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006

お読みいただきありがとうございます。005話のセルトの口調を少し変えました。内容は変わっていません。

「どのくらい魔力を込めようかな」


時刻は午前中、場所はいつもの大樹の後ろ側で魔法の練習をする。


魔法を放つにはいくつかのプロセスが必要だ。


まず、何の属性のどんな魔法を使うのか自分の中ではっきりさせる。これが出来ないと、不発したり暴発したりするからなかなか重要だ。


次に魔力を集める。魔法には必要最低限の魔力を込めないと、やっぱり不発する。特に戦闘中は一瞬で魔力を集める事が重要になる。のろのろと魔力を集めては、相手が魔法を打たせてくれない。


そして、詠唱。これは集めた魔力を属性、威力に変換するために世界に乞う言葉だ。これは世界に認められないと変換が出来ない。


あとは射程や発射速度を決めて放つ。


初歩の魔法はこれが3秒弱で出来てやっと魔導師見習いといえる。端的に言うと、魔法はすべてイメージだ。イメージが出来ていないと、威力も魔法の構成も弱くなる。


属性は風、事象は風の刃をイメージする。前世で"ウィンドカッター"を使った時より10倍の魔力を集めて圧縮し、そのまま何もない所へと打ち出す。


「風よ我が命に従い、全てを切裂け"ウィンドカッター"!」


"ウィンドカッター"は風の初歩の魔法だ。だから風魔法を習い始めるときは、必ずと言っていいほどこれを教わる。風魔法は他人には見えないが術者には認識出来るので、暴発はない。


ベテランになってもその威力は申し分なく、コントロールもしやすい。初心者でも虚空を風の刃が切り裂いーーーえっ?


僕が放ったはずの"ウィンドカッター"はへろへろと、飛んで地面に落ちた。


「... ...嘘だろ」


属性には適正というものがある。例えば火魔法で煙しか出なかったり、土魔法で土が固まらなかったりする。今のは風魔法のそれだ。


「僕には風属性の適正が無いのか... 」


ガーンと頭の中で、効果音が鳴る。


「よ、よし。もう1回。風よ我が命に従い、全てを切り裂け"ウィンドカッター"!」


ふよふよふよ


ドスッ


「... 」


その後何回やっても結果は同じだった。ここはもう諦めて他の属性を使うべきだろう。


風魔法が駄目だったとすると、火魔法はどうかな?


属性は火、事象は火の玉をイメージして魔力を集める。火事の危険もあるから空中に打ち出す。


「火よ我が命に従い、全てを燃やし尽くせ"ファイアーボール"!」


火の玉は安定して打ち出されたけどって、ちょっと待て!大きすぎるだろ!


僕の予想よりも5倍くらい大きくなった火の玉のを消す。


ふぅー。びっくりした。風属性の適性が無いと思ったら、火属性は適性有りすぎだし... 。


「ん?何か臭うな」


何か燃えているような匂いと、パチパチという音が聞こえた。


「もしかして... 」


と上を見上げみると、大樹が燃えている。やばい!


「"レイン"!!」


さっきの火の玉から木に燃え移ったらしい火は、超局地的な大雨で直ぐに鎮火した。


「あっ」


気付いた時にはもう遅く、体や洋服はずぶ濡れて、何の属性を使ったのかで更に憂鬱になった。


もう今日の魔法の練習は終わろう。お昼まで本でも探して読もうかな?


