番外編 サイドストーリー 「コウ・キモン」
これは2話と3話の間の物語。
「この道場に入れてください。そして、鬼門流拳闘術を教えてください!」
道場に孫が来た・・・。
わしの名はコウ・キモン。
鬼門流拳闘術道場の開設者であり、師範。
嫁は先に逝き、娘も殉職した。
わしの血を継ぐのは孫だけとなった。
育てる者がいなくなった孫を引き取り、よくよくはこの道場を継がせようと思っていた。
しかし・・・。
「じいちゃん、俺魔法使いになりたいんだ。だから、じいちゃんの所にはいけない。」
驚いた。両親を同時に失い、7歳のコイツには頼れる者は、もはやわしぐらいのはずなのに。
はっきりといいよった。
「いいのか、辛い人生になるぞ?」
「いい、俺は何がなんでも魔法使いになりたい。」
「そうか。」
そうやって少しばかりの金を与え、孫を孤児院に入れた。
それから5年、絶対に戻ってこないと思っていた孫が道場に顔を出した。しかも、道場に入れてくれと、拳闘術を教えてくれと言っている。
「お前、戻ってきてくれたのは嬉しいが、孤児院はどうした・・・魔法使いになりたいんじゃなかったのか?」
「無理だった。俺は魔法使いに向いてなかった。」
「向いてない?」
「魔法適性が0だった。俺は魔法が使えないんだ。」
魔法適性・・・そうか、確かにわしの故郷にもそういう奴はおったが・・・。まさか孫が、ましてや魔法使いを夢見ていたこいつが。
「魔法使いは諦めて、拳闘士になるという事か?」
「はい、俺に拳闘術を教えてください。」
嘘だった。
目を見てわかった。
この目は希望を、夢を失っていない。
まだ諦めていない。
どうするつもりかわからないが何か見つけたのだろう。
じきにもう一度魔法使いになりたいと言い出すだろう。
その時には、この道場を今度こそ本当に出ていってもう戻らないだろう。
それでもあの時の娘と同じ様に拳闘術を・・・鬼門法を教えるべきなのか・・・。
愚問だ。
こいつはわしの娘の子だ。
わしの孫だ。
そいつが拳闘術を知りたいと言っている。
教えるしかないだろう。
魔法適性は鬼門法ではどうにもならんが、こいつが娘と・・・わしと同じ様な体質なら教える価値はあるだろう。
鬼門法を・・・。
「わしの修行は厳しいぞ・・・。」
「教えてくれるんですか?」
「当たり前だ。実の孫の頼みだからな。」
魔法の使えない魔法使いというのも面白いかもしれんしな。