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 リアトリスとクリプト、お姉ちゃんとの会話を終えた僕は、町で時間を潰してから、帝都の北門まで百合を迎えに行った。

 帝都の外で行われていたアニマ同士の擬似戦、彼女はそれに参加してるのだ。

 僕と違って、百合とエルレアのアニマはレベルにまだ伸びしろがある。

 王国との戦いに備えて、少しでも能力を底上げしておこうという魂胆らしい。

 昨日はエルレアも参加していたが、今日は帝都で用事があるそうで、今日に限っては不参加だ。


 壁によりかかって百合が戻ってくるのを待っていると、へろへろになった彼女が近づいてくる。

 僕の姿を見ると若干速度があがったが、体力が尽き果てているのか、中々加速しない。

 結局、そのままのスピードで僕の目の前に到着し、がばっと両手を広げて抱きついてきた。


「づがれだぁー……みさきぃ、ハグ! ハグしてエネルギー補充してー!」

「はいはい、おつかれさま、百合」


 抱きしめながら頭をぽんぽんとしてやると、百合は力を抜いて僕に体重をかける。

 最近は復讐から遠ざかっているからか、百合も心なしか以前よりも明るくなったような気がする。

 まるで普通の恋人のように抱き合って……って、普通の恋人はこんな人通りの多い場所で抱き合ったりはしないのかな、どうなんだろ。

 通り過ぎていく兵たちは、揃って無表情でちらちらとこちらを見ている。

 そりゃこんな人通りの多い場所でハグなんてしてたら目立つのも当然。

 でも、百合は全然気にしてないみたいだし、甘えたい盛りみたいだし――だったら、多少恥ずかしくてもまあいいか。


「はっ!?」


 と、突然百合が僕から体を離す。

 何事かと思って見ていると、素早い動きで手の匂いを嗅ぎ始めた。


「岬、もしかして私……汗臭かった?」

「汗の匂いはしたけど、臭くはなかったよ」

「やっぱりしてたんだぁ……」


 百合ががくっと崩れ落ちる。

 今日はやけにテンションが高いなぁ、体を動かしたばかりで火照ってるんだろうか。

 大体、汗の匂いが今さらなんだってんだか。

 もっと恥ずかしいことお互いにやってるってのに。


「今、汗の匂いなんかで今さら落ち込むな、って思ったでしょ」


 なんでわかったんだろう。


「図星って顔してる。そこは、何ていうか、女心ってやつなの! ほんとはもっとハグしたいけど、まずは城に戻ってシャワー浴びないと」

「じゃ、一緒に行こっか」

「うんっ!」


 百合が差し伸べた手に手を重ねる。


「しまった、手も汗ばんで……」

「今さら今さら」


 そう言って、僕は彼女の手を握った。

 確かにちょっと汗がついてるけど、それもまた乙な――って言うのはフェティッシュすぎるのかな。


「ううぅー、岬に私の汗がついてしまう……そうだ、いっそ一緒にシャワーを浴びれば!」

「いいよ、そうしよっか。絶対にシャワーだけじゃ終わらないけどね」

「んっふふー、別にそれでもいいもーん、むしろ受けて立つし」


 僕らは途切れることなく言葉を交わしながら、手をつなぎ、肩を寄せて城へと歩いていく。

 大通りに面する壊れかけの建物はほとんど撤去され、元々店を営んでいた人たちが出店を出していて、意外と活気がある。

 ここ最近はよく町を歩いていたせいか、店主のほとんどが顔見知りになりつつある。

 そのせいで、「おまけするから買ってきなよ!」なんて誘われると、ちょっと断りにくい。


「この通りもにぎやかになってきたね」

「うんうん。岬やエルレア、フランサスちゃんに命さんに、キシニアさん。他にも、色んな人と一緒に頑張ったからっ」


 百合は誇らしげに言った。

 まだまだ第三者から見れば、帝都はボロボロの状態かもしれない。

 それでも、最悪の時を知っている百合にしてみれば、今の帝都は自分たちの努力の成果なのだ。

 胸を張ったって誰も咎めやしない。


「せっかく立て直したんだもん、壊されないように頑張らなくっちゃ」


 そんな使命感に燃えてしまうのは、この町に愛着が湧いてしまったからだろう。


「だね、絶対に勝とう」

