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ディリオン王国前史9

 窮地を脱したヘイスティングは直ちに反撃へと転じた。ガディリウスにはライトリム軍の追撃を、バグレイへはストラストの奪還とアイセン軍の撃破を改めて命じ、自身は最大の敵であるリルタスのクラウリム軍と再び対峙した。

 敗北したとは言えクラウリム軍は健在であり、リルタスは同盟軍の敗北を転じて自らの求心力回復に利用し、その権勢を再度確かなものとする事に成功していた。

 リルタスの反撃を防ぐためにもヘイスティングは付きっきりでこれに対応する必要があったのだ。


 ガディリウスはライトリム軍を追撃し続け、王都サフィウム近郊まで進軍した。ライトリム人の心胆を散々寒からしめ撤退した。補給線も延びきっており、流石にフォアン平原での損失を補充できての攻勢ではない。

 しかし、ライトリム王国を取り巻く情勢として無理をする必要はなくなっていく。

 ライトリム王リカント家はかねてから反抗的な家臣イットリア家に手を焼いていた。南部の大都市ハノヴァを拠点とするイットリア家はかつて大勢力を誇ってライトリム地方の覇権を巡ってリカント家と激しい攻防を繰り広げ、臣従させられた今なおライトリム南部一帯に影響力を及ぼしている。そのイットリア家が戦争で疲弊したリカント家への反抗を強めていたのだ。

 更に隣接するレグニット地方もライトリム王国にとってハルト地方はディリオン王国に劣らず問題だった。これまでレグニット地方は無数の地方政権や独立都市(ムニピチウム)と呼ばれる都市国家が割拠していたのだが、その中の一国デサイトス王国が勇王エルクレインの統治下で頭一つ飛び抜けていた。

 エルクレイン王はフォントスのオルグラット家、独立都市(ムニピチウム)カゼルタを服属させると、レグニット有数の大国モンタグリ家のガルナ王国を婚姻と策略で乗っ取ることに成功した。更に軍事国家と知られる都市国家プレタティンを抑え込み、独立都市(ムニピチウム)最強のトラヴォ市と同盟を締結するに至りレグニット地方の大部分を掌握した。エルクレインはレグニット王を称し、隣接するライトリム地方へも手を伸ばしていた。

 レグニット勢の先鋒となったのはライトリム王を見限り再び亡命したドリアスだった。ディリオン王国の優勢とライトリム王からの冷遇を見たドリアスは新たな後援者を――機密情報や地図を手土産に――求めたのだった。尚、ドリアスはこの直後に無謀な突撃を掛けて戦死している。

 一転してライトリム王国は包囲される立場となり、ディリオン王国との戦争にとても集中できる状況ではなくなった。明確に講和を結んだわけではないにしても、ライトリム戦線は冷却していった。


 重臣バグレイは軍港ストラストの包囲軍に合流し、アイセン軍に対峙した。彼は更に離脱に成功していたストラスト艦隊を密かに再建、アイセン艦隊の撃滅を狙った。再建した艦隊を出撃させ、これを囮としてアイセン艦隊を引き摺りだす作戦を立てた。敵艦隊の出現にはアイセン人も放置は出来ずこの計略は成功し、アイセン艦隊はストラストの港から姿を現した。

 だがディリオン艦隊は姿を見せ付けながらも受けて立つことはせず、海上の戦いは生起しなかった。そのうちにアイセン艦隊内には奢りと弛緩が生じ始めた。所詮は烏合の衆が溺れかけているだけだと。アイセン人は油断も露わにグロフシュテットの浜辺に停泊した。水場が近く波も穏やかで停泊には適していたが、同時に陸にも海にも開けており防御には不適な場所だった。

 バグレイはこの時を待っていた。油断したアイセン艦隊を陸海から奇襲し、艦隊を焼き払う事に成功した。少数の軍船は逃げ延びたが、大部分のアイセン船は失われ、停泊中であることも災いし陸地で休息していた水兵の多くが殺されるか捕虜となった。


 戦いを続けた他国と異なり、バレッタ王国は逸早く和睦の道を探った。元より単純な損得勘定から戦争に参画した以上、戦争継続の得より損が上回ると判断されれば中止に動くのも当然の事だった。こと、現バレッタ王イレドラスは戦争に勝利しつつあるディリオン王国の力量を高く評価するようになっていた。各方面軍が反転してバレッタ領になだれ込んでくる前に和議を結んでおくべきだと考えたのだった。

 イレドラスは講和に当り幾つかの譲歩を受諾した。一つはガラップ以西の割譲、もう一つがバイロン引き渡しであった。ガラップはバレッタ王国にとっては反抗的で扱い難い土地であり、山脈に挟まれた回廊地帯も同様であった為、寧ろ厄介払いとしての目的もあった。バイロンは既に戦い続ける意思はなく、王位継承権を放棄して故国へ投降した。ヘイスティングは仮にも縁者であり臣従の誓いさえも忌避しなかったバイロンに苛烈な対応はせず寛大に扱った。これは同時にバレッタ王国への態度も表すものと言えた。

 以降、バレッタ王国はディリオン王国にとり重要な同盟者へとその立ち位置を変えていくことになる。



 ヘイスティングはドリアス、バイロンという王位請求者を打倒し、ヒルメス死後から長く続く戦いに勝利を収めた。ここまでを後世、"後継者戦争"と呼んだ。

 ヘイスティング王らディリオン王国の敵は残るはクラウリム王国と王子リルタスだけ。これを屈服させて平和を捥ぎ取るのみ――――しかし歴史はここに至っても尚流れを加速させた。

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ディリオン群雄伝~王国の興亡~
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