1-20:【リスト】
あれから、しばらく紗綾の特訓は続いた。イメージの練り方や発動のパターン化など、マリベルさんは様々な事を紗綾に教えていた。
「じゃあそろそろ本題に入りましょうか」
そう言って、真剣な表情で紗綾を見つめるマリベルさん。
「今まではサーヤちゃん自身の力で魔法を使って貰ったけど、今回はそれに魔素を加えて使ってもらうわ」
紗綾の最大MPを増やす方法……外部からの取り込みによる増加だ。ただし取り込み過ぎると大変な事になるので、教える側も真剣にならざるを得ないと言う事だろう。
「いきなり魔素を取り込んでって言われてもピンとこないだろうし、まずは私が取り込んだ魔素をサーヤちゃんに渡すわね。それで、感覚を掴んでみてちょうだい」
「は、はい!お願いします!」
恐らくサーヤにわかりやすくする為だろう。マリベルさんはゆっくりと深呼吸し、右手を紗綾へと向ける。マリベルさんの右手に魔素が集中しているのか、ほのかに輝いている。
「サーヤちゃん、私の手を掴んでみて」
「は、はい……」
紗綾がおずおずといった様子でマリベルさんの手を取ると、マリベルさんの手にあった輝きが、紗綾の手へと移っていく。
「そのまま自分の一部だとイメージしてみて。うまく行けば取り込めるはずよ」
「はい……これは私の一部……これは一部……」
不意に紗綾の手から輝きが消失する。ん?取り込めた……のか?
「どう?何か変わった事はない?」
「えーと……身体の奥に何か暖かいものがあるような……」
「そう、それが魔素の取り込みよ。でも一回で成功するなんてサーヤちゃん、筋がいいのねぇ」
どうやら無事取り込めたみたいだ。筋が良いと褒められて紗綾が照れている。
「今度はそれを自分の望む形に変換させるようイメージ出来るかしら?そうね、最初は火とか水みたいに形がイメージしやすいものが良いわよ」
「イメージしやすいもの……あ、じゃあさっきと同じ水にします」
確かにあれはインパクトも大きかったし、イメージしやすいだろう。ちらっと横にいるフィーナを見ると、水と聞いて思い出したのか、少し顔を赤くしながら無言でコッチを蹴ってきた。だからあれは不可抗力だって……。
「んーと……身体の中のこれを水に……」
「そう。そしてイメージ出来たらそれがさっきとは逆に身体から腕を通って出て行くイメージね」
「身体から腕……手のひら……えいっ!」
紗綾の手のひらから水が出て来る。取り込んだ魔素の量に影響されるのか、軽く蛇口をひねった程度の水だ。どうやら無事成功したらしい。
「で、出来ました!」
「凄いわねぇサーヤちゃん。普通一回で出来る人は中々いないんだけど、流石としか言いようがないわね」
「えへへ……マリベルお姉ちゃんの教え方が良いからですよぅ」
紗綾は嬉しそうに照れている。うーん、俺にも使えるかな、魔法……。
「あ……マリベルお姉ちゃん、この、何となく肌に感じるのが魔素ですか?」
「えっ?ええそうよ、それが魔素よ。サーヤちゃん、一回で魔素の認識まで出来るようになったのね……天才かしら?」
なんと紗綾が天才扱いを受けている。うーん、これもあの説明書の力なんだろうか。異常に魔法に対する適性が上がってるのかな。
「後はその肌に感じている魔素を、自分の身体に取り込むようにイメージすればオーケーよ。取り込む量で出来る事が変わるわ。ただし、くれぐれも取り込む量には注意してね」
「は、はい!気を付けます!」
取り込み過ぎると中毒になったり最悪転生したり……危険なものには違いないな。調子に乗るとしっぺ返しを食らうわけだ。
「はいはいはーい!マリベルさん!私も魔法使ってみたいです!」
隣で見ていたフィーナが自分も体験してみたくなったのか、マリベルさんにお願いする。あ、ここは俺も便乗しておこう。
「あー、マリベルさん。出来れば俺もやってみたいです」
「あらあら……じゃあ二人共試してみる?じゃあサーヤちゃんはカズマ君に魔素を渡してみて?……そうね取り込む量は右腕から先に感じる位の量だと安全かな」
「はーい。お兄ぃ、こっちこっち」
フィーナと二人、並んでそれぞれ相手の手を取る。フィーナも少し緊張した様子だ。
「えへん。それじゃあ良いかなお兄ぃ」
「ああ、いつでもいいぞ」
「むー……お兄ぃは今、私の生徒なんだからちゃんとお願いしないと駄目なんだよ」
普段は教わる事の方が多いからか、珍しく紗綾がナマイキ言ってくる。あ、コレはテンション上がって調子に乗ったパターンだな……。
「ハイハイ、お願いします紗綾先生」
「ハイは一回だよ、もー……。じゃあ行くよ?」
小言を言った後、紗綾の手のひらが発光する。それはそのまま俺の手に移ってきて――
「あれ?」
そのまま何事も無かったかのように消えてしまった。吸収されたのか?いや、身体の中にも何も感じないな……。
隣を見るとフィーナも同じように首を傾げている。うーん……これはあれか?
