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61  決着

ごめんなさい、日付またいでしまいました。

 





 そこから――初めて戦いらしい戦いが始まった。

 蹂躙ではなく、真っ向からの力と力のぶつかり合い。

 無論、能力で優れているのはヘイロスの方ではあるが、所詮”今はまだ”に過ぎない。


「シィッ!」


 ヘイロスは暴食(グラトニィ)を発動させまいと、小刻みにコンパクトな攻撃を仕掛けてくる。

 パワーよりもスピード重視、したがってシヴァージー・マギアならば受け止めることが出来る。

 しかし桂がそういった手を使ってきたという事は、ようやくウルティオを脅威として認識してくれたらしい。

 フォン――バヂィゥ!

 激しく火花を散らしながら、空中でぶつかり合う剣と剣。

 周囲の魔物たちは衝撃波によって吹き飛ばされ、近づくことすらできなかった。

 邪魔が入らないのはいい、けどこのままスキルを発動出来ずに、少しずつ追い詰められていくのもつまらないな。

 使い慣れない武装ばかりで上手く動くかわからないけど、やってみるか。


「アンサラー・スレイヴ、行けぇッ!」


 ガギンッ!

 金属音と共にウルティオの両腰から、小さなユニットが2つパージする。

 機体から離れたそれは、浮かんだまま変形した。

 生きる銃のように自動(・・)で敵を打ち貫く、バレルに羽が付いたようなユニットこそが、アンサラー・スレイヴ。

 その名の通り狙撃形態(モードアンサラー)の機能を受け継ぎ、さらに喰らった羽虫型の能力を追加した新たな武装だ。

 エクスカリバーでの近接戦闘を仕掛けてくるヘイロスを敵と認識し、スレイヴたちは銃口から魔力を放つ。

 バシュゥッ!

 ヘイロスは2方向からの射撃を、素手で避けたものの――


「新たな武装……そうか、吸収するのは能力だけでは無かったか」


 不意を突かれ、生じるタイムラグ。

 それを僕は見逃さなかった。


「スキル発動(ブート)暴食(グラトニィ)!」


 こちらに近づけず、遠巻きに見ているだけだった魔物たちの背後の景色が歪む。

 そして歪んだ空間の向こうから現れた、醜悪な捕食口。

 暴食は、一定範囲内のHP3000以下の相手を無条件で喰らい尽くす。

 無論、死んでいるアニマだって例外じゃない。


「っ……はあぁ……」


 開く(・・)感触は相変わらず……いや、以前よりもさらに強烈で。

 戦闘中だっていうのに妙な声が溢れてしまう。

 体が熱を帯び、溢れる力に恍惚とする。

 すでに100体単位の魔物を喰らったウルティオは、暴食(グラトニィ)を発動させてもあまり姿が変わることは無かったけれど、何も変化が外見だけに生じるものじゃない。

 数多の魔物の(アニマ)を喰らい、その力を取り込む度に、武装は増加し、変異する。

 シヴァージーとハイソーサリーサーベルがシヴァージー・マギアに姿を変えたように。

 狙撃形態(モードアンサラー)がアンサラー・スレイヴに姿を変えたように。

 使い慣れた他の武装とて――


「小さい上に素早いとは、剣で落とすのは困難か。ならば――クラウソラス」


 ヘイロスがスレイヴに苦戦する中、僕は右手にクロスボウを展開する。

 ガーンデーヴァだ。

 しかしその形は以前と若干異なる。

 矢が装填され、照準をスレイヴを射落としたヘイロスに向け、放つ。


「無駄だ」


 桂はもちろん手にした剣で迎撃しようとした、払い落とそうとしたのだろう。

 だが、矢には彼の剣が届く前に火が灯り、やがて猛々しく揺れる炎となると、弾けて火の雨となりヘイロスへと降り注いだ。

 ドドドドドドドォッ!

