戸惑っているうち、霧が晴れるように周囲の解像度が上がっていく。


 気付けば、目の前に巨大な幹がそびえ立っていた。


 それを意識した瞬間、ひゅっと体が落下し地面に足が着いた。


 しかし、それは正確には地面ではない。

 一度だけ行ったことのある、聖樹の枝。


 ここは、カヤノと初めて会った場所だった。

次回は、GAのキサラギちゃん回みたいなイメージで(通じるのか?)。


そして、もう一回宣伝。

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