「で、水木も殺さなくちゃねっ」


 見つめ合いながら、そう決意を改める。

 さらに進むと、とある建物の前で手招きするおばちゃんを見かけた。

 どうやら僕ではなく、百合を呼んでいるようだ。


「確か食堂のおばちゃん、だっけ。呼ばれてるみたいだけど」

「先にシャワー浴びたいんだけど、しょうがないか。少しだけ時間もらってもいいかな?」

「待ってるよ」

「ありがと、行ってくるね!」


 百合は手招きするおばちゃんの居る方へと駆けていった。

 先日のパーティで百合が作ってくれたケーキもそうだけど、どうやら最近彼女は料理に夢中になってるみたいで。

 たぶんそれに関するアドバイスでも貰ってるんだろう。


「……らし……だよ、だか……し……」

「オ……ル……だよ? 平気……に……って!」


 この距離じゃ、2人が何を話しているのかはわからない。

 全く聞こえない。聞こえない。

 かと言って盗み聞きするのも下世話なので、手持ち無沙汰になった僕は空でも見ながら一息つく。

 すれ違う人は、僕の顔を見るなり頭を下げてくれたりもする。

 なるべく笑顔で返すようにはしてるんだけど、子供が手を振ってくれた時にはさすがに表情を変えるだけでは申し訳なく、一応手を振り返したりもする。

 それがまた恥ずかしくって、うまく手を振れてるかも怪しいもんだ。

 王都に居た時は、自分がこんな立場になるとは思いもしなかった。

 まだ大して月日は経っていないのに、あまりに目まぐるしい変化だ。

 彼らのおかげとは思いたくないけど、僕がクラスメイトに殺意を抱くほど強く恨まなければ、こんなことにはならなかったんだろうな――


「ごめんっ、思ったより話が盛り上がっちゃった」


 気づけば、百合は僕の目の前で手を合わせていた。


「ん……はは、もっと話してきてもよかったのに、まだまだ待てるから」

「話すことが無いわけじゃないんだけど、私としても早くシャワーは浴びたいの」


 再び手を繋いで歩く。

 さっきまでは淀み無く会話できていたのに、一度リセットされてしまうと、どんな話題を切り出せばいいのか見失ってしまう。

 僕が少し黙っていると、百合はそれを察してか、自分から話題を振ってくれた。

 それに乗っかると、自然と流れが出来る。

 笑顔が生まれる。


 ――僕を襲う、嘔吐感にも似たこの不安は。


 会話が一旦落ち着いた所で握る手に少し力を込めると、百合は「ん?」と首をかしげながらこちらを見た。

 特に意味は無い、


 ――心が重くなる、鉛で満たされる、沈んでいく。


 ただ気を引きたかっただけだ。

 意味もなく名前を呼んでみたり、意味もなく触れてみたり。

 そんなおふざけが出来るのも、恋人同士の特権で。


 ――泥の沼の底は酷く暗く、苦しい。窒息しそうだ。


 意図に気づいた百合ははにかむと、小突くように肩を触れ合わせた。

 思わず顔がほころぶ。

 こんな風に何気ないやり取りにこそ、幸せって潜んでいるものなんだ。

 そう実感する。


 ――だが死因は無い。眼球を逸せば、夢は夢。幻は幻。現は遠い。


 城が近づいてくる。

 一緒にシャワーを浴びるって言ってたのは、冗談じゃないんだよね。

 もちろん、シャワーを浴びるだけじゃ済まないって言った話も冗談のつもりなんかじゃなくて。

 期待感に体温が上昇する、胸が高鳴る。

 百合も僕と同じような状態らしく、頬を赤らめながら――


「シーラッ、どこに行きやがったああぁぁぁぁぁあああッ!」


 そんな怒号が、甘い雰囲気をぶち壊した。

 突然の出来事に、僕らは同時に城から出てきた彼女の方を見る。

 キシニアだ。

 全身血まみれのキシニアが、手に金属製のサーベルを握り、叫んでいる。

 ぎょろりとした彼女の目が、僕と百合の姿を捉える。


「おいミサキッ、シーラを見なかったかい!?」


 シーラって――キシニアの従卒だったはず。

 仲間に薬を使って犯されたせいで心神喪失になって、喋ることすらできない状態になっていた。

 確か、今も城の診療室で治療してるって話だった気がするんだけど。

 もしかして脱走したとか? いや、だとしたらどうしてキシニアは血まみれになってるんだ?


