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光と闇の歌姫

作者: 夢追人

 1年ぶりに作成・完成した小説です。焔 舞という喧嘩に強い炎の魔女が、魔法文化が栄える地球を舞台に東奔西走するお話です。相変わらずの拙筆ではございますが、ぜひご覧ください。

 私、(ほむら) (まい)は、ついに見つけた。

 トウキョウの住宅街で、何かが割れる音がした。その現場に行ったら、肌着とパンツだけの禿げて太ったおじさんが、頭から血を流してビクンビクンしてた。見上げれば、アパートの2階窓ガラスが割れてる。

 飛び降り自殺を図るにしては低いし、間違えたにしてはおかしい。何をしたら窓ガラスから飛び出すのかな。

 そう思っていたら、割れた窓から黒いスモークが漂ってきて、白い髑髏が出てきた。

 都市伝説、『死神』だ。

 都市伝説とは言うけれど、それは世間をにぎわせている〝殺人鬼〟だ。

 特徴は、絵本から出てきたかのような黒いローブ、そして白い髑髏のお面。

 捕まえなきゃいけないから覚えていたけど、なかなか出会えなかったからとってもラッキーだ。

 ・・・それはともかく。どうして、こんな事件を起こしたのかな‥‥?


 

 時はお昼時までさかのぼる。

 トウキョウの政の中心・灰被娘城(ハヒコジョウ)にある執務室で、舞はお弁当を食べていた。白米ご飯、卵焼き、から揚げ、ブロッコリー。メイドに作らせているメニューだが、まったく飽きが来ない魔法のような弁当である。ドン、ドン、と大きく二度ノックされる。

「よう、ボス」

 入るように促すと、ドアが開く。こんがりと日焼けした大男が立っていた。縦も横も大きいその男の名は (たくみ)

