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31  ヒーロー、またの名をモルモット

 





「白詰えええええぇぇぇぇぇぇえっ!」


 冷静さを失った桂は、馬鹿正直に真正面からエクスカリバーで斬りかかってくる。

 さっきぶつかり合ってわかった、あれは受け止めるものじゃない、避けるものだ。

 ヘイロス自身の出力の高さもさることながら、彼の最も警戒すべきは武装自体の威力にある。

 エクスカリバーはもちろんのこと、背中に付いたクラウソラスも追尾するくせに威力は高いみたいだし、何より左腕に隠された大型ソーサリーガン:ガラティーン、それこそがヘイロスの主砲なのだ。

 ありったけの殺意を込めて振り下ろされる大剣を避けながら、僕はガーンデーヴァで応戦する。

 矢が命中した所で効いている気はしないけど、HPは確実に削っているはず。


「ふっ、せぇいっ、はああぁっ!」


 気合の入った掛け声と共に繰り出される剣は、力強くも賢しい。

 地形を把握し、クラウソラスで逃げ道を塞ぎながら、確実に僕を追い込んでいる。

 背後に岩の壁が迫っている、先に待つ未来は袋小路だ。

 打破しなければ。

 考えろ、相手は桂だ、単純な手は読まれておしまい、なら二重三重に重ねて頭を働かせろ。


「スキル発動(ブート)霧に消える悪意(ソーサリーチャフ)!」


 腰部の排霧口から白く濁った空気が吐き出され、周囲に撒き散らされる。

 またたくまにあたり一面は霧に包まれ、僕からはヘイロスの姿すら見えなくなった。

 つまり相手からも僕の姿は見えていない。


「スキル発動(ブート)卑劣なる俯瞰者(ライフトーチャー)


 後退しながらさらにスキルを発動。

 視界は封じられたものの、これでヘイロスの位置だけは一方的に確認できる。

 どうやら霧を警戒してか、動いていないみたいだ。

 しかし、次に彼がどういった手を取るのか、僕にはなんとなく察しがついていた。

 おそらく今の桂なら、霧から逃げたりはしない。

 僕に真正面から斬りかかってきたように、大胆に、かつ合理的に、霧を吹き飛ばそうと(・・・・・・・)するはずだ。

 そのための、左腕に備わった大型ソーサリーガン、ガラティーンなのだから。

 この霧の中じゃ、情けないことに僕もガラティーンがどこに向けて放たれるのか予想することは出来ない。

 桂なら避けることを想定して、避けた方に放つ可能性だってあるし、仮にうまく避けたとしてもまた次の手を打ってくるだろう。

 ならば、僕がやるべきは回避じゃない。

 彼同様に、真正面からウルティオの最大火力を以て受けて立つことだ。


「ガラティーン」


 霧の向こうから桂の声が聞こえた。

 ヘイロスの左腕が変形し、強大な射撃武装と化す金属音も。

 もう迷ってる暇はない。


「ヴァジュラッ!」


 胸部に魔力が集中、チャージが完了すると同時に溜め込まれたエネルギーが一気に放出される。

 同時に、ガラティーンからも極大のビームが放たれ、霧の中で2つの強大な熱量同士が衝突する。

 ゴオォッ!

 ぶつかり合い、生じた衝撃波によって、霧が吹き飛ばされ一気に視界がクリアになる。

 視線の先には、右腕で左腕を支えながら、まばゆい光と共に極大の魔力砲を放つヘイロスの姿があった。


「おおおおおおおおぉぉぉぉぉッ!」


 喉の奥から絞り出すような、深く重い桂の咆哮。

 気合で武装の威力が増すものか――と冷めた目で見ていたものの、徐々にヴァジュラがガラティーンに押され始める。

 明らかにガラティーンの威力が増している。

 そんな馬鹿な、ご都合主義の主人公補正があるとでも?


「はあああああぁぁぁぁぁああっ!」


 完全にパワーで劣るヴァジュラはやがてガラティーンのパワーに飲み込まれ――僕の体を、大きな衝撃が襲った。


「っ、ぐうぅぅっ!」


 ウルティオが回転しながら後ろへ吹き飛ばされる。

 ガシャァンッ!

