009
展開のテンポや矛盾などを考えて、セルトの年齢を3歳から5歳に引き上げました。
やっぱり、しっかりプロットを立てるのって大事ですね。
「さあ、この中から選ぶのじゃ」
おじいちゃんが奥から3つの杖を持ってきた。その内の1つを手に取ってみる。
子供用に作られたのか、短くて軽い。材質は木で、とてもシンプルなデザインだ。先端には僕の手拳と同じくらいの魔石がはめ込まれている。
とりあえず魔力を集めて流してみる。ふむ。
「どう?セルトちゃん」
「うーん、しっくりこないや」
あのおまけの杖よりは魔力を流しやすいけど、その程度だ。
「じゃあ~、これは?」
ミリーが差し出した杖を受け取る。素材に魔物か何かの皮を使っているその杖は、重量があり両手持ちじゃないと少々取り回しが利かない。僕の身長とだいたい同じくらいだろう。全体的に赤いそれは、先端の魔石を取り囲むように蛇がとぐろを巻いたデザインだ。魔力を流してみる。
すると、魔石が淡く発光し見つめられているような気がした。
「……おじいちゃん、あれってもしかして、レットドラゴンの素材をこれでもかってほど使ってる~?」
「……ほっほっほ、そうじゃよ。坊主にはなかなか火の適正が高いじゃろ、だからと思って出してみたが正解じゃな。普通の奴には使えん」
「……ど~して?」
「……あれにはのう、ドラゴンの意志が宿っておって、そやつに認められぬ限り杖本来の力を出せんのじゃよ。その点、坊主はドラゴンに好かれたようじゃな。坊主が使っても、問題ないじゃろ」
「……ほえ~。流石セルトちゃんね」
後ろで二人が何か喋っているけど、よく聞き取れなかった。
魔石を流した感想としては、ありえないくらい抵抗がない。普通、物体に魔力を通すと抵抗が出てくる。杖は魔石がその流れを補助しているが、それでも抵抗はある。
だが、この杖には一切の抵抗がない。まるで手足の延長みたいに魔力が流せる。もうこれにしようかな、と思ったけど一応最後の一本も手に取ってみる。
黒一色で何の変哲もない杖だが、魔石が両端にはめ込まれている。何でだろうと思いつつも、魔力を流してみる。すると、杖が2二つに割れた。
「えっ!」
「ほっほっほ、驚かせてしまったのう。この杖は魔力を流すと二つに分かれ、杖の二刀流ができるという類いのものじゃ。速射型におすすめじゃのう」
うーん。でも同時に魔法を放つのは高等技術だし、初心者には無用の長物なんじゃないかなぁ。
「セルトちゃ~ん。何にするか決めた~?」
「うん、これにする!」
そう言って取ったのは赤い杖。
「ほっほっほ、やはり坊主は"深紅なる赤竜"を選ぶか」
「じゃあ~、おじいちゃんそれいくら~?」
「ほっほっほ、そうじゃのう。その杖は使い手が長い間居らんかったから、可哀想でのう。坊主が認められた事も含めて、金貨20枚、200,000イルにしておこうかの」
ここで、マクルの通貨について説明しよう。マクルには鉄貨、大鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨、黒銀貨に分かれていて、鉄貨1枚1イルだ。鉄貨10枚で大鉄貨1枚、大鉄貨10枚で銅貨1枚となり、金貨までがこの法則に当てはまる。白金貨と黒銀貨はお金としてでなく、色々な付加価値もあるから、まずお目にかかれない。
それにしても、認められたって何だろう。魔石が光った事かな?
「おじいちゃん、いいの~?それって最低でも白金貨10枚くらいの…」
「いいんじゃ、いいんじゃよ。孫娘がひ孫を連れて来てくれたみたいなものじゃ、これはそのお礼じゃよ。その代わり、たまには坊主を連れて来るのじゃぞ。」
おじいちゃんがミリーの言葉を遮り、僕の頭を撫でながら言う。
「もう~、わかったわよ。それと練習用に、これもちょうだい~」
ミリーが手に取ったのは、最初に試した杖。
「ほっほっほ、いいじゃろう。それは金貨5枚じゃ。しめて金貨25枚じゃの」
そう言うおじいちゃんにぽん、とミリーはお金を渡す。25万を軽く出せるって、家は結構なお金持ちだったり?
杖を受け取ったミリーは金貨を取り出した袋に入れた。あれはアイテム袋かな。袋より大きい杖が入ってるし。
「じゃあ、おじいちゃんありがとね~」
「ありがとう!」
「ほっほっほ、また来るのを楽しみししておるからの」
何か最初は怖い店内だったけれど、おじいちゃんがいたら全然怖くない。ミリーやロエルの事を知ってるみたいだし、今度一人で来てみよっと。
***
時間はお昼。おじいちゃんの魔法屋を出た僕とミリーは、ドレッタさんが言っていた"いつものお店"に来ていた。
既に居たのは2組の親子。さっき会ったドレッタさんとユラドと、特徴的な紫髪をした、アリーさんとリスだ。
「………やっと来た」
「ミリー、遅かったですねぇ」
アリーさんとドレッタさんがこちらに気づく。
「ごめんね~。セルトちゃんの杖まで選んでたから。」
そう言って、席に着く。4人はもうお昼を食べ終わったみたいで、ティータイムをしていた。
「ねえ、母さん。杖ってなんの杖?」
「セルト君が魔法を使うための杖でしょう。ミリーは魔法使いですし、セルト君も教わるんじゃないですか」
「へー。俺も魔法使ってみたい!」
「わ、私も。お母さん、私も2人と一緒に魔法使ってみたい!」
ユラドに便乗して、リスも声をあげる。珍しい、いつもは引っ込み思案なのに。
「………全てはミリー次第」
「ミリー、セルト君と一緒に二人も教えてくれませんか?」
「う~ん、私としてはいいけれど、ドレッタの所はいいの?アレクさんはユラドくんを剣士にする~、って言ってなかった~?」
「ふふふっ、そんなの問題ありません。アレクはあたしに弱いですから」
なんかドレッタさんがふふふと、黒い笑みを浮かべている。夫のアレクさんは尻に敷かれていそうだ。
「あはは、わかったわ~。というか二人とも、元からユラドくんとリスちゃんを冒険者にするつもりでしょう~」
「ぎくっ」
「………バレてた」
「はぁ、まあいいわ。そうと決まったら何でもいいから媒体を持ってきてね~」
母親たちの交渉がまとまった。
「ねぇ、セルト。結局どうなったの?」
リスとユラドが期待の篭った目でこっちを見てくる。僕たちは少し離れた所で、遊んでいて、僕は聞こえたけど2人は聞いていなかったみたい。
「2人とも僕と一緒に魔法の練習するみたいだよ」
「やったー!!」
「本当?ありがとうセルト」
ユラドははしゃいで喜ぶ。リスは僕に感謝してきた。あれ?僕のおかげじゃないのに。
「何でありがとう?」
「だって、セルトが魔法を使わなかったらこの話も出なかったでしょう?だからありがとうって」
なるほど、その考えはなかった。
「セルトとリスは魔法が使えたらをしたい?俺は父さんみたいに剣と魔法を使って、ドラゴンを倒す!」
「わ、私は魔法でお花を沢山咲かせたいなー」
ユラドは男の子っぽい夢を、リスは少し見当違いな事を言っていた。僕は……
「僕は最強で最高の魔法使いになりたい」