「ここで飯食ってもいいか?」

「いいわよ、私も食べてるところだし」

「サンキュー」

 舞の許しを得ると入室し、部屋の真ん中にある接待机のソファーに座る。手にした茶色の紙袋を置いた。

「おい、ボス、知ってるか?」

「いったい、何の話よ?」

 舞は、匠のセリフに、眉をひそめる。

 匠が紙袋を置くと、勝手に展開されて中身が姿を現した。立方体が1つ、直方体が1つ、円柱が1つ。

「〝琴海(ことみ)〟だ。最近流行ってんだろ」

 続けて、立方体と直方体が震えると蓋が開き、薄っぺらなハンバーガーと出来立てのフライドポテトが顔を出した。

「ことみ? 何それ?」

「知らねぇのか」

 匠は円柱を持ち上げて口をつけると、喉を鳴らして何かを飲んだ。すでにフタは開いていて、立ち上る匂いからコーヒーだとわかる。

「最近流行ってるアイドルだよ。知らなくても1曲くらいは聞いたことあるだろ。ほら、あの、『ラブラブダイアモンド!!』とかさ…」

「あ、あぁ~… フフッ‥‥」

 子供に泣かれるからとコンプレックスを抱く強面+渋い声を持つガタイのいい男が、タイトルを恥ずかしそうに言うそのギャップに、舞は吹き出してしまった。

「なんだ、そのツラは?」

「いやぁ、すごく意外だな、って思っただけよ」

「しゃーねぇだろ、電太郎(でんたろう)のヤツから毎日聞かされてりゃ覚えるんだよ。ほら、門前の小僧習わぬ経を読むっていうだろ」

 舞の頭の中に、灼眼と青眼のオッドアイを持つ娯楽大好きな部下の顔が浮かんだ。

 匠は炉に放り込んだ鉄のように赤い顔をして睨みつけるが、すぐに手元のハンバーガーを握りかじりついた。


「ところで、琴海がどうかしたの?」

 沈黙した執務室に一石を投じたのは、舞だった。

「あぁ、そうそう、それなんだけどな、」

 匠はハンバーガーの最後の一口を放り込んで、コーヒーで流し込む。ドンッ、と大げさに机の上に置いて、

「噂じゃあ、琴海が〝死神〟らしい」

 ぱちん、と、箸でつまんだ舞の唐揚げが宙を舞う。そのまま白米の上に転がり受け身を取った。

「死神?! うそでしょ?!」

 身を乗り出す舞を、声がでかいぞ、と抑えた匠。机に肘をついた匠の眼は研いだ剣のように鋭かった。

「なんでよ?」

「どうやら、殺された奴らは琴海の楽曲を買っていなかったらしい」

「え? じゃあ、そしたら…」

 私も狙われるじゃん、と口を開いたところで、匠が舞の口にポテトを一本突っ込んだ。ジャンキーな塩味と油分が口の中に広がる。

「琴海のファンと、アンチが、ケンカしているらしくて、どうやら、アンチに対して、琴海本人が、制裁に乗り出した、てウワサだ」

「ふぅん…」

 舞がポテトを一本食べ終わると、匠がポテトの箱を差し出す。二本だけ抜き取ると、残りは匠が一気に食べてしまった。

「どこまで本当かは分からん。が、万が一すべて真実だとしたら、相当わがままなヤツだなぁ。ったく、売れれば何でもしていいわけじゃねーだろ」

「どうだか。どうせこれも、琴海のアンチが流したウワサなんじゃないの? ちょうどタイミングが悪いだけじゃないかしら」

 そうかもな、と匠はコーヒーに手で蓋をする。手を離すと、ぴったりと蓋が閉まっていた。執務室に置かれた時計が、一度だけ鐘の音を発した。それを聞いた匠が、さっと腰を上げた。

「それじゃあ、失礼するぜ」

「午後もよろしくね~」

 匠が出て行ったあと、舞は執務卓の一番上にある引き出しを開けると、『残業申請書』と書かれた紙が鎮座している。1枚手に取り、羽ペンで必要事項を埋めていく。



 窓ガラスから出てきた死神は、まるで布か綿毛のようにふんわりと降りてきた。黒いローブの背中には上下逆さの十字架、そして白い手には細長い棒が握られている。音もなく地面に着いた脚は、スーパームーンのように蒼白い。溢れる迫力に石ころや落ち葉が逃げ惑っている。

 死神の面が、中年の男を捕らえる。顔を青くして立ち上がろうとするが、腰が抜けている。這ってでも逃げようとするが、死神は手にした細長い棒を振り上げた。観念した中年は、手で首を抑えて亀の姿勢を取る。が―――

「ちょっと待ちなさい」 

 雨雲を吹き飛ばしそうな声に止められた。アパートの正面に、少女―舞がいた。黒いショートカットヘアに男物の半袖カッターシャツ、裾に六角形の金属プレートがずらりと縫い付けられたスカートを穿いている。

 顔を上げた中年は、悲鳴をあげて逃げ出した。その姿はまるで豚のようだった。家畜を捕まえるように中年豚の背中めがけて視線の槍を投げるが、

「あなたが死神ね」

 それは割り込んだ舞が受け取った。無機質な髑髏の内に赤色の瞳が、灯る。手にした棒の一端に髑髏の口を近づけると、

「ソウダ」

 反響しまくるくぐもった声がした。満月に照らされたそれは、ライブで使われるスタンドマイクだったのだ。

『最近流行ってるアイドルだよ。…』

 舞の脳裏に、匠の言葉を思い出す。しかし、代表曲の名前まで思い出してしまったことで指名手配犯の真ん前にもかかわらず噴き出した。

「キサマ! ナニ ガ オカシイ?!」

 逆上した死神がマイクを振り上げて飛びかかった。平常心を取り戻した舞が、両手を十字に組んで、間一髪でマイクを受け止めた。魔力が込められた腕とマイクが鍔迫り合い、火花が散る。拮抗しているかのように見えた死神と舞。だが、

