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◯◯くんシリーズ

五廟山くんの地味な呪い

作者: 美紗登


…何がどうなってこうなったのだろうか。


「四ッ谷さん!君だけが頼りなんだ!この通り!」

「…ご、五廟山(ごびょうやま)くん、顔上げて。」

「君だけが頼りなんだ!お願いだ!」

「わかったから土下座はやめて!」


私は四ッ谷りん、17歳。

たった今、クラスメイトの男子に土下座されている。





「で、何でいきなり土下座なんてしたの?」

「まあ、話せば長くなるんだけど…」


そう言って少し眉を下げたこの男の子は五廟山 (すぐる)くん。2年生になって初めて同じクラスになった子だ。ちなみに事務的な会話以外で話すのも今が初めてである。

五廟山くんは正面から改めて見るとサッパリとした顔立ちで、なかなか男前だなと思う。

少し迷ったような顔をした後、彼は決心したように口を開いた。


「単刀直入に言うと、俺の呪いを解いて欲しいんだ。」

「……へー、ソウナンダ。」


私の頭の中で五廟山くんのプロフィールが男前から残念な人に変わる。


「やめて!その残念な人を見る目やめて!」

「ごめん、五廟山くん。そういうのに付き合わされるのはちょっと…」

「違うから!とにかくこれ見て!」


ワタワタし始めた五廟山くんは、鞄から何かを取り出した。……巻物?


「これは俺の家に代々伝わる巻物。ここに俺の呪いのことが書かれてる。」

「中二病で選ばれし勇者とかはよく聞くけど、五廟山くんは和風の方なんだね。」

「違うから!いったん中二病から離れて!」

「えー…」


五廟山くんに促され、渋々代々家に伝わるという設定の巻物を見る。巻物は結構長くて、紙一面が達筆な字で埋め尽くされている。

意外と作り込まれている中二病設定に、面白そうなので私も乗ってあげることにした。


「設定にしては随分と凝ってるね。で、どういう呪いなの?」

「話を聞いてくれるならもうそれでいいよ…」


彼は何かを諦めたようだ。


「俺にかかってる呪いは、人に印象を持たれない呪いなんだ。」

「つまり、陰が薄いと?」

「…まあ端的に言えばそうなるかな。」


設定は凝ってるのに肝心の呪いがなんか地味だな…。

まあ、確かに言われてみれば五廟山くんは陰が薄いかもしれない。

実際、今でこそこんな強烈なキャラを出してきている五廟山くんだが、土下座されるまで彼に対してあまりこれといった印象を持っていなかった。というか、皆無だ。でも、それは…


「でもさ、それはあくまで個人の問題とかなんじゃない?みんながみんな、存在感があるとはいえないし。何も呪いとまで言わなくても…」

「……1日に50回も『あ、居たの?気づかなかった』って言われたり、小・中と修学旅行で目の前でバスの扉閉められて置いてかれたり、インフルエンザで1週間休んでも先生も入れて学校の誰1人気づかなかったりするのも個人の問題?」

「それは呪いだわ。」


地味だけどなかなか心にくる呪いだな、それ。

本当かどうかは分からないけど、それが真実なら五廟山くんが不憫すぎる。


「そもそも何でそんな呪いかけられたの?」

「何でも遠い昔、先祖がある呪術師と恋人だったにもかかわらず、他の女の人とも付き合って、二股した挙句こっぴどくフッて怒りを買ったらしい。それで文字通り、末代先まで呪われたんだ。」

「…五廟山くんには悪いけど、その先祖の人最低だね。」

「…俺もそう思う。」


正直ことの発端となった先祖の人は自業自得だが、子孫である五廟山くんはいい迷惑だろう。

あれ?これも中二病の五廟山くんの作り話なんだっけ?よく分からなくなってきた。


「それで、呪いを解く方法は分からないの?」

「それなんだけど、解く方法を先祖がこの巻物に書き記したらしいんだけど、どこを見ても真っ白で、まったく分からないんだ。」

「真っ白?めちゃめちゃ文字書いてあるけど。」

「やっぱり!?この巻物が読めるの!?俺の目に狂いはなかった!」

「え、なに、そういう設定?」

「だから中二病から離れて!」


兎にも角にも、読めるならなんて書いてあるのか読んでくれと頼まれしぶしぶ目を通す。

えーと、なになに…


「定められし者とその唇合わせし時、呪いは解ける……ってどこのおとぎ話よコレ。」


巻物とか小道具も用意してるくせに、呪いの解き方だけ投げやり感がハンパない。

この際もっとこだわって欲しいものである。


「…四ッ谷さん。」

「え、なに?一応全部読んだ方がいいの……って何その期待した顔。」


五廟山くんの手がポンッと私の両肩に置かれ向かい合う。見上げると一点の曇りがない黒目。

まさかとは思うけど、一応言ってみる。


「……合わせないよ?唇。」

「そんなこと言わずに。俺は試してみる価値は十分あると思う。」

「価値なんかゼロだわ、むしろマイナスだわ。」

「諦めたらそこで試合終了ですよ!」

「何が試合だこの変態!」


何!?まさか今までの設定はキスのための盛大なフリか何か!?

