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53  砕かれる心、その後に残るなにか

 





「スキル発動(ブート)欲望は引力(ホールドオンミー)ッ!」


 更地と化したバシャンテに、女性の声が響く。

 刹那、僕たちは馬車ごとアヴァリティア(・・・・・・・)に引き寄せられた。

 ズドドドドドッ!

 結果、ヘイロスの放った大型ソーサリーガン”ガラティーン”は、誰もいない地表に命中。

 そのまま銃口の角度は少しずつ上っていき、地表に溝を作るように一直線に地面をえぐり取って行った。

 その先に森があろうと山があろうと関係ない。

 障害物は例外なく消し飛び、森には道が出来上がり、山は真っ二つに両断される。

 誇張でも何でもなく、地形を変えてしまうその威力に、僕は声をだすことすらできなかった。


「キッシシシシ、あれが王国から来たって例の化け物かい。ありゃ反則だって、笑うしか無いよ」

「キシニア!」


 フランが馬車から体を乗り出して、アヴァリティアの頭部を見上げる。


「ようフラン、どうやら無事に戻ってこれたみたいだねェ」

「ミサキが連れてきてくれたから! でも、なんであいつわたしが居るのに正確に馬車を狙えたんだろ?」

「考えたって無駄さね、あっちがやる気なんだからまずは戦うしか無い。そこの見知らぬ嬢ちゃんたち、フランに気に入られたってことはアニマ使いなんだろう? 次が来る前にアニマを出しておくれよ」


 僕たちは荷台の中で頷き合うと、転がるように荷台から出た。

 ラビーはひとまずさっきの地下通路に戻っておいてもらう。

 幸いなことに、ヘイロスの狙いは僕のようで、ガラティーンの次弾を準備しながらこちらを睨みつけている。

 僕のウルティオ、百合のイリテュム、エルレアのテネリタス、そしてフランのアーケディアが発現する。


「おお? 姿は違うけど、微妙に見覚えあるな。まさかあんた、王都でやりあったミサキかい?」


 ウルティオの姿を見てキシニアが反応を見せる。


「覚えてたんですね」


 もちろん僕も、復讐相手を身勝手に殺された事を含めてばっちり覚えてるけど。


「そう殺気立つなって、今は味方なんだからさ。キッシシ、運命ってのは何を呼び寄せるかわかんないもんだ!」


 まったくだ。

 運命とお話出来たら、できればこんな厄介な化物は呼び寄せないでくれって陳情しておきたい。


「白詰、白詰、白詰っ、白詰えぇぇぇっ!」


 白詰白詰ってうるさいなぁ、桂は。

 広瀬の次は僕ってわけ? 残念だけど男には興味無い。

 と言うか、プラナスは全身にオリハルコンを纏ってるって言ってたけど、具体的にどういう状態なんだろう。

 サイズは一回り大きくなってるし、背中にも背部ブースターと似たような機構が付いているし、武装の威力は言うまでもなく強化されてはいるんだけども――見た目はヘイロスそのものだ。


「ううおおおおおおぉぉおおっ!」


 ――考察してる場合じゃない、か。

 ヘイロスは背中に背負った大剣――エクスカリバーを手に持つと、猛スピードでこちらへ突進してくる。

 受けるなんて馬鹿なことは考えない、初撃は落ち着いて避ける。

 ブオォンッ! ザザザザザザッ!

 なんとか横に交わしたものの、剣を振っただけで衝撃波が地面を抉っていくという衝撃映像を見てしまった。

 洒落になってない、あんなの直撃しなくたって大ダメージじゃないか。


「もーらいっ!」


 剣を振った直後、フランのアーケディアがヘイロスの背後に迫る。

 手に持つのはもちろん巨大なペンチのような形をした武装――名前はパニッシャーと言うらしい――だ。

 彼女の能力があれば、最初の一撃が入るまでは存在に気づかれない。

 まずは不意打ちでHPを削る。

 先端部分でバチバチと火花を散らしているのは、魔力のほとばしりだろうか。

 彼女は十分な力が込められたパニッシャーをふりかぶると、ヘイロスの背中へと必殺の一撃を放つ。

 だが、それより先にヘイロスが動いた。


「こそこそとうざったいんだよッ!」


 背後を振り向きながら、エクスカリバーの刃の腹をアーケティアに叩きつける。

 ガゴンッ!