「僕は見てませんが、その血……どうしたんですか?」

「殺してきたんだよ、シーラの面倒見てた医者をねェ!」


 さもそれが当然のことだとでもいうように、キシニアは大声で言った。

 つまり彼女の体に付着している血液は、返り血なんだろう。

 手に持ったサーベルで、有無を言わさずに首を飛ばしたのか。


「なんでそんなことに?」

「……汚染、されてたんだ」


 ”汚染”。

 そのワードを聞いた瞬間、僕の体は電撃でも受けたかのように動かなくなった。

 呼吸すらうまく出来ない。

 汚染? どうして――なんで、この帝都で、そんなことが。


「少し話しただけですぐにわかったよ、明らかに異常だったからねェ」

「だとしても、どうして帝都にオリハルコンが? まさかこの前の戦いの時に!?」


 僕が倒した3機のアニマは僕が捕食して跡形もなくなったはず。

 どこかに食べ残しでも残っていたっていうんだろうか。


「違うね。シーラがうちの連中に犯された時、王国から持ってきた薬を使ってたって話をしてたろ?」


 確かにそんな話を聞いた覚えがある。

 まさか――


「それがオリハルコンの粉末だったんだよ!」

「自分に使われた粉末を、シーラさんが隠し持ってたと」

「だろうねェ。医者の飲み物か何かに仕込んだんだろうさ。そして、汚染された医者はシーラを帝都に放した」


 だから、こんな必死にシーラを探してるのか。

 せっかく順調に復興も進んでたのに、なんて余計なことを。


「シーラさんが放されたのはいつごろからだったんです?」

「おそらく一昨日あたりだと思う、はっきりとはわからないけどねェ」


 一昨日という時期にも、シーラさんのことにも、心当たりは無かった。

 顔すら見たことが無い。

 無かったけれど――


「……」


 僕の脳裏に、なぜかついさっき見たばかりの光景が浮かぶ。


「どうして黙り込むんだい、まさか心当たりがあるとでも?」

「……いや、僕は」


 気のせいだ、ただの考えすぎなんだ。

 そう決めつけて、僕が話すことを拒んでいると――百合が僕らの話に割り込んでくる。


「あのっ、キシニアさん!」


 百合は、話の腰を折るような事をする人間じゃない。

 何か重要な情報を持っているのだろう、とキシニアは聞き返した。


「あんたも何か知ってるんなら教えて欲しい、これ以上汚染を広めないためにも」

「汚染って、オリハルコンを体の中に取り込むことですよね」

「ああ……ってあんたらの方が知ってるはずじゃないのかい?」

「ええ、そうなんですが――」


 百合は笑う。

 笑って、不自然なほどに笑って、壊れて笑って。

 言った。


「オリハルコンは素晴らしい物質です。なのに、どうしてそんなに慌ててるんですか?」