 機体は岩壁に激突し、ずるりと地面に倒れた。

 すぐさまHPを確認――30450/41480。

 冗談きついって、今ので1万以上持ってかれるのか。

 ヘイロスは倒れたウルティオに歩み寄りつつ、ガラティーンの銃口をこちらに向けた。

 次、真正面から受けたら、さすがにヤバイかもな。


「ガラティーン、発射(シュート)ォッ!」


 どうもあの武装は、ヴァジュラと違って連射までできるらしい。

 威力も上で、連射性能も上で、何もかも勝ってて――ああ、天才ってのはどこに行っても恵まれてるものなんだな。

 だからと言って、桂になりたいかって言われたら微妙なところだけど。

 僕は別に広瀬(オトコ)なんかに興味ないしね……っと!

 ガラティーンが放たれる前に体勢を持ち直し、すぐさまスキルを発動させる。


「スキル発動(ブート)羨望せよ我が領域(ナルキッソス)!」


 脚部に込められた魔力によって、ウルティオが空高く舞い上がる。

 バシュウッ!

 直後、先ほどまで僕が居た場所をガラティーンが貫いた。

 切り札を回避された桂は、しかし慌てた様子はなく、すぐさま背部ブースターによって飛翔しウルティオの後を追う。

 けど、”追う”ってのは相手が”逃げる”からこそ成立するもの。

 僕は逃げたつもりなんて――さらさら無い!


「はあぁっ、フリームスルスッ!」


 上昇していたウルティオは、脚部から逆噴射された魔力によって進行方向を変え、突如急降下を始める。


「くっ!?」


 ヘイロスは両腕をクロスさせて直上からの飛び蹴りを防ごうとした。

 けど、脚部には相手を凍らせる青白い冷気――フリームスルスの力が宿っている。

 ガシィッ!

 ヘイロスは確かに渾身の飛び蹴りをしっかりと受け止めてみせた。

 勢いに押され高度を下げ、地面に落ちたものの、バランスを崩すこと無く、ガードした姿勢のままザザザザッ、と脚部で地面を刳りながら後退していく。

 最後に僕は彼の両腕を踏み台にして、バク宙しながら距離を取る。

 機体自体に大したダメージが無いのはさすがだけど、両腕がしっかりと凍ってしまった今、桂に対抗手段はない。


「こ、小細工を……ッ!」


 ぐぐぐ、とヘイロスが両腕に力を込めて氷の手枷を外そうとするものの、そうそう簡単に砕けはしない。

 このまま嬲り殺して……と余裕を見せる僕だったけど、ピシ、と氷に入る亀裂を見て考えを改めることにした。

 どうやら余裕なんて無いみたいだ、一定の強さ以上の相手には、フリームスルスの凍結も力づくで解除されてしまうのか。

 それでも一定時間は身動きが取れないはずだから、無駄ではないんだろうけど。

 とは言え、ここで叩き込める攻撃は一発のみ。

 ヴァジュラは再使用にもう少し時間がかかる、なら――


殲滅形態(モードブリューナク)、いけっ!」


 武装名を宣言すると黒い銃が手の中に現れ、僕はすぐさまその引き金を引いた。

 ドオォンッ!

 放たれた弾丸が無防備なヘイロスに命中し、広範囲に爆炎を撒き散らしながら炸裂する。


「ちっ……やってくれたな、白詰ぇッ!」


 炎の向こう側から怨嗟の声が聞こえる。

 両手を拘束していた氷は消えてしまったものの、反応を見る限り、それなりのダメージは与えられたみたいだ。

 殺気はあるものの、すぐさま襲い掛かってきそうな雰囲気じゃない。

 僕は今のうちに、他のアニマと戦闘する百合の方をちらりと見た。


 イリテュムは、空を飛ぶ2機のアニマと戦闘している。

 有効な遠距離攻撃はダガーミサイルのみ、あとは短剣ミセリコルデを投擲して相手をしているようだけど、決定打に欠ける。

 けどそれは相手も同じこと。

 地上に降りることを拒み戦う彼らの武装は、手に握られたソーサリーガンのみ。

 こちらもまた決定打に欠ける。

 それに、プラナスは背部ブースターの欠点は燃費だって言ってたはずだ。

 ほとんど地に足を着けて戦っているヘイロスはさておき、あちらの2機は、帰りの分のMPも考えるとそろそろ限界が近いんじゃないだろうか。


 そう、2機は……って、あれ?

