003
僕はこの文字を見たことがある。今から4年前中学1年生のときに、僕は異世界に召喚された。
召喚されたのは僕と天を含む3人。喚ばれたのはマクルという異世界のラノア王国だった。そこで僕らは、"この世界を乗っ取らんとする魔王を倒して欲しい。"と王様に言われた。召喚されて混乱している最中に言われ、しかも送還は魔王を倒さないと出来ないって言われたから頷くしかなかった。
僕らを喚んだ王様も、本当にすまなそうにしていたし、天の正義感も発動してしまったから僕らは正式にマクルの勇者とその一行として魔王を倒すことになった。
その後は割愛するけどいろいろあって、何とか魔王を倒すことが出来た。その後召喚された元の世界の同じ場所同じ時間に還った。
話を戻そう。つまり僕が見た文字はマクルの文字レトナ文字で、僕はマクルに転生したということになる。
...
…
(やったーー!!)
「やーうーー!!」
「 **-..ちゃ~ん。..~.~-...:,~..-かな~?」
と母親が僕を寝かしつける。おっと今はお昼寝の最中だった。いきなり声を出したから母親が駆けつけて来た。まるでレスキュー隊員みたいだ。そのわりにはのほほんとしてるけど。
抱き上げられて、あやされてまたベットに寝かされる。よし、次は声を出さないように注意しよう。
さっきも言った通り多分、いや絶対に僕はマクルに転生した。マクル。いわゆる異世界には元の世界とは違う技術、魔法がある。
魔法はざっくり言うと大気中に混じっている魔力を使って、火や水、土などを自由自在に操る技術だ。元の世界の科学と対極にある。でも完全に科学がないわけじゃない。物を動かすときはてこの原理を使っているし、船も浮力を使って浮いている。
それに元の世界に魔法が無いこともない。神隠しや一部の心霊現象がそうだ。
じゃあ魔力が何なのかというと、世界から溢れた"ナニカ"で、転生して体を動かそうとしたときに感じた違和感がこれだ。大昔から研究者たちが何百年もかけて解明しようとしているけど、誰も発見出来なかった。だけど魔力があるお陰で魔法が使える。ただ、いくつかのデメリットもある。
ここがマクルだとわかった瞬間、大気中に存在する魔力をはっきり認識することができた。すると今の僕に出来ることは限られてくる。まずは、前世と同じくらい魔法が使えるかどうかを調べる。転生したから、使えない可能性もあるし。
人間は誰もが魔法を使える訳じゃない。人間は魔力を持っていないから、必然的に大気中にある魔力を使うことになる。この時、操れる魔力の量に差が生まれる。
ライター位の火でも出せない人が多かったし、魔法が出来ても牽制程度にしか使えないって言う人が大多数だった。
魔力を扱うセンスがあるかどうかは、ある魔法を使えばわかる。それは、指の先を光らせる魔法"ライトニング"だ。初めは小さく光らせる。そしてだんだんと光る範囲を大きくしていって、閃光で目が眩むぐらいになると一流の魔法を使うことが出来る才能がある。ライトニングは詠唱無しで発動出来るから、今の僕でも大丈夫だ。
ライトニングを使う前に、母親の様子を見る。さっきは起きて僕の様子を窺ってたみたいだけど、今は僕が寝たと思ったのか、すやすや寝ている。
よしっ。手のひらにある魔力に意識を向ける。
(ライトニング)
ポーーープス
えっ?
ガンッ
ぐっ
ライトニングを発動させて指先が光ったと思った瞬間、強制的に光りが消え、意識を刈り取るような衝撃を受けた。
《魔力が足りません。魔法"ライトニング"による事象改変は拒否され... 》
薄れゆく意識の中システムメッセージが聞こえ、僕は意識を失った。
「**-..ちゃ~ん。*---..--<*-,-...**ですよ~」
と言う母親の声で僕は起きた。窓を見てみると、もうすっかり暗くなっている。4~5時間くらい気を失っていたみたいだ。
うーん。使えなかったか。転生したから魔力がなくなったみたいだ。仕方ない、また魔力を1から増やすしかないか... 。
だけど2番目に言ってたのって一体?前世でもこんなメッセージ聞いたこと無いし。単なる魔力不足だけじゃないみたいだ。
と夕飯を飲みながら思う。ああ、早く離乳食が食べたい。
***
"ライトニング"の魔力が足りないと判った、次の日。今日からの目標は、魔力を増やすこと、前世と同じ位かそれ以上魔力を増やすことだ。他にもいろいろあるけれど、寝ながら出来るのはこれしかない。
昨日も言った通り人間は魔力を体内に持っていない。操れる魔力を増やすことを、魔力を増やすと言う。
一般的にマクルでは、魔法を使うとき大気中にある魔力を使う。しかし、大気中にはごく微量の魔力が均一に広がっていて、その場一点にある魔力だけを使うと"ライトニング"でも使えなくなる。
だから周囲にある魔力を操り圧縮して、魔法の威力を上げる。特に"ライトニング"は魔力集めれば集めるほど光量が上がるから、わかりやすい。
まず最初は手の周りにある魔力を集めて圧縮する。ゆっくり、ゆっくりと。すると1cmくらいの球体になった。
次に魔力の球... 魔球を手のひらの上で転がし、指先に移動させていく。親指から人差し指。人差し指から中指... ... 。
次は体全体に移動させる。ゆっくりと腕、肩、下半身へ動かす。
いよいよ次は体から離して操る。だいたい15cmの所で、半球を描くようにゆっくりと動かす。
何でゆっくりやるかと言うと、魔球は集中を切らすと簡単に霧散して... と考えていると魔球がいつの間にか消えていた。
もう一度、集中集中。今度は5cm大の魔球にする。手のひらに魔力を集中させて... くっ、難しい。なかなか安定しない。
10分くらいかかって、魔球が出来た。それをさっきと同じように手全体に移動させる。
魔球は手のひらで動かしたときに、制御が出来ないくらいの大きさでやるといい。これは前世の経験からだ。魔球の大きさが大きいほど、体から離せば離すほど、段違いに難しくなる。また魔球の数が多いと更に難しくなる。
最終目標は果てしなく遠いけど、前はできた事だ。何とかなるだろう。最初の目標は1ヶ月で体から5m離した、大きさ1mの魔球を操れるようにしよう。
今日1日はずっと魔球を作って操る、作って操るを繰り返して、体から30cm離して、大きさ50cmの魔球を操ることが出来た。
首を動かして窓を見ると、余多の星が輝いていた。日本では滅多に見る事が出来ない星空。マクルに来れたんだなぁと、感慨深く思う。
そう思っていると、急に天や夏煉に会いたくなってきた。
窓の向こうで、夜が涙したように流れ星が流れた。