と気分転換を考えて、とぼとぼと家に向かう。


「セルトちゃん!どうしたの?怪我は無い?」


リビングにある庭を臨める大きな窓から慌てて出てきたのはミリーだ。急に聞こえた大雨の音に驚いて様子を見に来たんだろう。


「うん。大丈夫だよ。」

「でもこ~んなに濡れてるじゃない、何があったの?」


持ってきたタオルで、僕を拭きながらミリーは聞いてくる。くしゃくしゃと頭を拭かれる。


「いきなり雨が降ってきて、濡れただけだよ」

「そ~なの。じゃあ~次からは雨が降りそうになったら、直ぐに家に入るのよ」


でもこういう温かさは前世で無かったから、ちょっとこそばゆさを感じる。


「わかった」


さて、本を探しますか。後ろから


「それにしても、雲、ほとんど無いわねえ~」


とか聞こえるけど、無視無視。


本があるのは2階の部屋だ。リビングの奥にある階段から上に上がる。


2階には4つの部屋がある。階段を上った目の前に1つ、廊下の左側に2つ、奥に1つある。


階段の目の前にある部屋はロエルの執務室だから、入らないように言われている。難しい本とか沢山ありそうだけど。


僕が行くのは廊下の奥にある部屋だ。その部屋は倉庫になっていて、感謝祭で使う飾りや用途のわからない道具まで所狭しと並んでいる。奥に行けば行くほど床や壁が見えない。


... 誰がこんな風に片付けたんだろう。


その中で扉に近い所に棚がある。カラーボックスに似ていて、その中には小物が雑に入っている。一番下には何冊か本がある。


多分僕が字をもっと読めるようになったら、渡すつもりなんだろう。


今、僕の部屋にあるのは子供向けの物語だ。勇者と魔王とか、堕落者の物語とか、英雄の話がとかがある。ミリーに読んでもらった僕らの物語よりも細かく書かれた本もあって... ... 正直美化され過ぎていて恐い。あることないこと全部僕らがした事になっていた。


「えっと。あ、あったあったこれだ」


僕が手に取ったのは「レミトアとアラングザの歩き方 著 ガイア・スカイナイト。総貢数300ページを越え、挿し絵や特産品、街道などレミトア王国とアラングザ帝国についてとても詳しく書かれている。


お昼までここで本を読むのが僕の最近の日課だ。他にも第三者の意見を挟んでない「勇者の伝説」や「レミトア王国建国紀」など、その日の気分で読んでいる。


「あれ?何だこれ」


取った本の後ろから出てきたのは分厚い辞書みたいな本で、背表紙には「魔導師の書 基礎・初級編」と書かれている。


手に取ってみると最近書かれた本みたいだ。著者はミリシア・グライド。


「ミリシア・グライド?!」


この本ミリーが書いたのか。もしかしたら、魔力の効率が悪い理由が分かるかもしれない。


手に取って表紙を捲り本を開く。えー、なになに。


「『初めに、現在の魔法は人魔大戦の影響により、300年前と大きく変わっています。今なお未解明な部分が多いですが、本書では判明している事をできる限り書き印そうと思います』


... ... そうか、あれから100年経っているのか。前世の知り合いの内何人かには、もう会えないだろう。 いろいろな思いが込み上げてくる。


それを押さえつけて、ページを捲る。


「『第一章 魔力と魔法について』」


・やっぱり魔力は何なのか解明されていない。

・魔力とは空気中に含まれており、場所によって濃度が違う。

・動植物は魔力を持っていない。

・魔力がある一定以上高い所は魔物が発生する。

・魔力が高濃度の所には魔力溜まりができ、魔物が大量発生する。

・魔物とは動植物が魔力を持って変異したものと、魔力のみで構成されているものとがある。そして、そのどちらも人や動物、ときには同族まで襲う。


以上が本に書かれていた『魔力とは』をまとめたものだ。僕がいたときと殆ど変わっていない。だったら魔法が使えない理由は何だ?


