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49  エンカウント

連日遅れて申し訳ありません。

 





「せっかくアルジェント20機にアニマ使いも引き連れて逃げてきたってのに、結局ここで死ぬのかよ……!」


 無残に引き裂かれた10機ものアルジェントを見ながら、プドルが狼狽する。

 今ばかりは彼の言葉に同意するしかない。

 引き裂けば音だって鳴る、助けを呼ぶ声だってしたはずだ。

 しかしそれら全てを、僕たち――ここに居る数十人全員が、認識することができなかった。

 こんな理不尽なスキルがあっていいものなのか。


「ここにいる全員が殺される? そんな馬鹿なことが……」


 ソレイユの動揺も相当なものだった。

 一方で、百合とエルレアは割と冷静に状況を分析している。


「これだけ目の前でやられても全然気づかないなんて、どんな仕組みなんだろ。よそ見をしてたつもりも無いのに」

「妙ですね」

「何が?」

「一番厄介であるはずのアニマを後回しにして、アルジェントを先に仕留めている点です。そうしなければならない理由が何か――」


 エルレアが推理を進める。

 しかし見えない殺人鬼は、それを否定するかのようにアニマに牙を剥いた。

 ずらりと並ぶアルジェントのおかげで、その気配は容易く感じることが出来た。

 幻覚がゆらゆらと動いていく。

 上半身と下半身が引き裂かれるイメージ。

 それはやがてアルジェントの後方に待機している4機のアニマの方へと移動し――

 そして次の瞬間、そのうちの1機が立っていた場所には、無残に両断されたアニマの亡骸が転がっていた。


「ルッツ、嘘だろ? おい、何とか言えよぉっ!」


 仲間のアニマが叫んだ。

 死んだアニマ使いは、どうやらルッツと言うらしい。

 しかし問いかける必要も無いほど、彼が死んでいることは一目瞭然だった。


「エルレアの言葉に誘導された感じだね」

「しかも狙ったのは比較的脆そうなアニマ。やはり存在を認識できない能力には、何らかの制約があるのでしょう」

「脆そうな相手しか狙ってないってことは、んーと……一撃で仕留めたかった、とか?」

「一度でも攻撃を仕掛けた相手には、スキルが効果を発揮しないのかもしれませんね」


 その推測が正しいのなら、順番から言って最後まで残されるのは丈夫なアニマを持つソレイユと僕だ。

 それにしても、簡単に言葉による誘導に引っかかるなんて。

 毎日倍に増えていくゲームのような感覚で殺しを行い、ターゲットにも法則性がない。

 目的意識や理念のようなものも感じられない。

 殺人鬼は、精神的に未成熟な人間なのかもしれない。


 そうこうしている間にも、アルジェントは徐々に減っていく。

 幻覚によって、敵の位置がなんとなくわかるのは僕だけ。

 なら僕は、僕にやれる方法で攻撃を試みるしか無い。

 どうせ商人ギルドは最初から敵なんだ、なら気兼ねなく巻き込んでしまえばいい。


「ヴァジュラ」


 キィィィィィ――

 胸部装甲開放、エネルギーチャージ。


「お、おい、そこのアニマ! こんな非常時になんのつもりだ!?」


 プドルが何やら喚いているけど、集中している僕の耳には届かない。

 チャージ完了。


発射(シュート)


 胸のオーブから高エネルギー砲が放たれる。

 シュゴオオオオオオッ!