 ――。


「あんた、まさか……」


 唖然とするキシニア。

 僕はその瞬間、頭の中が真っ白になって、何も考えることができなくなっていた。

 ようやく思考が可能な状態になっても、浮かぶ言葉は1つだけ。

 ……死にたい、と。

 復讐を終える前の身で、初めて本気で思ってしまった。


「キシニアさん、百合のことは僕に任せてください」


 ぼそりと、ギリギリ聞こえるぐらいの小さな声で言った。

 わざとじゃない、それいぐらいの音量しか出せなかったんだ。

 これ以上力を込めると、一緒に涙まで溢れてしまいそうだったから。

 でも、どっちにしたって雫が頬を伝うのは時間の問題で。

 気づけば僕の視界は歪んでいた。


「ミサキ、まさか気づいてたのかい?」

「気づいたのはついさっきです。さっき、食堂のおばさんと百合が話してる時に、おかしいなって」


 でも、”もしかしたら”でしかなかった。

 ただの可能性なら、確定していないなら、見て見ぬふりをすることで無かったことにできる。

 現実を突きつけられるまでの間だけは、今まで通り幸せな僕と赤羽百合でいられるから、と僕はその方法を選んだ。


「おそらく原因は……食堂ではないかと」

「そうか、シーラは粉末を料理に混入させて……はっ、こりゃ被害者は1人や2人じゃ済みそうにないねェ」


 だとしても。

 100人や200人だったとしても、どうでもよかった。

 両手で顔を覆っても、涙は指の間をすり抜けて、手の甲を流れて落ちていく。

 途方もない無力感で全てが満ちている。

 足から力が抜けて、僕は崩れ落ちた。


「岬、どうしたの? なんで泣いてるの? オリハルコンは素晴らしい物質だよ? オリハルコンさえあれば泣かなくてもいいんだよ?」


 いつもと変わらない調子で僕を慰める百合の声が、僕をさらに惨めにする。

 まだ、汚染は軽度なんだろう。

 だからオリハルコンの話題が出てこない限りは、症状は表面化しない。

 けど、たぶんだけど、時間が経てば経つほどに症状は悪化していって、やがてオリハルコンのことしか話さなくなる。

 そこにいるのは、百合の形をしただけの、百合ではない何かで。


「百合は、僕が殺しますから」


 僕ははっきりと宣言した。

 せめて、百合が百合でいられる間に殺してやることが、僕にできることだと思うから。

 嫌だけど。

 本当は嫌だけど。

 嫌に決まってるし、もっと一緒にいたいし、好きだし、愛してるし、いっそ僕も一緒に汚染してしまえば楽になるんじゃないかとか色々考えて、頭ん中を色んな考えがぐるぐる回って、回って、壊れそうなほど回るんだけど、けど結局――殺すしか無いって、結論になるから。