 火の群れに周囲に居た魔物たちも巻き込まれ、ことごとく倒れていく。


「……これも新たな武装か」

「ガーンデーヴァ・アグニって言うんだ。前とは違って威力も十分だったでしょ?」

「確かに強くはなった、だが損傷はあまりに軽微だな」


 桂は折れない。

 いや、そもそも折れるという観念自体が存在していないのか。

 ダメージが無いわけ無いんだけど、それでも彼は一直線にこちらに向けて迫ってくる。

 恐怖も消えてるんだろうし、当然と言えば当然か。


「速度ならばまだこちらが上だ」

「それはどうかなあ? スキル発動(ブート)羨望せよ我が領域(ナルキッソス)!」


 地上ならば上空へジャンプするだけのこのスキル。

 しかし空中で使うと、脚部から吹き出す魔力によって擬似的なブースターとして使うことが出来る。

 一瞬とは言え、この戦闘においてその一瞬は大きな意味を持つ。


「アンサラー・スレイヴ! ガーンデーヴァ・アグニ!」


 距離を取りながら再度スレイヴの生成、さらに”軽微”と称された武装で足止めを図る。

 エクスカリバーの一薙ぎで火を吹き飛ばすヘイロス。

 桂の頭なら、その一太刀がどれだけ重い意味を持つのか理解しているはず。


暴食(グラトニィ)!」


 さらに魔物を喰らう。

 ひとまずHPの確認、残りは――123500/347250。


「……っは」


 思わず笑いがこぼれた。

 そっか、30万か。

 そりゃウルティオも原型を留めてないわけだ。

 けど、僕は同時に恐怖した。

 暴食(グラトニィ)の力がなければ、こうしてヘイロスとまともに戦うことすらできなかったのだから。

 大量の魔物、というお膳立てが有ってこそはじめて成立した戦い。

 こんな化物を、王国はただオリハルコンをくっつけるだけで作ることが出来る。

 昔の人ら、こいつら倒すのにさぞ苦労したんだろう――なっ! と。

 ガギィンッ!

 火の雨の中を突っ切ってきたヘイロスと剣同士でぶつかり合う。

 アンサラー・スレイヴの射撃は無視することに決めたらしい。

 背中を撃たれながらも、桂は真正面のウルティオとの戦いに集中していた。

 だが――力は拮抗している。

 小細工無しで、まっとうに鍔迫り合っている。


「互角……か」

「ついに、だね」

「だが、僕の勝ちが揺らいだわけじゃない」

「負け惜しみをっ!」

「違う、冷静な分析だよ」


 ぐっと腕に力を込める。

 するとヘイロスはわずかに後退した。

 ほら見ろ、少し力を入れただけで立場は逆転する。

 互角なんかじゃない、今は僕の方が上――


「クラウソラス」


 至近距離で、彼はそう呟いた。

 ヘイロスの背中からクラウソラスが放たれ、そしてすぐそばでぐにゃりと曲がると、ウルティオの無防備な背中で炸裂する。


「がっ……」


 強い衝撃に、思わずバランスを崩した。

 ヘイロスは前のめりになるウルティオを避け、そしてさらに落下する背中に向かってエクスカリバーを振り下ろした。

 ズドォンッ!

 背骨が折れたかと錯覚してしまう程の、吐き気がするようなインパクト。

 僕の体は一瞬にして地面に叩きつけられ、顔面含めて体を強打した。

 ちっ、ちょっと調子に乗りすぎたか。

 寝たまま横へ転がり、回避。

 直後、先程まで僕が居た場所にガラティーンの光が突き刺さった。

 爆風に巻き込まれさらに側方へ吹き飛ばされる。

 飛んだ勢いで起き上がり、エクスカリバーで斬りかかってくるヘイロスの攻撃を後退して避ける。

 バックステップの着地時、武装を発動。


「フリームスルス――」

「氷結武装か、だが当たらなければ意味は無い」


 ブォンッ!

 確かに僕の蹴りは空を切った。

 フリームスルスは蹴りが命中して初めて効果を発動する武装。

 でも、それが以前のフリームスルスと同じだと、誰が言った?