迫ってくる無駄に真剣な顔の顎を鷲掴んで押しもどす。

中二病やら変態やらキャラがいきなり濃くなるね!!


「アガガガガ!四ッ谷さん、顎が!顎が!」

「痛いなら顔近づけるのやめれば!?」

「もう陽の当たらない生活はうんざりなんだ!」

「そんな闇を抱えた感じに言っても無駄だよ!」

「あと四ッ谷さんとキスしてみたい!」

「そっちが本音だろ!」


ググググ…と静かな攻防を繰り返していた私たちだったが、流石に顎に限界がきたのか五廟山くんが折れた。「やべぇケツアゴになる…」というどうでもいい言葉は聞き流した。

五廟山くんの手が肩から離れると、私はすぐさま2メートルほど距離をとった。人畜無害そうな顔をして、とんだ色魔である。


「…とにかく、呪いの解き方わかったならよかったじゃん。何も私じゃなくても、五廟山くんかっこいいから、頼めば誰かしらがキスしてくれるよ。」

「チッチッチ、そういうわけにはいかないんだよ四ッ谷さん。」

「なんかムカつくから、かっこいいって言ったのキモいに訂正するね。」


この人どんどん残念度増してない?いや、最初に土下座してきた時点で相当なのかもしれない…

私の冷たい視線を物ともせず、五廟山くんは巻物を手に取った。


「四ッ谷さんは、この巻物の文字が見えるんだよね?」

「み、見えるけど…」


私の言葉に五廟山くんはニンマリと笑う。

パッと見ると爽やかな青年の笑みだが、どこか裏があるように感じてしまう。


「この巻物の文字が見える人は、ある条件をクリアした人なんだ。」

「条件?」

「それは…」

「それは?」


ゴクリ。


「それは、呪いを受けた者の運命の人であること!」

「……」

「ほら、巻物にも()()()()()()って書いてあったんだよね?言い伝えによると、呪いを受けた者は運命の人を見つけた瞬間身体中に電流が走ったような感覚があるんだ。四ッ谷さんを初めて見た時その感覚が起こったんだ。それに、運命の人って言うくらいだから2人の相性はバッチリで、容姿、性格は勿論のこと、体の相…ンゴフッ!!!」


五廟山くんの言葉を言い切るより先に、思わず私は一瞬で距離を詰めて彼の腹にグーパンをお見舞いしてしまっていた。

お腹を押さえて呻く五廟山くんから、また2メートルほど離れる。


「黙って聞いてれば、セクハラ発言もいいところだね五廟山くん。」

「照れてつい手が出ちゃう四ッ谷さんもいい…!」

「帰っていい?」


お腹を押さえながらも爽やかな笑みをたたえている五廟山くんにはほとほと呆れてしまう。

帰る準備を始めた私を見て五廟山くんが焦ったように言う。


「待って!確かに運命の人って聞いたら不審に思うだろうけど、もともと呪いをかけられたのも呪術師が二股をかけられた恨みから来たものだし、この呪いの解き方は一途に人を愛してほしいっていう呪術師の願いからきてるものだと思うんだ!」

「…え?」

「俺の運命の人は四ッ谷さんしかいない!四ッ谷さん以外考えられない!俺が好きなのも、この呪いを解けるのも、四ッ谷さんだけなんだ!」

「…ご、五廟山くん、そこまで私のこと…」

「そう、言うなればこれは呪いも解けて未来の嫁もゲットできる一石二鳥の素晴らしいシステムなんだ!」

「……」

「だから四ッ谷さん、熱い口づけを…ンボェ!!」

「さよなら。」


私は荷物をまとめると、足早に教室を出た。

扉の向こうから「腹パンされても四ッ谷さんが好きだー!」という声が聞こえたが、無視だ、無視。

五廟山くんが追いかけてこれないように、逃げるように校門を過ぎる。


それにしても、危うく絆されるところだった…危ない危ない。

私はペチペチと頰を2回叩いた。少し熱いのは早歩きして息が上がったからだ。そう、絶対そうに違いない。


明日から五廟山くん改め変態にどう対応しようかと悩みながら、私は帰路に着いたのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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