「はあっ!!」

 気合を入れると両手の甲から炎が噴き出し、腕がマイクを振り払った。

「悪いけど、顔を見せてもらうわよ!!」

 そのまま懐に飛び込んで、赤熱した右手でお面に触れる。シュウゥゥ、と、まるで肉が焼けたかのような音と共に白煙が上がった。

「ワァ、ア゛、ア、あ、、、あつ、え‥‥?!」

 舞が右手を離すと、両手で顔を覆い隠しおぼつかない足取りで下がる死神。その声は最初こそくぐもっていたものの、子供のような高い声に変化したのだ。

「あ、あれ、…熱く、ない?!」

 髑髏面の下には、可憐な少女の顔があった。

 舞は、戦慄した。


 死神は、超有名なアイドル―〝琴海〟だった。


「…うそでしょ」

 舞の目の前が、真っ白になる。

 あまり見ていなかったとはいえ、ファッション、歌唱、ダンス、どれをとっても人気のアイドルであることは舞も知っていた。

 ここ最近で魔法で作られた広告に、歌い踊る彼女の姿を見ない日は無いと言っても過言ではなかったからだ。人気者の琴海が、どうして人を殺めているのだろうか。

「どうして‥‥?!」

 錯乱していたのは、魔法をかけたはずの舞だった。

「いったい、誰に頼まれたの?!」

 言いかけたところで、琴海の身体から黒い気が噴き出した。

「自分でやったわよ、いままで、全部!!」

 それは、すさまじい怨念の塊。たくさんの怨念と出会い、戦いなれている舞を半歩だけ下がらせた。


「見られたからには、ここで死んで」


 右手に握られたマイクを高々と掲げて、発見者の頭蓋をかち割らんと跳躍する。舞は少し遅れて距離をとり、目算をずらす。…が、マイクから発された甲高いハウリングが舞の体をぶん殴った。


「死ねッ!!!」


 思わず耳をふさいでしまった舞に、琴海がマイクを地面に突き立てて収音部に叫ぶ。黒い音の波紋と共に、舞の体が地面を転がった。

 しばらく観察するが、一向に動く気配がない。だが、琴海は舞に歩み寄る。殺せた気がしなかったからだ。

 案の定、まだ息があった。スタンド部分が、鋭い槍に変身する。心臓の真上に狙いを定め、…

「ど、どう、して…」

 その時、うつ伏せの舞が言葉を発した。


「どうして、こんなことを…?!」


 立ち上がろうとしたその時、槍はスタンドの脚に戻る。鳥類のような三つ脚が、か細い舞の胴を地面に押さえつける。


「復讐よ」


 肺の中の空気を押し出された舞は、言葉を紡げない。

「私はもともと、歌手を志望したわけじゃない。洋服屋になりたかった」

 必死に酸素を取り入れようとする舞を見て、顔をほころばせる琴海。ローブをつまみ、

「私が身に付けた魔法は、洋服と背景を縫合する魔法。ドレスを着れば舞踏会の会場を、兜をかぶれば歴史の戦場を、エプロンを着れば台所を、室内になら自由に投影できるの。今は、地獄の死神ってところ?」

 そして空を見上げて、ため息した。

「きっかけがあって、新しいアイドルでデビューできた。だけど、周りの目が腐ってた。あんなのアイドルじゃない、歌がどへたなのを洋服でごまかしてるだけ、洋服だけ作ってりゃいい、さんざん言われたわ。おまけに私のファンと喧嘩を始めて、傷つけた」