「ヴィント」


 風を意味する言葉を付与され、脚部凍結機構(フリームスルス)はさらなる力を得る。

 すなわち、脚部広域凍結機構(フリームスルス・ヴィント)

 ビュオオオオオォッ!

 蹴りと共に生じた強風。

 全てを凍りつかせる魔力はその風にも込められ、前方一帯の全てを凍りつかせる。

 その氷結温度は、以前のフリームスルスとは比べ物にならない。


「氷が……剥がれない、ヘイロスの力でも……!」


 全身が凍りつき、まともに身動きが取れなくなるヘイロス。

 そんな彼を前に、僕はついに最後の一撃をお披露目することにした。

 彼のHPがどれほど削れているかはわからない。

 これがトドメになるというのは、あくまで僕の勘だ。

 感情をオリハルコンに奪われた彼は、HPが0に近づいたとしてもそれを表情には出さないだろうから。


「ぐ……がっ!」


 僕は胸部装甲を展開、かつてヴァジュラと呼んでいた武装の必須パーツ、コアをむき出しにする。

 魔力を溜め込み、それを一気に解き放つための水晶体。

 つまりこれには、ウルティオの体内でもっとも多くの魔力が宿っていた。

 それを右手でつかみ、握り、胸部から引きちぎり、取り出す。


「何をするつもりだ」

「はは……嫌がらせ、だよ」


 これは復讐だ。

 ならば相応しい方法で幕を下ろさなければならない。

 取り出したコアを桂に見せつけるように掲げると、僕は意識を集中させて左手に銃を生成する。

 可変ソーサリーガン、殲滅形態(モードブリューナク)

 いや、可変機構は無いから、ただのブリューナクという銃とでも呼ぶべきだろうか。

 僕はそれに取り出したコアを当てると、ブリューナクは中にそれを飲み込んでいく。


「ヴァジュラのコアを銃弾とし、この銃で撃ち抜く」

「それの何が嫌がらせだと?」

「わかんないかなぁ。ヴァジュラの持ち主は広瀬、そして銃の持ち主は彩花」

「……だから、なんだと」


 桂の声が震えている。

 感情はない、オリハルコンによって無理やり奪われたから。

 けど、魂まで人外に落ちぶれているのだろうか。

 果たして、何もかもが入れ替わっているのだろうか。

 彼が人の心の残滓と呼んだものは、果たして僕との対話だけで全て吐き出せたのか。

 おそらく、答えはノーだ。

 僕への憎しみごときの感情すら残っていたんだ、だったらもっと別の、大事で厄介なアレが残ってるはずなんだ。

 それは、広瀬への想い。


「彩花の力で打ち出された、広瀬の魂で死ぬんだよ。この攻撃の全てが、桂に報いを与えるんだ」

「……っ」

「みじめだよね、あんなに一緒に居たのに、尽くしたつもりだったのに、報われないどころか殺されるだなんて」

「団十郎」

「そう、だんじゅうろうクン。ウルティオの捕食はさ、魂を喰らう行為なんだ。まあ、感情とか意志とか記憶あたりはどこかに消えちゃうみたいだけど、この銃に込められた弾丸は、紛れもなく広瀬の魂の一部なんだよ」

「僕は……僕は……」


 そうそう、その調子。

 せっかく最期なんだから、今ぐらいは人間らしさを取り戻そうよ。

 そして悔み、憎み、泣き叫びながら死のう。

 それでもまだ、彩花を貶めたお前には甘すぎるぐらいなんだから。


「……いや、だ」

「ん?」

「いやだ、いやだ、いやだ、死にたくない……団十郎に、殺されたくない……!」

「うんうん、そうだろうね」

「そうだ、僕は……僕は、団十郎のことを愛していた! ずっと一緒にいたかった!」

「へえ、それでそれで?」

「だからっ」


 桂がこんなに感情を露わにする姿を見るのは、初めてだった。

 それが緑色の結晶になった状態、ってのは愉快な状況ではあるけれど、彼の本音を引き出せたことに違いはない。

 感情を取り戻した彼には、未練が残るだろう。

 死んでも死にきれないほど、強い未練が。

 これで、舞台は整ったってわけだ。


「他なら何でも良い。だからどうか、団十郎に、僕を殺させな――」

「断る、彩花(ブリューナク)だってそう言ってる。メルクリウス、発射(シュート)


