人喰い転移者の異世界復讐譚 ～無能はスキル『捕食』で成り上がる～

3章 旅路は血縁に導かれ

62 私たちを血縁者だと証明する術の無いこの世界で肉欲を抑制する必要性について

　目を覚ますと、青い空があった。

　左右を見渡すと、僕の視線より低い位置に木造の家が並んでいる。

　スケール感が狂っている、夢なのだろうかと思い自分の手のひらを見ると――黒かった。

　そっか、ウルティオを発現させたまま気を失ったのか。

　ヘイロスとの戦いからどれほどの時間が経ったのだろう、周囲が明るいってことは一晩以上は過ぎたんだろうけど。

　ひとまずアニマを解除、生身の体で周囲を散策する。

「誰もいないな……」

　そこは、無人となったエクロジーだった。

　僕は森の中で倒れたはずだから、誰かがここまでウルティオを運んでくれたんだろう。

　あの図体を運べるのは、アニマかアニムスだけ。

　しかも周囲は魔物だらけだったはずだから、それなりの力を持ったアニマ使いの可能性が高い。

　行き倒れのアニマを助けるなんて、善人なのか、はたまた打算なのか。

　戦闘が終わったことを知らない百合やエルレアたちが戻ってきたとは考えにくいし。

「宿、か。夜が明けてるってことは誰かが泊まってる可能性もあるよね」

　目を覚ました時、隣にあったのは宿だった。

　ここなら食料もあるだろうし、寝床にも困らない。

「おじゃましまーす」

　僕は念のため声を出しながら建物に踏み入れる。

　明かりの消えたロビーは非常に暗い……はずだった。

　けれど、宿の中はやけに明るい。

　どうやら、誰かが魔力で明かりを灯すランプを起動させたらしかった。

　そして入り口から首だけを突っ込んで周囲を見回すと、椅子に座りくつろぐ人間の姿を見つけた。

　腰あたりまで伸びた黒い髪。ふくよかな体のライン。女の人みたいだ。

「あのー、もしかして僕を助けてくれた人ですか？」

　声をかけると、彼女は振り向く。

　そして僕たちは見つめ合ったっまま、互いにぴたりと静止した。

　……うそ、だ。

　いや、この世界に来てるって話は聞いてたけど、まさか、こんな。

　帝都からの距離を考えると、僕がエクロジーに居るって話を聞いてたとは考えにくい。

　だとしたら、完全に偶然で。運命で。

　この広い世界で、偶然再会できるなんて――奇跡、としか思えなくて。

「お姉ちゃん……？」

「岬ちゃん……！」

　僕の顔を見て、目の端に涙を浮かべるその人は、間違いなく白詰(しろつめ)　命(みこと)、その人だった。

　お姉ちゃんは勢い良く椅子から立ち上がると、最初は懐疑的にゆっくりと、次第に早歩きになり、終いには駆け足で僕に近づき、そのまま抱きついてきた。

　ぼふっ。

　懐かしい柔らかさと、ぬくもりと、甘い香りが僕を包み込む。

　懐かしい香り。

　胸からこみ上げるノスタルジーが涙となって、視界を潤ませた。

「岬ちゃん、岬ちゃんだ……本当に岬ちゃんだぁっ！」

「お姉ちゃん、本当にお姉ちゃんなんだね……！」

「うん、うんっ、お姉ちゃんだよっ、岬ちゃんのことが大好きなお姉ちゃんはここにいるよぉ……！」

　少しためらったけど、僕もお姉ちゃんの背中に腕を回す。

　僕らは体を密着させながら、強く固く抱き合った。

　あれ？　でも――なんで、お姉ちゃんは僕が岬だってわかったんだろう。

　だって、今の僕って女の体だよね。

　顔も面影ないわけじゃないけど、どちらかって言うと男だった頃の僕よりも、お姉ちゃんに似ていて。

　だからわかった？　いや、それだけじゃ根拠が薄すぎる。

「岬ちゃん、岬ちゃあん……」

　聞きたいけど、お姉ちゃんは涙をボロボロ流してそれどころじゃなさそうだ。

　僕もひとまずは、無心でこの再会を満喫することにしよう。

　◇◇◇

　それからたっぷりと抱き合った後、ようやく落ち着いた僕たちは、テーブルを挟んで向かい合った椅子にそれぞれ腰掛けた。

　目が合うたびに、お姉ちゃんはにこっと笑いかけてくれる。

　その姿は、僕がまだ小さかった頃、一番お姉ちゃんに甘やかされていた時の笑顔に似ていて。

　例の――僕の自慰を撮影した動画をみた後とは、あまりに違いすぎていた。

「岬ちゃん……お姉ちゃんすごいことに気づいちゃったんだけど」

「どうしたの？」

　先程までずっと笑顔だったお姉ちゃんの表情が、驚愕に満ちる。

「い、いつの間に、女の子になったの？」

　……今まで気づいてなかったんだ。

　ってことは、外見で僕を僕だと判断したわけじゃないってことか。

「この世界に来た時に事故でね」

「そう、大変だったのね。体の調子はおかしくなあい？」

「特に違和感は……いや、無いって言ったら嘘になるけど、困るほどじゃないかな」

　幸い、相談に乗ってくれる女性は傍に居たから。

「でも、どうしてこの姿を見てすぐに僕だって気づいたの？　見た目、全然違うと思うんだけど」

「わかるよぉ、だって私はお姉ちゃんだもの」

「はは、理由になってないって」

「そうかなあ？　じゃあ、弟オーラみたいなのを感じるって言えばいいのかなぁ。匂いや体温、仕草、表情、喋り方――例え性別が違っても、全部が岬ちゃんが岬ちゃんなんだって教えてくれたから」