 相手は気づいていないと思い込んでいたがゆえに、フランの頭には防御という発想が無かったんだろう。

 アーケディアは攻撃をモロに受け、数百メートル吹き飛ばされた。

 きりもみしながら数回地面を跳ね、ようやく勢いが弱まっていく。


「あ……うぅ……いったぁ……なんで見えてるのよぅ!」


 むしろ今のでよく無事だったと褒めたいぐらいだ。

 向けられたのが鋭い刃だったら、とっくに死んでいたかもしれないのだから。

 なんでヘイロスはアーケディアの存在に気づけたのか、これもオリハルコンの力なのか?


「今度こそ、お前だあぁっ!」


 再び剣がウルティオに向けられる。

 アーケディアに意識を向けている隙に若干の距離は取ったものの、まだまだ桂の間合いの内側でしかない。

 次の攻撃にどう対応するか、モンスのアニマ使いから拝借した新しい武装を使ってみるか――

 そんなことを考えていると、何者かの腕がヘイロスの動きを妨げた。


「団十郎が居なくて寂しいからって八つ当たりは良くないと思うよ?」

「百合……また邪魔をするのか!」


 イリテュムの分身体だ。

 百合は軽く桂と会話を交わすと、すぐさま分身を破棄、爆散させる。


「とーぜんっ、ヴァニタス!」


 ドウゥゥゥンッ!

 盛大な爆発、それに巻き込まれないようにさらに距離を取る。

 ついでに爆炎に包まれるヘイロスに向けて一発。


「ヴァジュラッ!」


 あえての広瀬から頂いた武装で、桂に仕掛ける。

 さらにエルレアのいくつもの触手を束ねて放つテンタクルス・レイが、ヘイロスを後方から攻撃した。

 挟み撃ちだ。

 そしてヴァジュラとテンタクルス・レイの発射が終わった所で――


「さあ砕け散りな、パラシュラーマ!」


 キシニアのアヴァリティア、その真紅の機体がヘイロスへと飛びかかる。

 ぐるりと縦に一回転しながら、振り下ろすのはもちろん手に持った巨大な斧、パラシュラーマ。

 ガゴォンッ!

