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刻印術師とダブルエルフの山奥引きこもりライフ  作者: 藤崎
第三部 対決編

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第一話 正論なんざ、聞きたかなわー

 先代の宮廷刻印術師レアニル。

 トールが来るまでは、長くエルフの国アマルセル=ダエアにおけるルーンの第一人者だった人物。


 数百年を閲しているはずのレアニルは、しかし、いたいけな少女にしか見えなかった。


 ややつり目がちだが充分に愛らしいと呼べる顔立ちに、金色のさらさらとした髪をツインテールにまとめた様は、ある種現実離れしている。

 手足も細く、人形のように小さい。黒いゴシックドレスも相まって、得も言われぬ雰囲気を纏っていた。


 老いがほとんど外見に出ないエルフでも、彼女ほど年齢と見た目の差が激しい例はほとんどない。


「無論。復讐のためよ」


 そんな彼女が、シニカルな表情と口調で言い切った。

 なんとも不吉で、トールは背筋に寒気を感じる。確かに、エイルフィード神とは違った意味ではた迷惑な性格だったが、ここまで悪意を露わにしているところを見たことはない。


「復讐?」

「分かりました。排除しましょう」


 心当たりがないとトールが言った途端、リンはツバメの刻印が施されたアルミナ合金の剣に力を込めた。


 即断即決。


「トゥイリンドウェン姫、ここではまずいぞ」

「大丈夫です。血が流れないように首だけぴたっと切りますので」

「そうか。掃除は構わないのだが、カヤノに悪影響が出ると問題だからな」

「それ、ワシが大丈夫じゃないんじゃが!?」


 アルフィエルまで、一切躊躇しない。レアニルの味方はどこにもいなかった。


「まあ、待て。待とう。リンもアルフィも落ち着こう」


 いや、一人だけいた。


 復讐の対象とされた、トールだ。


「というか、ほんと師匠に復讐とか言われる理由が分かんないんだけど。残った仕事を押しつけられたのは、俺のほうだぜ?」

「トールさん。きっと、ただの逆恨みです」

「そうか……? そうか……」


 いくら師匠でも、逆恨みだけで復讐などと言い出すだろうか?

 そう常識的な疑問を抱いたトールだったが……。


「あり得るな……」


 直後、そんな疑問は雲散霧消した。


「自分が言うのもなんだが、あり得るのか」

「師匠だからなぁ……」

「逆恨みなんかじゃないわい!」

「……あんまり派手に喋ると、勝手に切れてしまいますよ?」

「逆恨みなんかじゃないと、ワシは愚考する次第でして……」


 復讐者であるはずのレアニルは、目の前の白刃と王族の権威に屈した。割合としては、8:2ぐらいで。


「まあまあ、ここは話を聞いてあげたらどうかな?」

「エイルさん、まだカレー食ってたのか……」

「食べてた? え? カレーは飲み物なんでしょ?」

「中途半端にあっちの知識を仕入れるの、止めてくれませんかね?」


 話が進まないので。


「話を聞いて上げる代わりに、リンちゃんはそのままいつでも殺れる体勢でいていいから」

「て、天空神様!?」


 レアニルが切羽詰まった悲鳴を上げる。

 エイルフィード神は味方……少なくとも、中立でいてくれると思っていたようだ。


「まあ、リンはこういうときに限ってはドジらないから。最近は、なんにもないところで転けることもなくなったし」

「なくなりました!」

「それ、安心できる要素がないんじゃが!?」


 その妥当すぎる叫びは、残念ながら誰にも聞き入れられなかった。

 トールとしては、やり過ぎかと思わないでもなかったが、リンとアルフィエルを説得できるだけの材料もない。


 できるのは、事情聴取を進めることだけ。


「とりあえず、師匠。理由を聞かせてもらっても?」

「だって、ずるいじゃろ」

「ずるいって」


 なんの理由にもなっていない。


「弟子のくせに、あっという間にワシを追い抜きおって。弟子のくせに」

「いや、俺にそんなことを言われても……」


 たまたま、刻印術と相性が良かったからとしか言えない。


「ワシは何百年と研鑽を積んできたのに、たった一年で追い抜かれた惨めな師の気持ちが分かるか? 分かってたまるものか!」

「それは、才能の違いというやつではないか?」

「ラー!」


 アルフィエルの残酷だが正しい指摘を、カヤノが飛び上がって肯定する。異常事態ではあるが、いつもの天真爛漫さは失われていなかった。


「正論なんざ、聞きたかなわー」


 かんしゃくを起こしたかのように、手足をばたばたと動か……そうとして、目の前の白刃に気付き直立不動の姿勢に戻る。


「おとーなうー」


 大人になる。いや、大人になれか。


 カヤノにすら、そう言われてしまう元宮廷刻印術師がそこにいた。


「師匠……」


 一応、恩人にして先達として慕っている気持ちがゼロではなかったトールは、残念そうに頭を抱えた。


「ひとつ気になったのだが」


 アルフィエルが警戒をしたままで、小さく手を挙げた。


「自称ご主人の師は、エイル様を知っているような素振りではなかったか?」

「そういわれてみれば、そうだな。師匠も、エイルさんのことを知ってるのか」

「こりゃ、トール! 天空神様に対して、不敬な――」

「知ってるよ。レアちゃんの魂を地球に送ったのは、神サマだからね」

「は?」


 今、スルーできない言葉を聞かされた。

 すぐには理解できなかったが、それだけは分かった。


「魂を、地球に?」

「うん。体ごとは無理だけど、魂だけならなんとかね。座標の指定もできないし、制限時間もあるから客人(まろうど)の帰還には使えないんだけど」

「それは、まあ……そうか」


 魂だけ。幽霊のような状態になるということだろうか。

 だとしたら、こっちで生きていく覚悟を中途半端に乱されるだけで、いいことはなさそうだった。


「それで、無茶やっちゃって、神サマはお疲れ様休暇をとっているわけだしね」

「そういうつながりだったのかよ。てっきり、なんか面白そうだから適当に理由付けて降りてきたわけじゃなかったのか」

「地球で、あっちの言葉を勉強してレベルアップしたら、トールくんのことは忘れて元のお仕事に戻ってくれるかなって期待もあったんだけど……」


 そうはならなかったみたいだね。


 という言葉は飲み込んで、エイルフィード神は珍しくため息をついた。

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