疑問を持ちつつ、ページを捲る。


「『現在、魔法とは大きくわけて二つに分類されます。ーーー』」


『一つは人魔大戦以前に使われていた根源魔法。


一つは大戦以降、今日まで使われている真性魔法があります。


根源魔法は魔力を直接操るのに対して、真性魔法は魔力石やドラゴンの瞳など、魔力を通す媒体を使います。


これは、大戦後魔法が世界に認められ難くなったことが原因で、以降媒体を用いて認めてもらう魔法が主流のなっています。


現在、根源魔法はその使い難さから使い手がいなくなり失われています』


... ... ... 嘘だろ。300年前の魔法体系が失伝?師匠がいたら激怒するだろうなぁ。


すると、今根源魔法を使うのはまずいのかな?人に見られると根掘り葉掘り聞かれそうだ。


よし!根源魔法が使い難い理由はわかったし、効率悪いから真性魔法を覚える事にしよう。今のままだと、魔力の使いすぎでぶっ倒れそうだし。


そのためには媒体が必要だけど、どうしたものか。いっそのことミリーに魔法の練習したい、とでも言おうかな?いや、そんなことしたら余計に怪しまれるだろう。


いや、もしかするとこの部屋にあるかもしれない。こんなにごちゃごちゃしてるし、一個くらいはあるだろう。


動ける範囲で探してみる。ごちゃ混ぜに物が置かれていて、扉から1メットも動けない。


とりあえず目の前にある物を取り出してみる。えーっとこれは... 釣竿?まあ倉庫だったらあるだろう、多分。次はっと、えっ、なにこれ。鮭の木彫り?って、足が生えているし、子熊咥えてるし、子熊気絶してるし。大丈夫か?これ。


その他にもガットのないテニスラケットのようなものとか、何が書いているのかわからない掛軸とかがあった。ほんと何に使うんだろう。


そして、一番下にそれはあった。材質は木、形は指揮棒みたいに短く細い。先端には親指くらいの大きさの石が嵌め込まれている。微弱な魔力を感じるから、これが魔力石なんだろう。角度を変えて見てみると虹色に見えなくもない。


さて、杖があった事だし真性魔法を使ってみよう。と本のページを捲る。


「『第二章 魔法初級編』」


んーと、この部屋でも使える魔法はーっと。おっ、これか?


『無属性魔法第一級"フラッシュ"


この魔法は、媒体の先端に魔力を集中させて光らせる魔法です』


ん?どこかで聞いたような... 。


『魔力を籠めれば籠めるほど、光が強くなり目眩ましとしても使えます。また、どの程度魔力が扱えるかの指標となり、目を焼くほどの閃光が出せるようになると宮廷魔導師も夢ではないです』


って、そのまんま"ライトニング"じゃん!


とりあえず詠唱する。えっーと。


「世界に混在する魔力よ、我の命に従いその存在を変えよ。集まり形作りて、至宝に輝け。その内側から全てを塗り潰せ!"フラッシュ"!」


持っている杖に淡い光が灯る。


長い、長すぎる。効率も悪いし、なにより魔力の集合圧縮を詠唱頼みでやっているのがだめだ。


魔力を集合圧縮は自分でやって、もっとこう、短くならないかな?こんなふうに


「魔力よ、至宝に輝きて、全てを塗り潰せ!"フラッシュ"!」


光度は変わらないけど、魔力の効率は良くなった。うん、いい感じだ。だけど光源として使うにはまだまだだ。


今度はもっと詠唱を短くして、多く魔力を籠める。魔力石に光が灯るのを強くイメージして、


「輝き、塗り潰せ!"フラッシュ"!」


ピキッ


先程よりも更に強い光が生まれる。直視すると眩しい。それより、音が鳴った気がするんだけど、ってあっ!


急いで"フラッシュ"を取り消す。魔力石を見ると、ヒビが入っていた。


魔力石が小さいから集めた魔力に耐えられなかったんだろう。危ない所だった。これ以上ヒビが入ると、多分使えなくなる。


これからは詠唱の最適化をしないでやってみよう。まるまる詠唱が載っているってことはちゃと機能するって事だろう。…まさか戦闘でもこんな長ったらしい詠唱じゃないよな。


それからミリーに呼ばれるまで"フラッシュ"の実験をしていて、気がついたら部屋の中の明かりは杖に灯る光だけになっていた。

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