昭和の想い出 その1
幼い頃から、脳裏にあった記憶。
昭和。
いつの昭和だろう。この世に生を受けたのは昭和47年。
だけど、もう一つの昭和の方も懐かしい。
片やの昭和。
昭和初頭にも恋い焦がれる。
その時はとても瑞々しい青春を生きた。
兵舎の祭りを覚えている。
軍靴にスプーンを巻き付けて、ラップダンスを踊った。
イチ、ニッ、サン!
イチ、ニッ、サン!
三人が伍し肩を組んで並び。
両足を揃えて、片足を上げたり。
グルグル回って、パッと両手両足を開いたり。
それをみる観衆は大いに沸く。
打ち振る様々な組旗。
皆、日焼けした肌顔に白い歯を魅せて笑っていた。
南洋の島々を眼下に置きつつ飛んでいた時。
珊瑚礁の上まで降りてきて、できるだけゆっくりと飛びながら
白い砂浜と碧洋をより眼に焼きつけた。
めっぽう難しい空中戦。
なかなか当たってくれはしない敵機。
気付くと目の前にそれが飛び込んできた。
「畜生、アメ公!」と、山吹色に投射される照準環に敵機を捉え
ままよ、当たってくれ!と機銃弾をパッパッと一連、二連射。
ヒュヒュヒュと曳痕弾の光跡が放たれていく。
もっとだ!機体を増速し敵機に体当たりせんとばかりにもっと近づけて
照準一杯に拡がった敵機に向けて三撃め。手応えあり。ざまあみろ!
そのまま、黒煙を吹き出し始めた敵機下方をすり抜けていく。
直線軌道ままの射撃時間をかけ過ぎたため、翼を捻って背面急降下。
敵機撃墜に時間をかけ過ぎた事に総身粟立って震えて歯がち合わない。
帰還した場面は思い出せない。が、頬骨がジーンと痛くなる。
戦闘の流れが下手くそで殴られたのだろう、多分。知識による想像だ。
青い空彼方。
高高度を白く飛行雲引いて飛ぶ、四発大型機。
その頃はされ放題。
戦隊の搭乗員。
皆、眼をギラギラさせフラフラと基地を歩いていた。
新しい部品の補給が届いたと聞いたら、機付けの整備兵と一緒にそのトラックに向かって駆け出してブン取れるものはブン取る。他の搭乗員と拳骨で殴り合いまでする。ここは本土の帝都だというのに。
今日もB公が飛んでくるという。
あの寒い、何もかも凍てつく高高度まで飛ばなければならないのか。
死に物狂いで飛ぶ。
会敵する前に寒さとの闘いだ。寒さにかじむ足指手指をギリギリ動かし揉みながら、空の高みに飛びあがり続けていく。
吹き荒れる風の方向や機体の計器を常に気にしながら、段々と頼りないような飛び方になっていった。
来た。
揚力の限界に来ている我に対して、更に上方を悠々と飛び去るその機体はとんでもなく美しかった。
澄み渡った蒼穹に鋼色の機体がキラキラ光っているのだ。
その圧倒的な美しさは今も忘れられない。
まるで未来から飛んできたかのような、そんな感想を抱いた。
今も思い出す、あの美しさ。
敵だという事を忘れてしまう程のものだった。