001 俺の成人式前夜①
俺が迎える12回目の秋。
物心ついた時からずっと待ち望んでいた。生まれてこの方ここまで楽しみにしてきたイベントはきっと無かっただろう。
ついに俺も、アレを貰える。
それだけでもう居てもたってもいられなかった。
ヴァルカルタ王国では成人を迎える12歳の子供には従魔契約を結ぶ権利を与えられる。一応権利と言っておくが、今までその折角の機会を無駄にし話は聞いたことがない。
「おいトーマ!さっきから俯いて何やってんだ!明日はめでたい日だぞ!ほれ、たんと食え!!ガーッハッハッハッ!!!」
...この大飯食らいの酒くさいオッサンは俺の親父、モルドー。オレンジ色の髪とヒゲがチャームポイント(自称)で、俺たちの村で大工の棟梁をしてる。
この村のほとんどの家は俺の親父達が建てたのだ。腕っ節もピカイチで自慢の親父ではあるが、酒が入るといつもこんな調子だ。耳元で大声張り上げなくてもよく聞こえてるって...
「あんまり騒ぐなよ。近所迷惑だ。」
このキザなのは俺の兄ちゃん。名前はコーザ。俺より5年早く成人している。
今は氷のように冷たい視線で親父に視線を送っているが、剣を握らせると人が変わったように暑くなる。大の大人が5人がかりでも全然歯が立たないらしい。毎日のように稽古をつけてもらってるおかげで俺の身体からアザがなくなることはなかったけど、尊敬できる俺の自慢の兄ちゃんだ。
「いいじゃねえかコーザ!今日はめでたい日だろ?なぁ、ゼル!」
「そうやってすぐ人の意見を味方につけようとするのがお前の悪いところだ。」
ゼルは俺の親父の相棒だ。昔から変わらず、大工仕事で暴走しそうになる親父を止めるのが仕事だ。口は悪いけど、実は誰よりも優しい。
「ちぇっ、連れないヤツらだぜまったく。」
親父がわざとらしく舌打ちをする。が、顔はこれでもかというほど笑っている。親父も二人の息子が無事成人できることがよっぽど嬉しいんだろう。
「酒に呑まれてまた裸で踊り出してみろ。てめぇのその自慢のヒゲで俺のケツを拭いてやるよ。」
「なに言ってんだ?お前のどこにケツがあるんだよ?」
「ちげぇねえや!!」
親父とゼルが大笑いする。言い忘れてたけど、ゼルは【獣】のスライムだ。俺の親父が成人するとき、領主様のところで契約を交わしたらしい。
わざわざ領主様のところで契約を交わした親父は、俺たちの村では今のところ一番のレアケースなのだそうだ。いくつかの村が集まって行うな 成人式ではレアなスライムには出会えないからだ
もちろん兄ちゃんもスライムと契約している。あいつはいつも午後7時には寝るからこの場にはいないけど、俺の成人を自分のことのように喜んでくれた。
俺も早く親父や兄ちゃんのようにスライムと契約を交わして、あんなふうに仲良くはしゃいでみたい。
「...トーマ。上に行こう。」
「あ、うん。」
親父たちの馬鹿話に火がつきそうなので、巻き込まれる前に兄ちゃんの言う通りにしてその場をあとにした。