005
魔力を増やし初めて4年、僕は5歳になった。
あの日以来"ライトニング"やその他の魔法は使ってない。念には念をってやつだ。
RPGとかでも、マージンより+5レベルくらいじゃないとラスボスを倒しには行かない。
余裕で圧倒出来ないと、倒したっていう快感がないからだ。
そして今日改めてライトニングを使う。魔力不足はないだろうし、何の心配もない。
庭にある大樹の後ろに隠れる。大樹は樹齢100ちょとはありそうで、大人3人が手を繋いでやっと囲める太さだ。
そこで魔法を放つ。勿論魔力は最低限だ。
「"ライトニング"」
ポーーープス
光は一瞬の後に消えた。
「えっ... 嘘だろ」
その呟きと共にシステムメッセージが聞こえた。
《魔法"ライトニング"による事象改変は拒否されました》
「… おかしい。何で発現しないんだ?」
もう一度やってみる。
「"ライトニング"」
ポーーープス
《魔法"ライトニング"による事象改変は拒否されました》
まただ。何が駄目なんだろう?この4年で僕は魔球を6メット離れた所から大きさ10メットの魔球を5個同時に操れる。メットって言うのはマクルの長さの単位で1メット=1mだ。ちなみに、cmはセット、kmはキットとなっている。
最初の目標は一週間であっさりとクリアーした。寝るか、食べるか、魔力を鍛えるかしかなかったからね。
普通の魔法使い、つまり魔導師は1年間みっちり魔力を上げようとしてもせいぜい体から2、3メット。大きさ4、5メットくらいしか成長しないし、年齢に左右されない。やっぱり転生補正ってあるんだろうか。
だったらどうして"ライトニング"が使えないんだろうと、考えが堂々巡りしていると家から僕を呼ぶ声が聞こえた。
「セルトちゃ~ん。お昼ご飯ですよ~」
「はーい」
この特徴のある声は母親のミリーだ。前にも言った通り金髪碧眼で、背は前世の僕と同じくらいだ。
"ライトニング"を使うのを諦めて家に入る。
リビングに入ると、とてもいいにおいがした。ミリーが作る料理はどれもレストランの料理かと思うくらい美味しい。
今日はコカトリスの卵をつかったオムレツだ。
コカトリスの卵は栄養分がとてもあり、栄養を摂取しにくい時に重宝されている。だけど、苦味がとても強くて食べられたもんじゃない。調味料なんかはとても高価でおいそれと使えない。
それをミリーは何を入れているかわからないけど、コカトリスの卵をまろやかに味付けしている。
オムレツ自体も半熟でふわふわとろとろだし、かかっているソースもマッチしている。僕の大好物の1つだ。
「セルトちゃ~ん。美味しい?」
「うん。おいしい!」
子供っぽく返事をする。そうしないと不自然だし、もうあんな事は嫌だ。でも、この人ほんわかしていてその実鋭そうだ。
改めて自己紹介をしよう。僕の名前はセルト・グライド。金色に近い茶髪碧眼で、顔立ちは前世と似ても似つかない。
マクルでは家名があるのは貴族だけだ。貴族は大なり小なり仕えている国から領地をもらう。グライド領があるのはレミトア王国で、グライド家が経営している領地は結構広いらしい。
母親の名前はミリシア・グライド。普段は縮めてミリーと呼ばれている。初めて買い物に行った町、ダクスルでは、よく井戸端会議に参加する庶民的な人だ。というか、貴族出身ではない気がする。町の女性達には頼りにされている。
そして、グライド家は領民から絶大な信頼を得ている。何故なら圧政もせず、税金も比較的軽いそうだ。
そのわりに領民の生活は安定している。生活苦の為に身売りしそうな人には割のいい仕事を与えたり、スラムの人たちも雇っていたりする。それもこれも全部父親のおかげだ。
そんな父親の名前は、ロエル・グライド。髪はアッシュ、目は茶色だ。細身で優しい雰囲気をまとっている。
少ない税金でも領地をしっかり経営できるやり手で、今は領地の視察で家を留守にしている。
さて、そろそろ練習を再開するか。今日は皆用事で遊べないし。
再び木の後ろに行って、ミリーから見えないように隠れる。
さっき"ライトニング"を使ったときは最低限の魔力だったから、今度は魔力を上げて使ってみよう。
「"ライトニング"」
ポゥーーーーーーーープス
《魔法"ライトニング"による事象改変は拒否されました》
よし。さっきよりも光が保った。ということは、込める魔力を上げれば出来るはず。
「"ライトニング"!」
ポゥ
よしっ、出来た!最低量の10倍の魔力を込めた"ライトニング"は弱々しい光を放っていた。
... これだと、他の魔法も10倍どころか20倍、50倍、あるいは100倍になってそうだ。
何でこんなことになってるんだろう。僕らが魔王を倒してからそんなに経ってないはずだけど。何かあったんだろうか。
... あれ?急にくらくらしてきた。意識を戻してみると、指先の光が目に入ってきた。
そうだった。"ライトニング"を維持したままだった。
魔法は無尽蔵に使える訳じゃない。今の僕は前世と比べるとほとんど無いに等しいし。
"ライトニング"の魔力供給を切る。
魔力は大気にいくらでも供給されるけど、魔法を使うには魔力と精神力、集中力が必要だ。
精神力、集中力は戦闘を繰り返すと自ずと上がる。それ以外で上げる方法はないこともないけど、2度とやりたくない。あの鬼畜師匠。
今度は強い光を出す検証だ。しばらく休憩してから、指先にさっきよりもさらに5倍くらい魔力を集めて唱える。
「"ライトニング"!!」
すると今度は込め過ぎたのか閃光で目が焼けた。
「うわっ!」
慌てて"ライトニング"を解除する。うぅ、目がチカチカする。よし、これである程度の魔法は大丈夫だ。でも何でいきなり魔力の効率的が上がったんだ?そもそも魔法は... ...