「残念だけど……二人とも適性が無いみたいね。魔素が行き場を失って霧散しちゃったわ」
「あー、やっぱりかぁ。ウチは両親共魔法が使えないから、そんな気はしてたのよねぇ」
フィーナはもしかしたら、程度の気持ちで試してたんだろう。あまりショックは受けていないようだった。
俺はというと、紗綾の例もあるし実はいけるんじゃ無いかと内心期待していただけに、結構ショックだった。まぁ、もともと魔法なんて無い世界出身だしな……。
「サーヤちゃんがすんなり使えたのはやっぱりあの本が原因なのね。あ、カズマ君、ちょっと本を見せてもらえる?」
「ええ、良いですよ。はい、どうぞ」
カバンから説明書を取り出す。マリベルさんはそれを慎重に受け取り、中身を見ていく。
「これが例の本?ナニナニ?【正しい妹の使い方】?あんた本になんてタイトル付けてんのよ!」
「勝手に付いてたんだよ!俺が付けた訳じゃないって!」
覗き込んだフィーナが見つけたタイトルから、何かを連想したのか文句を言ってくる。うん、やっぱり人様に見せるタイトルじゃないな……。
「んー……特に聞いた以上に目新しい事も書いてないわね……あら?」
パラパラページをめくっていたマリベルさんだが、何かに気付いたのか、不意にその指が止まる。
「どうかしたんですか、マリベルさん?」
「えーとね、後ろの方に何かリストみたいなのがあるのよ。カズマ君、知ってた?」
「リスト?いえ……どれです?」
「ほら、ここよ」
ページを開いたままマリベルさんが見せに来る。ふわりと風に乗って、マリベルさんからいい匂いが漂ってきた――いかんいかん、そうじゃないだろ。今は説明書だ説明書。でもいい匂いだったな……。
「これ、何のリストかしらね?心当たりはある?」
「いえ……どれも見たことの無い……これって人名ですか?」
「多分そうだと思うけど……何かしら。会ったことのある人……にしては私達の名前は無いし……。街の人達でもないわね」
そもそもこの世界に来てから、まだ大勢の人にあった事はない。せいぜいシトナ村と、ストラマの一部だけだ。一体なんのリスト――あっ!これってもしかして……
「マリベルさん、魔素の取り込みによる転生って、頻繁に起こるものなんですか?」
「え、どうしたの突然?んー、昔は原因が知られてなくて多かったみたいだけど、最近はそうでもないわよ。仮に転生しても王都で討伐も行われているし」
「そうですか……多分ですけどコレ、転生者のリストだと思います。討伐された転生者は消えてるのか、今までの全員が載ってるかはわかりませんが……」
リストの最終ページには、一人だけ知った名前が載っていた。
あの日、俺達が始めて出会った転生者。シトナ村で転生した、リックと呼ばれていた村人の名前が……。
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