　お姉ちゃんは胸に手を当て、自慢げに言った。

　そっちの方が、アニマなんかよりよっぽど魔法めいている。

　要するに、理屈じゃないんだろうな。

　愛情の深さを痛いほど感じる。

「そういえば、岬ちゃんは1人だけなの？　森や山がめちゃくちゃになってて大変なことになってたけど、怪我は……無いみたいね」

「仲間や町の人たちを避難させて戦ってたんだ。周りにいた魔物、お姉ちゃんが倒してくれたんでしょ？　ありがとね、怪我がないのはお姉ちゃんのおかげだよ」

　笑いかけながら言うと、お姉ちゃんの頬がぽんっ、と一気に赤く染まった。

　自分でもそれに気づいたのか、慌てて隠すように頬に手を当てる。

「でへへ……お、弟を守るのはお姉ちゃんの役目だから。んふふぅ……お礼なんて良いのにぃ、もぅっ」

　以前から相当僕には甘かったけど、ここまでデレデレだったっけ。

　僕の自慢ばかりをしていた、というクリプトの話は半信半疑で聞いていたけど、あながち嘘でも無いみたいだ。

　だったら……動画を送られたあとのそっけない態度は何だったんだろう。

　まあ、そりゃ弟の自慰動画が送られてきたらどんな姉だってドン引きするだろうけど。

　だからこそ、今のお姉ちゃんとのやり取りを不自然に感じる。

「よし、決めたっ！」

　僕が首を傾けていると、お姉ちゃんはおもむろに立ち上がる。

　完全に思考に気を取られていた僕はその音に驚き、びくっと震えた。

　しかしそんな僕の戸惑いなど知らずにお姉ちゃんはずかずかと僕に歩み寄り、そしてあろうことか向かい合った状態で膝の上に座った。

「もがっ」

　その体勢で抱きしめられると、もちろん僕の顔はお姉ちゃんの胸に埋もれる。

　胸いっぱいに広がる、若干の汗が混じった甘い匂いにくらくらしながらも、くぐもった声で尋ねた。

「お姉ちゃん、急にどうしたの？」

「岬ちゃんに触りたくて触りたくて、我慢できなかったの。苦しかったらごめんね？」

「いや、それはいいんだけど……」

　……良いのかな。

　いくら体が女になったとはいえ、中身は男のまま。

　相手がお姉ちゃんだったとしても、こんなに胸を押し付けられると、僕としては恥じらいと言うか、興奮と言うか、そういうのが無いとは言い切れない。

　肉親だぞ、と自分を諌めながらも、高鳴る胸の鼓動を抑えることができなかった。

「岬ちゃんの体、熱くなってる」

　お姉ちゃんの手がうなじに伸びたかと思うと、つぅ、と柔らかなタッチで表面を撫でる。

　ゾクゾクとした感覚に「ひぅっ」と声が漏れ、思わず背筋が伸びた。

「嬉しい、岬ちゃん私の体で興奮してくれてるの？」

　熱のこもった声に、僕は違和感を覚えた。

　それは果たして、姉が弟に向ける声として正しいものなんだろうか、と。

「ま、待って、待ってよお姉ちゃん！」

「だーめ。待ったから、今日までずっと待ってたんだから。もう待たないって決めたの、待たないでいいって教えてもらったの」