 桂の言葉を最後まで聞き届けることなく、僕は引き金を引いた。

 コアはブリューナク内部でむき出しの魔力の塊となり、超高速で放たれる。

 チッ。

 電気がほとばしるような音が聞こえたかと思うと、静かに銃口からコアは放たれ――


 視界は、白い光に覆われた。


 キイイィィィィィィ――

 派手な爆発音は無く、耳鳴りに似た音だけが聞こえる。

 暴食(グラトニィ)によって増大した出力、そしてコアそのものを銃弾とすることによって引き上げられた威力。

 この2つの相乗効果によって、メルクリウスへと生まれ変わった新たな武装は、破壊ではなく対象を消滅させることを可能とした。

 光が次第に弱くなり、景色が戻ってくる。


 ――僕の目の前に立っていたヘイロスは、もはや跡形も残っていなかった。


 代わりに、ヘイロスが立っていたであろう場所を始点として、巨大な扇型のクレーターが出来ている。

 クレーターは森をえぐり、前方の山を消失させ、さらに奥にある町の寸前で止まっていた。

 その威力は、あのヘイロスのガラティーンすら凌駕するほどだ。

 コアはしばらくすればまた生成される。

 消耗する魔力量は途方もない量だけど、今のウルティオなら気にするほどではなかった。


「ああ、やっと……倒せたん、だ」


 長い、戦いだった。

 実際の時間はわからないけれど、いくら傷を魔物で補ってきたとはいえ、精神的な消耗が激しい。

 さらにヘイロスを倒したことで気が抜け、足元がふらついてくる。


「は、はは……そりゃそうだよ、あんな化物……絶対、勝てないと思ったし……」


 さらには意識まで朦朧とし、立っていることすら出来なくなってくる。

 地面に膝をつき、手で体を支えることで、どうにか姿勢を維持。

 けれどそれすらも出来なくなり、ついにウルティオは地面に寝そべってしまった。


「まだ……魔物、残ってるのに……」


 体が言うことを聞かない。

 食いすぎて、変わりすぎて、まだ……適応、出来ていないのか。

 戦いで、消耗が激しいし……いくら魔物とはいえ、意識を失ったら、危な……い……。




 ◆◆◆




「さあ、良い子だから行きなさい」


 女が犬型魔物に触れながら命令すると、魔物は命じられるままに走り出す。

 前方には別の魔物が、牙をむき出しにしながら威嚇している。

 しかしそんなことはお構いなしに、魔物は走り、加速し――やがて、その足は宙に浮かびあがる。

 グシャアッ!

 そのまま犬型は前方の魔物に激突し互いに頭部をひしゃげさせながら、絶命した。


「これでぜんぶ、かな」


 灰色で細身のアニマは、女性らしい歩き方で森を進むと、とある場所で立ち止まった。


「魔物が群がっていたから助けてみたけど、変わった形のアニマ」


 彼女は地面に倒れるウルティオに手を伸ばし、「ん、んん……っ」と苦しそうな声を上げながら機体を持ち上げた。


「このアニマの中身が、岬ちゃんだったらいいのに。なーんて……そんな運命の出会いみたいなこと、あるわけないよね」


 言ってから、(みこと)は「はぁ」と小さくため息をついた。

 そしてウルティオを抱いたまま、ふらふらと無人のエクロジーへ向かって歩いて行く。


 周囲には、彼女が仕留めた無数の魔物が倒れていた。

 死体は全て、2体1組。

 そのどれもが――魔物同士が(・・・・)衝突する(・・・・)という、奇妙な死に方をしていた。






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