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ディリオン王国前史5

 新暦437年、明主ヒルメスの死後、新たにディリオン王となったのはヒルメスの長子サラールで、極めて順当な継承であった。ヒルメスにはサラールの他に二人の男児がおり、名をヘイスティング、ガディリウスといった。彼らは何れも壮健にして聡明、兄弟仲は大変良く、サラールの王位継承も残る二人は寧ろ積極的に支持し、対するサラールも弟達の忠義によく報いた。王土の民にとっても王家の安定は幸運なことであり、何よりもヒルメスの死によって巻き起こる事必定の国内外の擾乱を前にしても王兄弟達に反目せすに協力し合う態勢が築かれている事が幸いであった。


 結束が保たれていたのは家族内だけで――身内だからこそ偉大な出来事ではあるのだが――、その枠から一歩離れればそこは争いと混乱が支配する世界であった。

 ヒルメス治世期に破れ国外へ逃亡したディリオンの息子達が決起し、王位奪還に動き出していた。亡命を受け入れていた諸国は彼らを支援し、王位奪還の軍勢を送り出した。次子ドリアスは南のライトリム王国の、末子バイロンは東のバレッタ王国の支援を得て故国へと兵を進めた。無論、諸国の支援は道義心や同情からなどではなく、強大化しつつあるディリオン王国への介入の口実とする為である。

 言うには一瞬の事だがそこに至るまでには紆余曲折も当然ある。ライトリム王国は当初長子ディラントを支援し、ディラントの戦死後は彼の遺児を用いようとしていた。だが自身が王位に就く野心に駆られた次子ドリアスがディラントの遺児を殺し、ライトリム王国に支援を求めたのだった。ライトリム王国としては傀儡にするのは誰でもよく、支援を決定した。

 さて、ここで困ったのが末子バイロンである。バイロンも富と権力を好む男ではあるものの王位を求める程ではなかった。だが、だからと言って野心家ドリアスが継承順が上の兄を見逃す筈はなく、ライトリム王国も最早保護は与えてくれずとなればバイロンの行く先は新たな他国しかなかった。そんな折にバイロンに手を伸ばしたのがバレッタ王国であった。バレッタ王国はディリオン王国とは緊張のある中立を維持していたがやはり伸長を続ける隣国ディリオンを叩く好機と捉え、その大義名分にバイロンを確保したのだった。

 この協調性こそがヒルメスの子らとディリオンの子らの大きな差で、彼らの運命を決定付けた。

 余談として、サラールの妻はディリオンの娘――バイロン家ドリアスにとって妹、サラール自身にとっては従妹にあたる――であるが、彼女は実兄達との戦争には何の感傷も抱いてはおらず、夫王に対して恩赦を嘆願することは遂ぞ無かった。


 ヒルメス統の王位継承を否定する勢力だけでなく、ディリオン王国の支配そのものを拒否する勢力もまたヒルメスの死を契機に兵を起こした。

 ストラストの有力家はかつてディリオンの奸計により虐殺の憂き目にあったが、生き残った一部の者達は海を越えてアイセン島に逃れていた。彼らはアイセン島の水軍衆と結託してトバーク海を荒らし回り、ディリオン王国にも襲撃の手を伸ばしていた。ヒルメス治世中は大きな影響を与える事は出来なかったが、事態が変われば話は別である。ストラストやアイセンで培われた海上の武力はやはり脅威であった。

 そして北のクラウリム王国が海の反乱者と手を組み、ディリオン王国に剣を向けた。クラウリム王国はレウテッド王の死後、ディリオン王国に従属的な立場に置かれ続けていた。コーア人の侵略から守ると言う口実に軍を駐留され、王位の継承や領土管理にさえも干渉されていた。これらの状況を払拭すべくかつては同盟国であったクラウリム王国は対立姿勢を明らかにしたのであった。


挿絵(By みてみん)


 即位の儀式を執り行う間も無く、新王サラールは戦場を飛び回る必要に迫られた。

 噴出する闘争はヒルメスの負の遺産の様にも受け取れるが、寧ろ一歩間違えれば何時崩壊してもおかしくなかったディリオン王国を破滅させずに固め、後の世代にも形を残し得たヒルメスの手腕を評価すべきであろう。

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ディリオン群雄伝~王国の興亡~
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