 隙をついて立ち上がろうとするが、スタンドの脚がそれを許さない。

「もう許せない。だから、そいつらに復讐することにした。努力もしないでバカにするヤツはこの世から消えればいいんだ!」

 両手に憎悪を籠めてマイクを握った時、うつ伏せで押さえつけられた舞の目が鋭くなった。

「だけど!」

 心臓から碧色の炎が噴き出し、全身を包み込む。抑え込んでいたスタンドの脚が、高熱で蕩けた。


「努力してるから、だから他人を殺していいわけないでしょう!!!」


「アンチがいると商売あがったりなんだから! 殺したっていいじゃない!!」

 飛びのく琴海を、立ち上がった舞が追いすがる。琴海がマイクスタンドを構えて、

「それがちがうって言ってんのよ!」

 だがマイクのフルスイングは、左腕で、受け止められた。

 衝撃波が周囲の窓ガラスを割るほどに高まっていた。舞の腕は折れない。心を込めて生み出した強靭な炎の壁は、憎しみだけでは破けない。

「その努力を! どうして! ファンのために使ってあげないの?!」

 びくともしない不動の舞、その魂の叫びが、琴海の瞳を開かせた。

「どうしてアイドルしてるのよ!!」

 少し力が緩んだその瞬間を、舞は見逃さない。払いのけ、燃えるワンツーを入れる。

「ファンがいたからじゃないの?! 歌って踊ったらよろこんでくれる人がいたから、がんばってきたんじゃないの?! 」

 感触は、硬かった。布の硬さではない。憎悪でできたココロの鎧が、とんでもなく硬いのだ。

「全員に愛されるわけないでしょうが! だからこそ! 愛してくれる人のためにがんばるんでしょう!!」

 だからこそ、必ずかち割りたい。普通の犯人には使わない、右手の本気ブローを、ねじ込んだ。体の中から酸素をすべて吐き出して、琴海が転がった。

 右腕が、いまだにじんわりと熱を帯びていた。

 深呼吸をしたとき、全身から蒸し暑い嫌な汗が噴き出した。

 何度か死にかけた。素人だから、いま生きている。生存の喜びで膝が笑っていた。


「わ、たしは…」


 舞の全身を悪寒が走る。本気を叩き込んだはずの琴海が、立ち上がっていた。

「ワタシハ、ヤツラガ、ニクイ」

 どす黒い瘴気と共に発されるその声は、憎しみにまみれた咎人の声になっていた。竜巻のような瘴気は周囲の光を、月夜を、舞の視界を一飲みした。

「ダカラ、コロス。ゼッタイニ!!!」

 闇の中で声がしたとき、霧が晴れる。


 舞は絶句した。 目の前にいたのが ガイコツだったからだ。


「シネ!!!!!」


 虚無の両目が舞を捕らえ、右脚を一歩踏み出したその時、


 骨が砕けた。


 衝撃は次々に伝わって、あっという間に身体を破壊してしまった。


  


「ボス、大丈夫か」

「―あっ、あぁ、平気」

 

 呆然としていた舞を呼び戻したのは、汗だくの匠だった。隣には、車いすに乗せられた中年がいた。目はあらぬ方向を剥き、口がぽかんと開いていた。

「コイツが気になるのか? これはそこら辺を下着だけで歩き回っていた変質者だ。うわ言ばかりで何がなんだかわからないが、どうやら風呂から出たとき死神が出てきたらしい。…っておい、聞いてんのか?」

 匠が説明を始めた時、舞の目は中年から路上に光る物体に映っていた。

 それは、プレゼント箱の形をしたガラス細工だ。箱からリボンまですべて透明な、氷のようなガラスでできていた。

 リボン、右側面、底面、隅々まで調べる。しかしリボンもガラスでできていて、箱を開くことができない。

「これ…! 琴海の音晶(おんしょう)じゃねーの?」

「音晶?」

「あぁ、これが、琴海の楽曲だ。これ一個で音楽とプロモーションビデオが楽しめるってわけだ」

「そうなの…どうやって聞くの?」

 隣にしゃがんだ匠に、舞は音晶を渡す。すぐ舞の手の上に戻してリボンの耳を一度引っ張ると、プレゼント箱が宙に浮き空中で展開した。中にはちいさなシアターがあり、超満員だった。

 ブザーと同時にステージの幕が上がると、ブレザーの制服を着た琴海がいた。丁寧に一度お辞儀をすると、音楽が流れ始める。

 舞には知らない曲だったが、歌詞はとても分かりやすかった。音感がない舞にも歌えそうな曲だった。

 一番が終わった時、思わずプレゼント箱を閉じてしまった。


「死神は、琴海だった。言ったとおりだったよ」


 肩を落とした舞が、ぽつりとこぼした。ローブとマイクスタンドに目をやる。

「信じたくなかったよ、偽物であってほしかったよ。…」

 そして、手を握り、声を震わせる。

「ものすごく…憎んでた。…身体が骨になるまで、ずっと‥‥」

 目からあふれる涙が、赤くはれた右手と、左手を濡らす。

 嗚咽する舞の隣に、匠は口を結んでしゃがみ、背中をさする。


 行こうぜ。


 耳元でささやくと、匠たちは立ち上がる。死神のローブと錆びついたマイクを拾って、舞たちはその場を後にした。

コミックマーケット、コミティア、例大祭などの同人イベントに今一度もどるために、今まで温めていた卵を孵したものです。大学の課題で小説を書いたときに活用したキャラクター、設定を使いました。さぼりすぎてとんでもなく下手になっただろうと思います。どれだけの人が読むか、どれだけの思いが伝えられるか不安だらけですが、とにかく、やってみなければわかりません。懲りずに、投稿していきたいと思います。

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