 重力と、回転の勢いと、両腕の力が乗った斧は、ヘイロスの頭を激しく叩いた。

 音からしてかなりの衝撃だったことは間違いない、並のアニマだったらとっくに塵も残っていないだろう。


 煙が晴れる――わかっては居たけど、ヘイロスは健在だった。

 仁王立ちで、ダメージなど無いと言わんばかりに堂々とそこに立っている。


「生まれ変わったヘイロスにそんな力が通用するものか……!」


 事実、桂に一切の焦りは見られない。

 三洗(みたらい)のときと一緒だ、本当にダメージは無いんだろう。

 だが前回と違うのは、桂がオリハルコンに取り込まれた様子は無いということ。

 いつもよりハイテンションなのは気になるけど、あの時ほど化物じみたうめき声も聞こえてこない。


「このオリハルコンの素晴らしき力は不可能すら可能にするッ! ああ素晴らしいぞ団十郎、この素晴らしさを君に味わわせられないのが残念で仕方ない!」


 あ、少し前にプラナスから聞いたフレーズだ。

 彼女は汚染って言ってたっけ。

 なるほどね、事情が少しずつ見えてきた。


 三洗との戦闘後、桂は満身創痍の状態で王都カプトへと戻っていった。

 どうにかカプトにたどり着いた桂は、自分以外が全滅したということと、オリハルコンに飲み込まれたサブティリタスのことを報告しようとするだろう。

 しかしその時、すでに王都はオリハルコンに汚染された後だった。

 オリハルコンは危険だ、という桂の主張は認められなかったに違いない。

 それどころか、半ば強引に緑色の粉末(・・・・・)を摂取させられ――そしてブースターに変わる新たな兵器の実験台として、帝国に送り込まれた。


「そして白詰! お前はこのヘイロス――いや、生まれ変わったヘイロス・ブラスの力をもって、オリハルコンの素晴らしさを身に刻んで死ぬべきだ!」


 あーあ、ご丁寧に名前まで付けちゃって。

 運動神経抜群、頭脳明晰、性格良し、見た目良し、家柄良し、そんな完璧超人桂偉月の姿はもうそこにはない。

 オリハルコンと広瀬に溺れる、その成れの果てが居るだけだ。


「行け、クラウソラス。地の果てまで追い詰め、奴らを撃ち抜けェッ!」


 背中のソーサリーガンから空高く打ち上げられる3本の光の筋。

 それらは上空でぐにゃりと方向を変えると、それぞれ異なるターゲットに向けて追尾を開始した。

 1つは百合へ、1つはキシニアへ、そしてもう1つはもちろん僕へ。

 さらにこっちには、追加で右腕の巨大な銃口――ガラティーンまで向けられている。


「やらせない!」


 キニシアへ向かうクラウソラスの前に、アーケディアが立ちはだかる。


「フランだめだ、危ないっ」

「あぶなくないっ!」


 さっきやられたことを根に持っているのか、話を聞いてくれそうにない。

 だがこの距離、しかも僕も追われてる状況じゃフォローはできないし。

 アーケディアは手にした武装、パニッシャーを振りかぶると――キニシアめがけて飛んでくるクラウソラスに向けて放り投げた。

 パニッシャーとクラウソラスは空中で接触、するとバヂッという音がした直後に、周囲が光で包まれた。

 キイイィィィィン――ドゴオオォオオオオッ!

 そして、大爆発。


「きゃああぁぁっ!」

「フラン……! うわ、と、おぉおおおっ!?」


 アーケディアどころか、さらに離れていたはずのアヴァリティアまでもが爆風で吹き飛ばされ、地面にはどでかいクレーターが出来上がる。

 クラウソラスから逃げる僕と百合は、その冷や汗モノの光景を見ながら、さらに必死で逃げるスピードを上げた。


「当たれば爆発するの? それならダガーミサイルで!」


 スカートブレードの下から放たれる無数の短剣。

 しかしパニッシャーが当たったときと違い、それらはクラウソラスの熱量に飲み込まれ、爆発することなく消えてしまった。


「ううぅ、威力が足りないってこと!?」

「ユリ、私も手伝います!」

「さんきゅエルレア、とっとと止めて岬のフォローにいかないと!」


 今度はテンタクルス・レイとダガーミサイルの同時攻撃。

 さすがにこれにはクラウソラスも耐えられなかったらしく、右方でドーム状の爆炎が広がった。

 あとは僕だけだけど――


「ガラティーンッ!」


 肩を掠めそうになる巨大なエネルギー砲。

 僕はそれをどうにか躱しながら、同時にクラウソラスの追尾も振り切らなければならなかった。

 距離が近づけば頭部ソーサリーガンにより逃げ道を塞がれ、さらに近づけばエクスカリバーによって両断。

 そこで足を止めてしまえばクラウソラスの餌食だ。

 ヴァジュラなら追尾弾を止めることは出来るだろうけど、今の僕にそんな余裕は残されていなかった。

 頭部ハイソーサリーガンで誘爆出来ないか試してみるものの、やはり威力不足。

 ガーンデーヴァも駄目、可変ソーサリーガンを展開する時間は無い、近接戦闘じゃ結局巻き添えになる。

 なら――僕だけの力で無理なら、他者の力を借りるしか無い。

 僕は体勢を持ち直し、ヘイロス・ブラスに背後から近づくアヴァリティア――つまりはキシニアにアイコンタクトを試みた。

 さて、顔見知り程度の相手にこれで通じるかはわからない。

 けど、目と目があった瞬間、確かに彼女は頷いた。

 ならば意図は察してくれるはず。


「さあ行くよ、スキル発動(ブート)欲望は引力(ホールドオンミー)!」


 よし、来た!

 ウルティオの機体は一瞬にしてヘイロスの後方、アヴァリティアのすぐ傍にまで引き寄せられ、転移(ワープ)する。

 無論、僕を追っていたクラウソラスも方向転換してこちらを追尾しようとする。

 だがその軌道上には、ヘイロス・ブラスが立っている。

 クラウソラスは障害物を避けるほど器用ではないらしい。

 突然転移した僕に気を取られた桂は回避できず――自らの攻撃によって、自滅した。

 ドオオォオォオオオオオンッ!

