表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/14

ディリオン王国前史4

 ヒルメスの治世は何も内政にばかり傾いていたわけではない。王国成立や王位奪取の過程からも分かるように流血と暴力の支配する時代でもあったのだ。


 ヒルメスはクーデターによって王位を獲得したのだが、彼自身は生粋のロラン家出身であり、前王ディリオンの血は一滴も引いていない。本来の後継者である筈のディリオンの息子達がその事に不満を抱かない訳が無かった。

 新暦422年、ディリオンの長子ディラントは征服され服属していたハルト地方諸勢力に協力を求めた。大幅な自治権と引き換えに王位奪還に力を貸すよう求めたのだ。何とも本末転倒ではあるが、ユニオンの支配を嫌ったハルト諸侯・諸都市が決起するには確かに充分な申し出であった。

 更に反乱に荒れるハルト地方に宿敵ライトリム王国が介入を図った。ディラントはライトリム王国と同盟し、都ユニオンへ迫った。ところがこれは裏目に出てしまう。

 反乱が発生しこそすれ、元々ヒルメス王を支持する勢力は少なくなかった。ディラントは父ディリオンに良く似た暴君で、忠誠心を刺激するような人物では決して無かった。そこへ来てライトリム王国との同盟である。これでは折角ユニオン勢の影響力を排除しても新たな支配者が現れるだけではないかと少なくない者が感じたのだった。

 新暦424年、ヒルメスらディリオン王国軍とディラント・ライトリム連合軍はハルト地方南部ベイアの平原で衝突した。ヒルメス軍は当初劣勢にあったが連合軍の一部が寝返り、これを好機としてヒルメス軍は盛り返して勝利した。ディラントは戦死し、参陣していた弟達は外国へ亡命した。ライトリム王国はハルト地方から手を引かざるを得ず、撤退していった。

 ヒルメスは帰参した反乱者を快く迎え、そのことを知った反乱者は次々と白旗を挙げて降参した。尤も彼らは"許された"のではなく、この後には戦いに勝利し権勢を強めたヒルメスは数多の手練手管を尽くしてかつての反乱者達を処分していったのは言うまでもない。


 それから数年の間は小規模な反乱やライトリム王国との小競り合い程度で済んでいた戦乱であったが、もう一つの宿敵が姿を現した。

 新暦430年、今度は北からコーア人が攻め込んで来たのであった。コーア人は蛮族の風習が色濃かった150年前とは性質を変えつつあり、クラウリムやハルト人に程近い文化へと変化していた。それらの変化はコーア人の間でも賛否両論で、新文化派が優勢ではあったが今だ旧来の蛮風を良しとする者も少なくなかった。

 そして旧来派の大戦士カサルスは分裂するコーア地方を掌握し、蛮風の象徴たる侵略戦争を大々的に仕掛け始めた。いざ戦争となれば相争っていた元より血の気の多いコーア人達は結託しカサルスに率いられて他国に刃を向けた。コーア人の侵略はディリオン王国に限らず西のクラウリム王国や北のサイスにも及んだ。

 クラウリム王国はコーアの侵略を押し止めようと王自ら軍を出したが敗北し、クラウリム王レウテッドは3人の王子と共に戦死の憂き目にあった。

 一方、ヒルメスにとりコーア人の侵略は危機であったが同時に好機でもあった。先のディラント一派との戦争もそうであったが外敵の存在は集団の結束力を高めるものである。コーア人との戦いを理由にヒルメスは各勢力への掌握力を高め、配下の諸侯や諸都市に軍資金と兵力を差し出させ、これ迄のハルト地方の歴史で最大の軍勢を編成した。更に王と王子を失い混乱するクラウリム王国に援軍と称した駐留部隊を派遣し、ディリオン王国主導の対コーア同盟を結成するなど他国への介入さえも成功させていた。

 肝心のコーア人に対しては同盟に引き込んだクラウリム軍と協同で立ち向かい、激戦の末にシントリス河畔の会戦でコーアの長カサルスを討ち取り勝利を収めた。指導者を失ったコーア人は追いたてられるままに北へ逃げ帰り、以降旧来の蛮風は急速に鳴りを潜め、大規模な侵略が試みられることはなくなった。


 権謀術数の限りを尽くし、数多の戦争に勝利したヒルメスはハルト人の連合勢力に過ぎなかった"ユニオン王の国"をディリオン王国という一つの国家へと作り上げ、輝かしい業績に包まれて新暦437年に死去した。

 王都や制度も含め後々まで知られるディリオン王国の枠組みを築いたのはこの第二代王ヒルメスであり、16年の治世は余すところなく栄光と虚飾に彩られ、多くの成功に導いた。


 だが、人なる身には如何ともしがたいことではあったが、ヒルメスの才は彼の死後までを操ることは出来なかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
良ければこちらもどうぞ。
ディリオン群雄伝~王国の興亡~
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