「誰に！？」

　今はそんなことどうでもいいはずなのに、思わず聞いてしまった。

　まあいいや、時間稼ぎにはなるだろうから。

「リアちゃんって言う女の子。帝国の皇帝をやってるんだって」

「皇帝って……」

　確か、リアトリス。

　帝国の皇帝にして、四将ですら手も足も出ない最強のアニマ使い……だったはず。

　そんな人と、どうしてお姉ちゃんが？

　と言うか、その人お姉ちゃんに何を吹き込んだんだよぉ！

「我慢なんて必要ない、それだけの力があるなら自分の欲望を満たすべきだって。その通りだよね、せっかく再会できたんだもん、目障りなお父さんやお母さんも居ない、だったらやりたいことをやらなくっちゃ」

　お姉ちゃんは、両親を迷いなく目障りだと切り捨てた。

　確かに、日本に居た頃から何ていうか、2人には事務的に接していたような部分がある。

　だからこそ、両親にとってお姉ちゃんは優等生で理想的な娘で、一方で僕の前では誰よりも優しい姉だった。

　唯一の家族と言っても良い。

　それでも、お姉ちゃん相手に劣情を催したことなんて一度も――

「岬ちゃんは、お姉ちゃんのこと嫌い？」

　聞き方が卑怯だ。

「嫌いじゃないよ、大好きだ」

「うん、お姉ちゃんも大好き。世界で一番愛してる」

「でも……こっちに飛ばされてくる前は、冷たかったよね」

　仕返し、と言わんばかりの意地悪な問いかけ。

　お姉ちゃんは口ごもり、僕を抱きしめる両腕から少し力が抜ける。

　今のうちに抜け出す準備を――と思ったけど、体が思うように動かない。

　あれ、寝起きで鈍ってるのかな。それとも足が痺れてる？　そんな感覚は無いのにおかしいな。

「……それは、岬ちゃんがあんな動画を送ってくるから」

　沈黙を裂いたのは、お姉ちゃんのそんな言葉だった。

　ああ、やっぱりそうか、あれが原因だったんだ。

「あれは僕の意思じゃないよ」

「知ってるよ。岬ちゃんがいじめられてた事だって知ってた、なのに私は守れなかった。あの時ほど、私は自分の無力さを呪ったことは無かった」

「お姉ちゃん……」

　その言い方から察するに、お姉ちゃんは何もしなかったわけじゃないんだろう。

　僕のために動いてくれた、けれどどうしようもなかった。どうにもならなかった。

　僕を取り巻く環境は、あまりに詰み過ぎていて。

　それこそ、殺さなければ何も変わらないぐらいに。

「そんな時、あの動画が送られてきたの」

「ごめんね、あんな見苦しいもの……」

「ううん、見苦しくなんて無いよ」

　お姉ちゃんの声が、再び色っぽくなる。

　音が、振動が、まとわり付くように耳をくすぐった。

「岬ちゃんが私の名前を呼びながら慰めてくれている、岬ちゃんが私の事を思って果ててくれている。はあぁ……それだけで、それだけで、気づいたらね、私……んっ、んうぅぅっ……！」