 ビームは、幻覚が発生した周辺を、アルジェントを巻き込みながら焼き尽くす。

 パイロットが死のうが生きようがどうでもいい。

 重要なのは、そこに居るである殺人鬼にダメージを与えられるかどうかだ。

 ヴァジュラの照射が終わると、そこにはドロドロに溶けたアルジェントだけが残った。


「貴様ああぁぁぁぁっ!」

「落ち着いてよプドル。ほら見て、真っ二つにはされてないないでしょ?」

「真っ二つにされてなくても、死んでたら意味がないだろうが!」

「そうかな?」


 おかげで、確かにそこに殺人鬼が存在することが確認できたのに。

 姿が見えないはずなのに攻撃された、それは殺人鬼にそこそこのショックを与えたらしく、明らかに攻撃頻度が激減する。

 しかし少し間を開けてから再びゆらりゆらりと動き出すと、再び性懲りもなくアルジェントに近づいた。

 ヴァジュラはまだ冷却が終わっていない。


「百合、エルレア、左から三番目のアルジェントの周辺に攻撃をしてもらってもいい?」

「りょーかい、ダガーミサイル!」

「わかりました、テンタクルス・レイ!」


 2人とも僕の意図を察していたのか、すぐに武装を発動できる状態だったらしい。


 イリテュムがスカーブレードの端をつまむと、中から大量の短剣が落ちてくる。

 短剣は地面に落ちること無く、その寸前に魔力によって推進力を得ると、一斉に僕が指定した場所へと殺到した。

 着弾、爆破。

 アルジェントが炎に包まれていく。


 テネリタスは触手――スキュラーで出来た両腕を合わせると、それを束ね巨大な砲身のような形へと変える。

 彼女のスキュラーは、一本一本がテンタクルス・レイの発射口でもある。

 それを一つに束ねれば、大出力のエネルギー砲と化す。

 放たれた光線は指定したアルジェント共々、周囲の建物まで焼き、溶かし尽くした。


 あとに残ったのは、テンタクルス・レイに溶かされ、ダガーミサイルによって焼け焦げた敵機だけ。


「今回も真っ二つにはされていないようですね」


 ラビーの言葉に、僕は頷く。

 もし殺人鬼が決まった人数を殺すことに固執しているのだとしたら、今頃それを邪魔されて地団駄を踏んでいる所だろうか。

 以降、アルジェントへの攻撃はぴたりと止んだ。

 幻覚も見えない。

 諦めて、どこか別の場所へ行ってしまったのかもしれない。


「どうですかミサキ、まだ周囲に居ますか?」

「気配が消えた。これで一件落着、かな」


 とりあえずは、だけど。


「何が一件落着だ、一方的に攻撃を仕掛けておいてふざけたことを言うなッ!」


 しかしプドルは納得行かない様子。

 被害を最小限に収めたんだから、むしろ感謝して欲しいぐらいなんだけど。

 彼は怒りに任せて、アウルムの持つソーサリーガンの銃口をウルティオに向けた。

 最新鋭機なだけあって、出力はそこそこのアニマ程度には上がっていると聞く。

 死にはしないけど、当たったらそこそこ痛そうだな。


「やる気なの?」

「当然だろ、男がやられてばかりで終われるかよ!」

「その割には、他の人達はやる気が無いみたいだけど」

「そんなわけないだろう! 仲間がやられたんだ、全員お前らと戦う気で――」


 そう言う割には、残り8機となったアルジェント部隊も、3人のアニマ使いたちも、動く様子はない。

 確かに仲間がやられて憤る気持ちはあるだろう。

 けれど、その怒りを絶望が凌駕してしまっている。


「薬……薬……早く、薬、欲しい……ラビー様、お願い、お願い……」


 まあ、仲間の薬中(あんな)姿を見せられたら、そりゃやる気だって無くなるよね。


「今回は一旦退けただけで、倒せたわけじゃない。次の襲来に備えなきゃならないのに、今は争ってる場合じゃないんじゃない?」

「それはそうだが……」

「待ってよミサキ、もしかして商人ギルドと手を組めって言うつもり!?」

「ソレイユ……手を組めとは言わないよ、ただ休戦するべきじゃないかって言ってるだけ。プドルが最初に降伏を求めてきたのも、殺人鬼に対抗するための戦力が欲しかったからでしょ?」