 けたたましい爆音と共に、ヘイロス・ブラスが光に包まれていく。

 気を抜くと吹き飛ばされそうな爆風に、下半身に力を込めてどうにか耐えた。


「キッシシシ、これでやれてたら万々歳なんだけどねェ」

「不吉な言い方しないでよ」

「ごめんごめん、あたし様ほどの人間でも不安になるほど強敵ってことさね」


 キシニアがあえてそんな言い方をしたのは、この程度でヘイロス・ブラスが沈まないと知っているからだ。

 僕も同感だった。

 ゆらめく炎の中からゆっくりと、手に巨大な剣を持った、鋼鉄の騎士が歩いてくる。


「岬、あれどうやったら倒せるのかな」


 百合が心底疲れたように、ため息混じりに言った。

 むしろ僕が聞きたいぐらいだよ。


「広瀬に聞くしか無いんじゃないかな、桂の弱点とか苦手なものと……か……」

「どうしたの?」


 広瀬……広瀬、か。

 弱点、あるじゃないか。

 桂は広瀬が好きなんだ、それを利用してやれば――三洗の時のように、オリハルコンを暴走させることができるかもしれない。

 仮に三洗の時の暴走の原因が、”制御できない感情”だったと仮定して、の話だけど。

 けど、どうせ今のままじゃ勝ち目はないんだ、やる価値はある。

 僕は戦場のど真ん中で、あえてアニマを解除した。


「ミサキ、何をしているのですか!?」


 生身じゃ、さっきの爆風に巻き込まれただけで即死は免れない。

 あるいは、エクスカリバーに衝撃波だったり、頭部ソーサリーガンのとばっちりだけでも死んでしまうかもしれない。

 だけど僕には確信があった。


「スキル発動(ブート)親愛なる友(スウィンドラー)


 変身するのはもちろん――広瀬の姿。

 この姿なら桂に、僕を攻撃することはできまい。

 炎の向こうから姿を現したヘイロス・ブラスは、こちらを視認して、足を止めた。


「……だん、じゅう、ろう?」


 ドスン、とエクスカリバーがヘイロス・ブラスの手から落ちる。

 ここに居るわけがない、敵の罠だと、賢い桂なら理解しているだろう。

 しかし、最終的に人間を支配するのは理性ではない、本能だ。

 本能が求めてしまえば、体はもう言うことを聞かない。

 理性の鳴らす警鐘を無視して、体は身勝手に、自己中心的に、目の前の広瀬を求めて、一歩、また一歩とを前に進んでゆく。

 止められなかった、もはや止めようとも思っていないのかもしれない。

 そしてヘイロス・ブラスが僕に近づく度に、彼の体内から奇妙な音が聞こえてくる。

 バキ、バキバキ。

 割れるような、砕けるようなその音は、ヘイロス・ブラスがオリハルコンに飲み込まれていることの証明。


「なんだいありゃ、内側から宝石みたいなのが出てきてるけど」

「なんか不気味」


 音はやがて内側だけでなく、外側からも聞こえるようになり、装甲を突き破って緑色の、透き通った結晶がむき出しになっていく。


「団十郎、僕は……僕、はぁ……」


 薄れ行く意識の中、絞り出すように広瀬に想いを伝えようとする桂。


「君の、ことが……」


 その後に続く言葉はなんだろう。

 彼が自分の気持ちを自覚したのは割と最近のはず、そして今日に至るまでの数日間で想いを伝えられるほどふっきれたのだろうか。

 はたまた、それもまたオリハルコンの力なのか。

 どちらにせよ、僕がこの姿でやれることなんて1つしか無い。

 近づいてくる桂に、広瀬の見た目のまま、ありったけの笑顔を浮かべてこう言った。


「気持ち悪い」


 声は桂の耳にまで届く。

 ヘイロス・ブラスの足が止まる。


「あ……ぁ……」


 表情は見えない。

 けれどわかる。

 彼の顔は今頃、絶望に歪んでいるに違いない。

 それの表情を想像すると、胸がおどり、自然と笑顔が溢れ出てくる。

 楽しいな。

 やっぱり、クラスのやつらとこうやって話してると、とても愉快な気分になれる。


「あああぁっぁあああ……団十郎、団十郎っ、僕は、僕はあああああぁぁぁぁぁああっ!」


 顔を掻きむしりながら、桂は咆哮する。

 広瀬に拒絶される、そんなありえてはならない現実に直面した彼はアイデンティティ・クライシスを起こし、そして制御不可能になった感情は――

 オリハルコンに付け入る隙を与えてしまった。

 結晶化の進行は加速、もはや暴走する時間すら無いほど瞬く間にヘイロス・ブラスの体はオリハルコンに包まれていく。

 それから、彼の体が完全に1つの石となってしまうまでに、数十秒もかからなかった。






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