　僕を抱きしめながら、お姉ちゃんは体を震わせる。

「お、お姉ちゃん？」

　戸惑いながら声をかけるも、しかし僕の声はお姉ちゃんには届かなかった。

「ごめんね、ごめんね、はしたないお姉ちゃんでごめんね。でも、駄目なの。スマホの電池が切れちゃってて、あの動画はもう見れなくなっちゃったけど、思い出すだけで体が熱くなって頭が真っ白になっちゃって！　それに、それにね、今は目の前に岬ちゃんがいるの。岬ちゃんの感触が、体温が、血の巡りが、呼吸音が、ぜぇんぶ体で感じられるの！」

「むぐ、むぐぐぅーっ！」

　僕を抱きしめる両腕に再び力が込められ、息苦しいほどに胸が押し付けられる。

　それだけじゃない、お姉ちゃんは微かに体を揺らして、まるで体を僕に擦り付けているようだ。

　僕だって経験が無いわけじゃないし、何を目的としてそんなことをしているのかぐらいはわかる。

　けど、だけどっ、理解できたとして、それを現実として受け入れられるかどうかはまた別の問題であって――

「はあぁっ、私っ、私はぁ、あの動画を見た時にわかったの。私が岬ちゃんにずっと感じてきた感情は、姉が弟に抱くようなものじゃなかったんだって、劣情を伴う恋だったんだって気づいちゃったの！　あんな物を！　あんな素敵な動画を私に送るからぁっ！」

　じゃあ、お姉ちゃんが僕を避けるようになったのは、引いてたからじゃなくて。

「最初は自己嫌悪だった、最低のお姉ちゃんだ。私なんかが岬ちゃんのお姉ちゃんを名乗っていいわけがないって。だから離れたの。苦しくて、苦しくて、胸が張り裂けそうだったけど、私ね、私、岬ちゃんのためなら死んだって構わないと思ってたから、岬ちゃんのためだって思ったら耐えられた！」

　だったら、今こうして、何の遠慮もしていないのは？

「でもね、気づいたの。気づいちゃったの。確かにリアちゃんと色々お話して吹っ切れたっていうのもあるんだけどね、一番の理由は、どうして姉弟で愛し合っちゃいけないのか、その理由を思い出したから」

