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 翌日。僕はクリップで留められた紙束を抱えて、またもや冷え込む長い廊下を歩いていた。何を隠そう、昨日出された宿題である。

 今思い返せば昨日の晩はどうかしていた。夕飯の味噌汁にソースを入れて飲むし。風呂を焚かずにそのまま入るし。しかも、指摘されるまでそれに気付かないという。

 それだけ僕は興奮していたのだろう。いい意味でも悪い意味でも。

 今まで何かを表現するとき、ここまで浮かれたことはなかった。

 僕はゼロから何かを生み出すことよりも一を一として表現することに喜びを感じるのかもしれない。自分でも驚くぐらい文芸部に対する適正がない。何故新聞部に入らなかったのだろう。

 否、僕は何かを生み出すのも好きなはずだ。文芸部に入ったのは僕の意思で、そして意志によるものなのだから。

 長い廊下の奥隅。そこに存在する文芸部の活動場所兼部室。いつもと違って厳かな雰囲気が放たれている気がした。それでも僕はここで折れるわけにいかない。先輩の期待に応えるために。そして、自分に言い訳をしないために。


 部室の扉を丁寧に開けると、いつも通り扉を向いて先輩が座っていた。僕も教室で無駄な時間を費やしているわけではないのに、常に僕より早くきているとは。先輩恐るべし。


「宿題は持ってきているよね? ……ああ、そのコピー用紙の束がそれか。それでは、しばらく読ませてもらうこととしよう」


 そう言って、先輩は早速読み始める。いつもに増して部室は静かだ。

 恐らく校内に存在する部活動の中でもなかなか静かな方に分類されるはずのこの文芸部だけれど、それでもこんなに静けさを意識したことはないからかもしれない。そもそもいつもの部活だと大抵僕が先輩にダメ出しをされているか、何かしらを書いていて集中していることしかないし。

 何かを待つ、というのは中々ない。

 先輩がゆっくりと紙をめくる音が妙に響く。当然、小心者の僕がこんないたたまれない雰囲気に耐え切れず、目的もなく立ち上がる。

 そ、そうだ。飲み物を買いに行こう。先輩は何が好きなんだろうか。普段僕は先輩に奢ってもらってばっかりなことに今更気付く。

 僕の学校生活はこの人に支えられているんだなあ、としみじみ思う。


「あ、あの、先輩。なんか飲み物を買ってきましょうか?」

「ん? ……ああ。では、コーヒーを買ってきてくれ。甘くないのがいいな」

「わかりました。それでは、買ってきますね」

「くれぐれも気を付けてな。廊下は冷えるだろうし」


 先輩の優しい言葉にありがとうございます、と答えてから立ち上がると、不意に木製の扉が小さく二回ノックされた。

 先輩への来客かと後ろを振り返ると、先輩は知らない、とばかりに小さく首を横に振る。

 僕にも来客の予定はなかったはずだ……が、いつまでも待たせているわけにもいかない。

 すぐに扉に駆け寄り、開く。しかし、この当然とも言える行動を後の僕は後悔するのだった。


 来訪者曰く。「あなたたち、合宿に興味はない?」

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