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ディリオン王国前史10

 新暦449年、ディリオン王国は残る最後の敵クラウリムへの反撃を始めた。ヘイスティング王自ら率いる2万人がクラウリム領へ侵攻した。

 これまで勢力圏境で睨み合いながら虚々実々の小競り合いを繰り返し期を図っていたリルタスもディリオン勢の有利を悟り、一旦後退した。故国の地の利・人の利を活かそうというのだ。

 勇んで進んだディリオン軍だったが故国の利点を活かして迎撃するリルタス相手には矢張り楽勝と言うわけにはいかず、一筋縄ではいかなかった。補給の確保という点だけでもディリオン軍は労苦を重ねた。

 想定以上に補給線の確保に難を感じたヘイスティングは沈静化したライトリム方面から一部部隊と弟ガディリウスを呼び寄せた。増援と指揮官を得て補給線を維持しようと考えたのだ。この策は功を奏し、補給難の負担は減じた。


 積極性を取り戻したディリオン軍は未だ捕捉できていないクラウリム軍本隊への警戒を強めた。そこに舞い込んできたのが敵部隊を発見したとの報であった。大部隊との報告で、リルタスと彼の本軍であろうと推測された。

 ヘイスティングの決断は速く、足止めに軍勢の半数を割いて送り出し自身も残りの兵と共に後を追った。しかし、ヘイスティングの構想は決戦に至るということを除き忽ちに瓦解することになった。小町ホフト付近に到着した辺りでクラウリム軍の大軍が突如襲い掛かってきたからだった。この襲撃軍こそがリルタスの本隊であったのだった。少数の別動隊の数をディリオン軍が誤認し、その千載一隅の機会をリルタスは逃さなかった。

 リルタスのクラウリム軍1万8000に対しヘイスティングのディリオン軍1万2000と数で劣り、行軍中に奇襲された以上、不利を免れなかった。

 ヘイスティングは必死に陣形の再編を図るが事態は刻一刻と悪化し、ディリオン軍は窮地に陥り続けた。軍勢は統率は欠き、それぞれの部隊が個々に奮戦する羽目になった。それでも全軍の潰走を何とか回避しえたのはヘイスティング・ガディリウス兄弟の能力、ディリオン式特有の混成部隊戦法が威力を発揮したからだった。

 だが、運命の天秤はどちらにでも傾くもので、陣頭で指揮を執り奮闘するヘイスティングに流れ矢が突き刺さった。ヘイスティングは声も上げずに地面に倒れ討死した。

 突然の司令官の死。それも王という最高司令官の死だ。一層の混乱に包まれておかしくない事態だった。ディリオン勢にとって幸運だったのは王には弟がいる事、弟が同じ戦場に居合わせられた事、そしてその弟ガディリウスが極めて有能である事だった。

 ガディリウスは躊躇しなかった。兄王の死に動揺する軍勢に檄を飛ばして掌握し、その勢いのまま王位の継承を宣言した。戦場の興奮は仇討という風にも煽られて瞬く間に熱狂へと変わった。リルタスらクラウリム勢の期待に反してディリオン軍は意気高く反撃に転じた。

 ガディリウスを筆頭に猛撃を繰り出すディリオン軍にクラウリム軍は圧倒された。ガディリウスはここで負けたら後は無いと考えたのか全てを振り絞っての怒涛の攻撃を行った。

 先に崩れたのはクラウリム軍だった。リルタスは最後まで殿に残って再反撃の機を狙っていたが、その機はついに訪れなかった。


 撤退したリルタスはディリオン軍の追撃は無いと踏んでいた。王を失い打撃を受けた軍勢ではその様な積極性は保てないと考えていた。だがガディリウスは躊躇しなかった。士気と統率を維持できる騎兵だけを抽出して果敢にクラウリム軍を追い掛けた。

 予想外の攻撃は今度はクラウリム軍に対する奇襲と化した。リルタスは敗残兵と共に都クラインへ逃げ込む羽目となった。


 クラウリム軍を撃破したとは言え、ディリオン側が受けた被害も小さいものではなく、ディリオン軍は撤退した。加えて、急場で王位継承を宣言したガディリウスも自己の立場を確たるものとするために王都に戻る必要もあった。

 結論から言えばガディリウスの即位追認そのものは先例の存在や嫡子がいない事、武勲から敵対国の期待を裏切って滞りなく進んだ。

 ところが悪意ある者の目から見れば、それは都合がよすぎる継承でもあった。即ち、サラールとヘイスティングの死はガディリウスが仕組んだ策略だと言うのだ。サラールは急病死、ヘイスティングは戦場での不慮の死、と疑念を掻き立てるには十分過ぎる状況だった。

 事態を危ぶんだガディリウスは14歳の甥シュリメアスを共同統治者として宣し、王位継承を確約する事で疑念を払拭させようとした。

 だがこの一連の疑惑と謝罪にも似た対応はガディリウス自身よりも彼の息子ガトランの精神に大きな影響を与える事になる。と言うのも、ヒルメスの息子達は兄弟仲は良く、派閥と言う程の分裂は来たさなかったがそれでも個々の人格的差異から周囲に集う人間はやはり異なっていた。最大の友人で重臣でもあるカスティオ家のバグレイもどちらかと言えば長男サラールと気が合うところがあった。そのガディリウスの"友人達"が愚か者共のせいでガディリウスと子ガトランの未来を曇らされたと憤りを感じていたのだった――――先々王サラールの嫡子シュリメアスの方が継承権は本来上位と言うことは無視して、だが。多感な青年のガトランがその意見に影響を受けない筈もなく、この事は後々の歴史に大きな影を落とすことになる。


 ガディリウスは王位継承の経緯やそれまでの武勲から"勇武の王"と称えられるが、その治世は意外にも戦火も求めないものであった。彼は続く戦乱で疲弊した国内の立て直しに注力した。

 基本的な統治制度に手は付けず、問題としたのはその運営面に於いてであった。国王直轄地に関しては代官を方々に派遣し統治効率の上昇に努めた。

 また長い戦乱の中で勃興した新参者、没落した古参者など貴族・領主は多くの浮沈に巻き込まれており、これらの調整や制御を放置する事は国力の低下と不穏を招くだろうことは明らかだった。ガディリウスは領有権争いの調停や不法占拠者の討伐を行い、鎮低に努めた。

 この調停と言う方面に於いて意外にもバイロンは傑出した結果を示した。一見して愚鈍で利用出来そうな風貌と柔軟な態度が寧ろ安心感を抱かせるようで、バイロンを合間に挟むと争乱が収まる事が多かった。バイロン自身も、これまでの戦争でくたびれたのか、私欲を満たそうとしなかった事も公平さを感じさせる一助となっていた。ガディリウスは先代ヘイスティングよりもバイロンを寛大に扱い、領地や妻を与えて懐柔した。バイロンも今更逆らう気など無く、ガディリウスに忠実で居続け、バイロンは子孫を平和的に残すことに成功した。



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ディリオン群雄伝~王国の興亡~
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