　それは、血が繋がっているから。

「賢い岬ちゃんだったらわかってるよね。だったら聞かせて？」

　血縁者同士で子供が出来たら、子供に障害が出る可能性があるからって、そんな話を聞いたことがある気がする。

「私たちを血縁者だと証明する術のないこの世界で、私が岬ちゃんへの想いを、性欲を、肉欲を我慢する必要性って――」

　お姉ちゃんは突然腕を解くと、僕の膝から降りる。

　そして両手を僕の頬に当てて、至近距離で見つめあいながら言った。

「なあに？」

　声が、出なかった。

　血走った瞳、赤らんだ頬、荒い呼吸。

　全てに、情欲が満ちていたから。

　長年一緒に生きてきた姉の、見たことのない表情に、僕は恐怖を感じていた。

　まるで、僕の一番傍に居た人が、誰よりも遠くに行ってしまったようで。

「それに、岬ちゃんが女の子になったなら、もう子供の心配をする必要も無いよね。私たち、安心して愛し合えるよ」

「待ってよ、お姉ちゃんは大事なことを忘れてる」

「これ以上に大事なことってなあに？」

「僕の気持ちだよ。それはお姉ちゃんの意思だ、僕のことなんてこれっぽっちも考えてないじゃないか！」

　お姉ちゃんとの再会を、僕は心の底から喜んだ。

　復讐でもなく、下心もなく、純粋な気持ちでこんなに何かを喜ぶことが出来たのは久しぶりだ。

　思わず目に涙を浮かべて、それぐらい嬉しかったのに、今は――別の意味で、ああ、泣いちゃいそうだよ。

「岬ちゃん、どうして泣いてるの？　お姉ちゃんのこと嫌いになっちゃった？」

　柔らかな指先が溢れる涙を拭う。

　その仕草自体は、以前の優しいお姉ちゃんと何も変わらない、なのに……どうしてこうも、状況は変わってしまったのか。

　時の流れだけじゃ説明できない、あまりに残酷だ。

「嫌いになんてなれないよ、僕にとって家族はお姉ちゃんだけだ。他の誰かなんてありえない。だから……悲しいんだよ」

「やっぱり、気持ち悪いと思ったんだ」

「思えないよ、だから悲しいんだ」

「お姉ちゃんとはキス出来ない？」

「家族としての愛情表現なら出来るよ」

「お姉ちゃんとはエッチしたくない？」

「そういう気分にはなれない」

「……そっか」

　僕の気持ちが届いたのか、お姉ちゃんは悲しそうな顔をして僕から離れた。

　嫌いなわけじゃない、好きだし、愛してる。

　だとしてもそれは、彩花や百合、エルレアに向けた感情とは違うもので、どう変化しても同じものにはならないと思う。

　お姉ちゃんだって、少し冷静になればわかってくれるはず……だった、のに。

「じゃあ、ベッドのある部屋に行こっか」

　お姉ちゃんは、無情にも僕にそう告げた。

　そしてこちらに手を差し出す。

　まるで拒絶されることを考慮しておらず、当然のように僕がその手を握るだろうと確信しているように。

「違うんだよお姉ちゃん、僕の”好き”はそういうのじゃ……」

　そう言いながらも、気づけば僕は差し出された手を握っていた。

　……？

　何を、何をしているんだ僕は。

　そして手を引かれて立ち上がり、繋いだまま2階にある部屋へ向かっていく。

　抗う気持ちはある。

　けれど不思議なことに、僕の体は僕の意思と関係なしに進んでいく。

　どうして？　一体何が起きてるんだ！？

「スキル、知性を否定する愛(ロマンティクス)」

「……え？」

「常時発動型スキル、って言うんだって。相手の首に触れると、その相手は私の意思に逆らえなくなるの」

「まさか、あの時――」

　抱きしめながら、僕の首を撫でたのは、スキルを適用するため？

　つまり、最初からお姉ちゃんは、僕の意思なんて聞くつもりはなかった。

　最初から、受け入れられなくても、無理矢理にでも僕と体を重ねるつもりだった。

「そんなの……そんなのって、無いよ！」

「ごめんね、ごめんね」

「間違ってる、お姉ちゃん冷静になって、僕たち血の繋がった姉弟なんだよ！？」

「知ってる、わかってる。でも……理屈を並べて消える程度の恋なら、こんなことをする前に、とっくに諦めてるはずだから」

　部屋の前にたどり着くと、若干乱暴に扉を開き、僕はベッドに押し倒される。

　馬乗りで僕を見下ろすお姉ちゃんは、一度舌なめずりをすると、完全に色欲に飲まれた目で僕を見つめながら言った。

「許してくれなくても良い。でも今だけは……お姉ちゃんの性欲(ゆめ)を満たすために、私を愛して欲しいの」

　お姉ちゃんの顔が近づいてくる。

　僕は耐えきれずに、目をぎゅっと瞑った。

　遮られた視界の中で、溢れた涙が頬を伝う感触だけが、やけにはっきりと感じられた。