 三洗(みたらい)は、サブティリタスはどこに行ったんだろ。

 さっきまでは桂の援護をしながら空を飛んでいたはずなのに、少なくとも上空には彼の姿は無い。

 探知スキルに反応は――あった。

 右斜め後ろの林の中で、移動も援護もせずに立ち尽くしている。


「白詰ぇ……白詰が、あいつが殺した……あいつが、あいつが悪いんだ……あいつがあぁぁぁっ……!」


 彼はぶつぶつと、何度も僕の名前を呟いていた。

 2人を殺したショックで身動きが取れなくなったとか?

 いや、そんな雰囲気でもない。


「三洗くん?」


 桂も彼の異変に気づいたのか、次の攻撃準備を止めてサブティリタスに視線を向けた。


「白詰、彼に何かしたのか?」

「なんでもかんでも僕のせいにしないでよ、どちらかと言えば、何かしたのは桂くんたちの方じゃないの」

「僕たちが?」

「サブティリタスの背中に付いてるブースター、妙な光り方してるんだけど」


 異変は三洗の挙動だけじゃない。

 灰色の背部ブースターがまだらに光り、さらに表面にヒビが入り始めている。

 パキ、パキキ……バキィッ!

 そして、破砕音と共に、内側から緑色の結晶が這い出るように飛び出した。


「なんだあれ……」

「もしかして、相当やばい素材を使ってるんじゃないの?」

「そんなのは聞いてない! ただの鉱石だとしか!」


 テスターにすら伝えられない何かが、あのオリハルコンとやらには秘められているってことか。

 灰色にコーティングされてたのは、もしかしてあれを封じ込めるためだったとか?

 アイヴィが彼らを見殺しにするとは思えないし、おそらくそれは彼女も知らないこと。

 つまり、国王直属の騎士団長ではなく、軍部の――国防大臣、あるいは大将が何かを企んでいると。


「白詰、白詰っ、白詰ッシロツメッシロツメシロツメエエエエェェェェッ!」


 そんな羊みたいに僕の名前を呼ばれてもなあ。


「岬、あれ大丈夫なの?」


 上空の2人とやりあっていた百合がこちらに近づいてくる。

 どうやら彼らも三洗の異変に気づき、戦いを止めたみたいだ。


「大丈夫じゃないと思う」


 背部ブースターはさらに変形を続け、やがてサブティリタス本体にまで侵食していく。


「あっ、あぐっ、シロ、つ……い、ぎぎぎっ、がああああァァァッ!」


 自らの身体に結晶が食い込む痛みは想像に難くない。

 内側からの侵食、それはつまりいくらHPがあろうとも防ぎようがないということ。

 体をかきむしっても、頭を地面に打ち付けても、僕の名前を叫んでみても、痛みが軽減されるわけじゃない。


「三洗くんっ!」


 桂の呼びかけにも反応はない。

 激痛によって返事が出来ないだけなのか、あるいはもっと別の理由があるのか。

 例えば、侵食が脳にまで及んで、もはやコミュニケーションを取ることも出来ない状態になってる、とか。


「アアアアアァァァアアアアアッ、シロツメエエエエエェェェェッ!」


 三洗が虚空に向かって、ひときわ大きな咆哮をあげる。

 まるでケダモノのように、その声から僕は理性を感じ取ることができなかった。

 そしてゆっくりと立ち上がると、猫背の姿勢で、一歩一歩しっかりと地面を踏みしめ、木々をなぎ倒しながら、こちらへ近づいてくる。

 背筋が凍るほどの殺意と狂気を孕みながら。


「シロ、ツメ」


 僕の名前を呼びながら、ソーサリーサーベルを取り出す三洗。

 その紫色の刃は、もはや僕が使うサーベルと同じものだと思えないほど長く、激しく光を散らしていた。

 その長さは10メートルをゆうに越えている。

 オリハルコンは魔力を増幅させる鉱石……いや、物質。

 それがアニマそのものに侵食したことで、サブティリタス自体の出力が何倍にも膨れ上がったってことか。

 そりゃ軍部も使いたがるだろうさ、けど――代わりに”人間性”を失うって、代償としては大きすぎないかな。


「グ、ガッ、カヒュッ……ガアアアァァァァッ、シロツメェェェッ!」


 理性なき叫びと共に、サブティリタスが地面を吹き飛ばし、ミサイルのようにこちらへ向かってくる。

 迫りくるそれを見て、僕の直感が警鐘を鳴らしていた。

 あれをまともに受けたら終わりだ(・・・・)、と。






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