「それも、ある。だが、俺の一存で決められることじゃない。一旦持ち帰らせてもらう」

「くっ……わかったよ、あたしもフォードキンとラクサに相談してみる」


 お互いが矛を収め、戦いは一旦収束した。

 ソレイユは本部に戻るなりフォードキンに休戦のことを告げ、彼はすぐに商人ギルドとの交渉に臨んだ。

 期間は1週間。

 その間、お互いに戦闘行為を行わないこと、相手に害をなす行動を起こさないこと。

 その他、諸々の約束が取り決められ――即日、休戦は成立した。




 ◇◇◇




 僕たちは戦闘の後、宿に戻った。


「びっくりしたよ、まさかラビーくんが人質になってるなんてさ。岬も知ってたんなら前もって伝えておいてよね」

「いや、僕も人質になってるってことまでは知らなかったんだって。ただ、何か企んでるんだろうな、とは思ってたけど」

「ごめんなさい、念には念を入れないとと思って、身内にもあえて知らせませんでした。けどおかげで、愉快なものが手に入りましたよ」


 ラビーは机の上に、鞄から取り出した無数の書類を並べた。

 商人ギルドが支配している地区の地図に、こっちは……何らかの作戦の報告書、だろうか。


「あえて敵の懐に飛び込むことで、情報を手に入れる。それがボクの目的だったんです」

「殺人鬼さえ居なければ、本当にお手柄だったのでしょうね」

「そこなんですよねえ。2つのギルドは休戦してしまいましたし、この情報をどうしたものやら」


 館の見取り図なんか、フォードキンに渡せばさぞ喜んでくれる代物だろう。

 タイミングが今でさえ無ければ。


「あ、そう言えば面白そうな報告書があったんです。これなんですけど」


 ラビーが一枚の書類を持つと、僕に見えるようにこちらに差し出した。

 ――ヘリアンサス家襲撃事件。

 ヘリアンサスって……確か、ソレイユのフルネームがソレイユ・ヘリアンサスだったはず。

 つまりこれは、彼女の両親が死んだときの事件ってことか。


「何枚綴りかになってまして、1枚目には事件が発生した経緯が書いてあるんですが……1枚目の一番下、見てくださいよ」


 ラビーが指差す場所――おそらく備考欄らしき場所には、いくつかの知っている名前が並んでいた。

 そこに書かれている内容を、ざっくりと要約して羅列すると、


『ヘリアンサス夫妻は、労働者たちのリーダーのような存在であった』

『彼らは、商人ギルドとの間にある軋轢を話し合いで解決しようと試み、幾度となく商人ギルドとコンタクトを取っていた』

『殺害は商人ギルドの仕業ではないが、見せしめとして殺したということにするため、我々の犯行であると公表する』

『実際の所、ヘリアンサス夫妻は、話し合いでの解決は生ぬるいと主張する過激派の襲撃で殺された。その際、隠蔽工作として犯行を別の派閥になすりつけるような細工が成されていた』

『主な実行犯は、フォードキンとラクサを含む数名である』

『実行犯はヘリアンサス夫妻の娘、ソレイユ・ヘイランサスを”両親の代わりに商人ギルドから守る”と言う名目で拉致し、フォードキン、ラクサ両名は彼女を引き取ることで、ヘリアンサス夫妻の代わりに労働者たちのリーダーへと成り上がった』


 ということだ。


「つまり、ソレイユが本当に復讐すべき相手は、フォードキンとラクサだってこと?」

「そういうことになりますね」


 そしてあの2人は、それを理解した上で、平気な顔をしてソレイユの傍に居続けた。

 ひょっとすると、親の真似事もしていたかもしれない。

 吐き気がする。

 そんなことが出来るのは、まともな人間じゃない。


「ミサキ、ソレイユさんに全て伝えましょう。その上で、フォードキンとラクサを嬲り殺すべきです」

「私もそう思う。これじゃソレイユが可愛そうだよ! 出来るだけ痛みを与えて、苦しませながら殺すべきだって!」

「僕だって同じ気持ちだよ、でも――」


 そう出来ない理由は、ソレイユの心の危うさにあった。

 たぶんだけど、彼女には、復讐以外に何も無い。

 それを失ってしまえば、心が空っぽになって、自重に耐えきれずに潰れてしまうのは明らかだ。

 結果、どうなるのかと言えば――たぶん、そう遠くないうちに彼女は自殺するだろう。

 何もないこの世界に生きるより、両親の待つあの世に行った方が幸せだ、と。

 そこまで復讐に取り憑かれた彼女が、実は今まで恨んできた相手が仇で無かったことを知れば。

 さらに、本当の仇が自分を救ってくれた恩人だったと知ったら。

 ああ、たぶん彼女はフォードキンとラクサをすぐさま殺すだろう。

 問題はその後なんだ。

 きっと彼女は、今のまま商人ギルドへの復讐を遂げた場合よりも、もっと悲惨な末路を迎える。

 時間があれば、復讐以外の、自分の心を支えるための何かを手に入れることも出来たかもしれない。

 けど、今の彼女に……いや、このモンスという町そのものに、そんな時間は残されていない。


「……ダメだ、うまく伝える方法が思いつかないよ」

「かと言って、このまま放っておくのも残酷じゃない? 少なくともフォードキンとラクサは報いを受けるべきだよ!」


 それもわかってる。

 僕だって、そんなクズをスルーして帝国に行けるほど寛容な心は持っていない。

 殺したいさ、ソレイユの問題さえ無ければ。

 机に肘をつき、手の甲に顎を乗せながら、何か上手に解決できる方法は無いかと頭を悩ませていたところ――


「かぷっ」


 耳元に、そんな声が聞こえた。

 そして頸動脈あたりに、誰かの甘噛みの感触。


「うわあぁっ!? な、なに、誰っ!?」


 僕は思わず飛び上がり、椅子から転げ落ちた。

 けど――百合もエルレアもラビーも、そんな僕には目もくれず、変わらない様子で会話を続けている。

 瞬時に犯人には察しがついた。

 振り返るとそこには、水色の髪に、青と赤オッドアイが印象的な、こちらを見下ろす小さな少女の姿。

 彼女はいたずらっぽく笑うと、楽しそうに返り血まみれの白いワンピースを揺らして言った。


「こんにちはお兄さん」

「こ、こんにちは」


 思わず普通に返事をしてしまう。

 すると彼女は満足げに、「うんうん」と言いながら二度頷いた。

 まるで、挨拶は大事だよね! とでも言うように。


「わたしはフランサス・スペクタヴィリス、帝国から来ました。あっちじゃ四将の1人ってことになってるの。よろしくね、死体みたいなお兄さんっ♪」


 ついに姿を表した、姿の見えない殺人鬼を前に、僕は――


「僕は、ミサキ・シロツメ。こちらこそよろしく」


 ごく普通に、自己紹介をすることしかできなかった。

 そんな僕の言葉を聞いて、彼女は再び満足げに頷いた。






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