「セルトちゃ~ん。畑からケルットとレトスを採ってきてちょうだ~い」
「...」
「セルトちゃ~ん?」
「う、うん!わかったー!」
考え事をしていると、ミリーから呼ばれた。空を見てみると赤く染まっている。
あちゃー。魔法の事になると集中し過ぎて時間を忘れるんだよなー、と自虐的になる。
家の裏手には結構広い畑がある。広さにして、30メット×30メット。そこにいろんな野菜やハーブなんかを植えて、家庭菜園している。
さっき言われたケロットは人参、レトスはレタスだ。マクルの面白い所は、言語はまるっきり違うのに、食べ物や動物の名前が同じだったり似ていたりしている。
量は... ロエルが帰ってきていないから、1つ2つでいいだろう。そう思いながらケルットとレトスを採る。
近くの物置小屋にあったかごに野菜を入れて、家に入った。
ミリーはキッチンで夕食を準備をしていた。ミリーは僕の気配に気付いたのか、後ろを振り返り微笑む。
「はいっ!」
「セルトちゃん。ありがとう~」
ミリーは僕の持ってきたかごを受け取り、頭を撫でる。子供だからしょうがないだろうけど、なんだか気恥ずかしい。
「そ~う言えば、お庭が光っていたけど、何かあったの?」
「えっ!なんにもなかったよ!」
やばっ、さっきの強い光が漏れてたのか。何て言い訳しよう?
「そう~?でも雷が落ちたくらい光っていたけど?」
「本当に何もなかったよ!それに雷が落ちたら音もするでしょう?」
「そうねぇ~。う~ん」
「じゃあ、僕は部屋に行くね!」
そそくさと部屋へ行く。
ふう、危なかった。もう少し追及されたらぼろが出たかもしれない。次からはもっと慎重に練習していこう。
一応"ライトニング"はある程度の光量を出せたからよしとして、次は属性魔法だ。
属性には下位属性無・火・水・風・土がある。他にも上位属性とかあるけど、それは置いておく。
僕が前世で得意だったのは風だ。風は目に見えないし、弾幕も張れる。
反対に火は苦手だ。威力の調整を間違えて山火事を起こしそうになったり、弱すぎて煙しか出なかったりと散々だった。
「やっぱりさい初は"ウィンドカッター"だよなー」
「セルトちゃ~ん。ごはんが出来たわよ~」
「はーい!」
部屋を出ると、いい匂いが漂ってきた。今日は何だろう。
「今日はサラダと、カルボナーラよ~」
「わー!」
食卓の上には僕が採ってきたケロットとレトスを使ったサラダと、クリームたっぷりのカルボナーラがあった。
うん。美味しそうだ。
「いただきます!」
「いただきます」
ミリー特製の調味料を使っているのか、サラダには何もかけなくてもほのかな甘味があって美味しい。
カルボナーラはコカトリスの卵と、メシルの乳が使われている。本当なら卵も乳もクセがあって食べようとは思わない。そう考えるとミリーの料理スキルが羨ましい。
コカトリスとメシルは地球で言う鶏と牛だ。王都から地方の町や村などでも売っている。
本当勇者ってすごいなぁ。
カルボナーラーーーパスタは天の大好物で、元々マクルにはなかった。たけど天はパスタを諦めきれずに、原料の小麦から始めて試行錯誤の末スパゲッティは完成した。
あのときの天は、パーティーのみんなが引くくらいにパスタに執着して、手に負えなかった。
完成したときも、天が料理当番の時は3食パスタでうんざりした。まあ、今となったら笑い話だけど。
やっとのこと完成したパスタを天は旅で行く先々で披露した。当時の主食は 黒パンで、固く不味かったからか天考案のマクル産パスタは爆発的に広まって、一部の地域ではパスタが主食になったくらいだった。
あれから何年経ったかわからないけど、ここまで勇者の影響が強いなら僕の黒歴史もいくつか残っているかもしれない。いただきますも残っているし。ああ、あのときの僕は何をしていたんだろう。
「ごちそうさまでした」
「セルトちゃ~ん。ちゃんと歯磨きしてから寝るのよ~」
「うん!わかった!」
夕食を食べ終わって部屋に戻る。部屋のランプの燃料も馬鹿にならないし、早めに寝るように言われている。
ちゃんと歯磨きしてからベッドに入ると、魔法を使ったからか直ぐに眠りに落ちた。