「だからシーラさんのことは、キシニアさんに任せます」

「あたしだったら楽に殺してやれるよ?」


 それはたぶん、彼女なりの優しさだった。

 身にしみる、さらに涙量が増えそうになる。

 でもそれだけはだめだ。

 殺すのは僕じゃなくてはならない。

 彼女のまっとうな生を歪めた僕は、ならば彼女にまっとうな死を与える存在でなければ。

 罪も背負う、罰も受ける、全て含めて、誰かを愛するということだから。


「僕が殺さなくちゃ、ならないんです」

「……そうかい。だったらあたしはもう何も言わない。情報ありがとね、助かったよ」


 そう言って、血まみれのキシニアは食堂へ向かって歩いてゆく。

 通りでは悲鳴があがっていたが、そんなことは関係ない。

 彼女にとっても、僕にとっても。

 涙はまだ止まっていないけれど、僕は顔を隠すのをやめて、ゆっくりと立ち上がった。

 怖い。

 百合の顔を見るのが、怖い。

 けれど、僕は責務を果たすため、彼女と向き合う。


 ――百合は、泣いていた。


 僕と同じぐらい、いや僕よりずっとひどい顔で、ぼろぼろと涙を流して。

 ついさっき、自分が口にした言葉を強く強く悔いるように。


「わ、私……私、何を……なんで、あんなことをぉっ……!」


 一番つらいのは、百合だ。

 ”汚染”の存在を知らない人間は、おそらく違和感すら覚えない。

 気づかないうちに侵食され、自分とは違う何かに生まれ変わっていく。

 ある意味で、それは幸せなことなのかもしれない。

 無知の幸福というやつだ。

 けど、半端に知ってしまった僕たちは、変わりゆく自分の異変に気づいてしまうから。

 だから、こんなに傷ついて、苦しんで。


「やだ……やだぁ! まだ、岬としたいこと、たくさんあるのに……ずっと、岬と一緒にいたいのにぃぃぃ……っ!」


 言葉が出ない。

 何を言えば良いのかなんて、僕にも、誰にもわからない。

 そんな自分が不甲斐なくて、情けなくて。

 僕は百合の体を引き寄せ、掻き抱く。


「みさきぃ、みさきいぃぃっ!」


 百合は肩に顔を埋めて、苦しくなるほど強く両腕に力を込めて僕にしがみつく。

 温かい、柔らかい、痛い、痛い、痛いっ。

 この感触の全ては百合から与えられるものだ。

 間違いなく、百合が、百合が、百合が、百合が、百合がっ!

 馬鹿げてる、こんな最高に幸せな瞬間を、なんで僕は泣きながら過ごしてるんだ?

 こんなはずじゃ、なかった――例え死んだとしても、こんなはずじゃ――


「しにたくない、しにたくない」


 知ってるし、僕だってそう思ってる


「死にたくないよぉ、やだよおぉ!」


 やだ、やだ、僕だってやだ。


「みさき、助けて? 私を……私をたすけてぇっ!」


 助けられるものなら――助けたい。

 でも、無理だ。

 今の僕にはまだ、どうすることもできない。


「……ごめん」


 僕の言葉を聞いて、百合の声はぴたりと止んだ。

 知ってたさ、期待に応えられないことぐらい。

 それでも、嘘はつけない。

 僕に言えることは、残酷だと知っていても、それだけだ。


「んーん。わたしこそ……ごめんね」


 百合は震える声で、恐怖を必死に押し殺している。

 無理をさせている。

 なあ、わかってるのかよ白詰岬。

 お前は、無力なお前は、愛してるとかのたまっておきながら、女1人も救えずに、あろうことか気を遣わせてるんだぞ?

 何が背負うだよ、何が責務だよぉっ! 何も出来ない言い訳じゃないかそんなの!

 ああ――きっと、アイヴィの死を見届けた時のプラナスも、きっと同じ気分だったんだろうな。

 もしそうだったとしても。

 それが可能だったとしても。

 情けないものは情けない、無力なものは無力、憎いものは憎い。憎い、憎い、自分自身が憎い!


「そろそろ、いこっか」

「うん」

「場所は、岬の部屋でいーい?」

「そう、だね」

「部屋汚しちゃうかもよ?」

「構いやしないよ」

「そっか。じゃあ、決まりね」


 抱き合っていた体同士が、名残惜しく離れていく。

 たぶん、もう百合と抱き合うことは一生ないだろう。

 少し距離を置いて、けれど手と手は繋いで。

 百合は今にも壊れそうな、儚い笑顔を浮かべて言った。


「岬、どうか私を殺してください」


 それはたぶん、僕に責任を負わせないための、百合なりの精一杯の思いやりだった。

 自分が頼んだことなのだと、そう言い訳させるために。

 けれどそれだけは許せないから、僕はこう返す。


「百合、どうか僕に殺させてください」


 少しの間だけ百合の顔から笑顔が消え、そしてすぐに元に戻る。

 そして、こくりと頷いた。






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