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ディリオン王国前史3

第2代王ヒルメス その1

 421年、ディリオンを幽閉して王位を奪ったヒルメスは時を置かず施策に取り掛かった。政治・軍事などあらゆる分野に彼は手を加えた。

 それまでのユニオンはどれ程国力があったとしてもあくまでも都市国家であり、ディリオンが領土を大きく広げてもその性質は都市国家の範疇を出ることはなかった。更にディリオンは支配者となっても統治に興味を示すことはなく、国政を整備することもなかったのだから尚更といえる。


 ヒルメスがまず行ったのは王位というものの確立である。

 ディリオンが名乗り、ヒルメスが"継承"したのはユニオン王という称号であった。歴史の中ではハルト地方には幾人か王レクスがいたが存在は僅かな間の事であり、ユニオン王という名も全く新たに出現したものであるから、王という称号そのものに権威が無かった。


 その手段として第一にヒルメスは先代王ディリオンの神格化に努めた。自ら幽閉しその権力を奪っておきながら皮肉な事だが、彼を神として権威の後ろ盾にしようとしたのだ。

 偉大で崇高な人物だったという記録を残し、そうではない記録は尽く抹消した。いくつもの銅像を立て賛美の碑文を掘り、主神である太陽神の神殿の一角を拡張して彼の為の聖堂を建立した。その一環としてヒルメスによる反逆も記録から隠された。

 さて肝心のディリオンだが彼の没年は判然としない。歴史の表舞台から消えた後は一切登場しなかったからだ。公式文書には"隠れた"と記されるのみで、後に建立された王墓には彼の遺体は納められていない。そしてヒルメスはディリオンが神々の元に召されたのだと宣言し、大々的な葬送の儀式を執り行った。

 しかし人の口に戸は立てられず、ヒルメスとディリオンの確執、反乱の一件は筆者不明の年代記によって後世へは伝えられることになる。

 

 神格化に関わることであるが、王国にディリオンの名を冠させた。それもハルト人の王国でもユニオン市の王国でもなく、新たな概念をうちあげた。すなわちロラン家を王朝とした王国、ディリオン王国の概念である

 ヒルメス王の頃にはまだ左程ではなかったが、以後時代を経るごとにこの概念は大きなものとなっていく。


 第二の手段として称号の新設を行った。一般にハルト人は王をレクスと呼び、ユニオン王も同様にレクス・ユニオニアと呼んだ。ヒルメスは王の呼び名も変え、本来主人を意味する古い言葉であるドミヌスと定めた。このドミヌスという呼び名だけをユニオンの王の称号とし、他国の王はレクスと呼ぶことで意識的な差別化を図ったのだった。


 ヒルメスは名だけでなく実際的な部分でも様々な政策を採用した。建築、税制、行政制度、軍制など多岐に渡ったが代表的なものは二点あった。

 一つは王都となったユニオンの整備である。ハルト地方の枢要都市として発展してきたユニオン市を整備・再建し、都として相応しい体裁を整えた。現在の都市の周りに別の外壁を築き、旧市街には貴族・富裕層のみ残し、他の市民は新市街へ住まわせた。加えて旧市街には豪勢な邸宅や神殿を築いて王の住処に、市外の船着き場も拡張して都市を支える補給路に作り替えた。


 もう一つは土地と貴族の取り扱いについての諸制度である。制度というよりかは厳密に言えば慣習に近いかもしれない。ハルト地方に限らず、土地とは富であり力であり身分の保証であった。そして貴族とはこの土地を基盤にして自身の勢力を保っているものであり、隙あらば他の貴族の土地を奪おうと画策しているもとだ。

 そこでヒルメスは王という上位者として貴族の後ろ楯となり、その貴族の土地が攻撃されないよう取り計うようにした。殆どの貴族は常に土地を増やす野望よりも土地を失う怖れの方が上回っていた為、王との友好関係を維持して土地を守ろうと望んだ。彼らは挙って忠誠を誓い、王に様々な形で貢物を捧げた。

 ヒルメスが巧妙なのはあくまでも後ろ楯として取り計らっただけで、法的な保証を与えたわけではない事だった。あくまでも王との友好関係に立脚したこの体制は貴族達に安心を与えつつも、安住は与えなかった。ただ時代が下るとこの慣習的制度は王国にとって必ずしも有効では無くなるのだが、それは今の話ではない。

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ディリオン群雄伝~王国の興亡~
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