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ディリオン王国前史8

 クラウリム王子リルタスの結成した同盟は幾らかの齟齬を乗り越え仇敵ディリオン王国への侵攻を開始した。ディリオン側もそれまで座視していた訳ではないのだが、王の交代や国力回復などの混乱を克服するのに時間が掛かったのだ。


 新暦442年に入ると同盟軍も機は熟したとし、北からリルタス率いるクラウリム軍が進行し、トバーク海沿いにハルト地方へ向かった。

 そしてクラウリム軍の動きに気を取られたディリオン軍の隙を突いてアイセン人の艦隊が軍港ストラストを電撃的に襲撃、これを占領した。ユニア川を遡って河川沿いを略奪し回り、その魔の手は王都ユニオン近くまで到達する有り様だった。

 同盟側の攻勢はこれに留まらない。コーア地方の大豪族ジンカイ家も出兵してハルト地方へ矛先を向け、バレッタ軍・ライトリム軍も先年の敗北を叩き返そうと体勢を整えていた。尚、ドリアスもバイロンも出陣してはいない―――或いは出陣させては貰えなかった。



 ヘイスティングは王国領内全域に動員令を発した。あらゆる領主、貴族、勇士(ミリテス)、平民に王国を守る為に兵と財貨を供出するよう命じた。国防の戦力確保の側面は勿論のこと、大難を前にしての離反を防ぐための人質としての面も多分にあった。

 多大な尽力の末、ヘイスティング王、王弟ガディリウス、カスティオ家のバグレイらを筆頭として王国軍7万人を召集した。それでも各方面軍に守備隊にと振り分けるには戦力として十分量とは言えず、ヘイスティングはリルタスに一歩遅れて緒勢力に同盟を求めた。

 直ぐに応じたのはコーア地方は主邑オリュトスの大豪族マールーン家であった。彼らは隣接するジンカイ家と常々争っており、今回も寧ろ積極的ですらあった。マールーン勢の主ケレーズは精兵を率いて勇んでジンカイ領へと攻め込み、ジンカイ勢は折角ハルト地方へ投入した兵力を反転させる羽目になった。

 だがそれ以外の勢力――ライトリム地方の独立勢力やレグニット勢――は消極的で言を左右にした。彼らもディリオン王国が持ちこたえる事に懐疑的だったのだ。


 ヘイスティングは各方面へ軍を派遣した。北から迫るクラウリム軍には自身の直下部隊、南のライトリム軍へは王弟ガディリウス、東のバレッタ軍へは宿マーサイド家のアリストン、そしてユニア川の奪還と再掌握に重臣バグレイを投入した。


 国内で活動する事になるバグレイへは王宮の護衛隊や近衛兵の一部も与えており、ヘイスティングの彼への信頼度が伺えた。

 バグレイは河川沿いの諸都市や村落との連携を強化しつつ、アイセン人に占領されたストラストへ軍を進めた。これは歩兵主体の陽動部隊で、陸戦を好まないアイセン軍を都市に籠らせ、一方で川沿いに出てきたアイセン軍を騎兵や精鋭歩兵隊で叩くのが目的であった。その作戦は成功し、アイセン軍はストラスト市内へ追い込まれた。


 優勢に進んだアイセン軍との戦いとは対照的に他戦線の戦況は芳しくなかった。ヘイスティングはクラウリム軍と激しく衝突するも勝利を得るに至らず、それどころかリルタスの陽動作戦に引っ掛かった幾つかの部隊が壊滅的被害を受けたことで後退を強いられ、国境線から押し込まれて列記としたハルト地方領域内であるヨーグ城まで退いていた。

 そしてライトリム軍との戦いは膠着しており、バレッタ方面では奇襲を受け敗北し、散々に追撃を受け指揮官のアリストンは敗死してしまっていた。


 バレッタ方面の被害は全戦線の崩壊に繋がりうる危機的状況だった。ヘイスティングは賭けに出た。多方面から攻められるより自軍も敵軍も集結させての会戦で事を決しようと狙ったのだ。

 直下軍、ガディリウス軍を少しずつ後退させ、バグレイにはバレッタ方面軍へと配置換えし同様の戦略を取らせた。勿論そうそう簡単に後退を許される訳はないが、ヘイスティングは敵軍の偽情報を流したり離間や調略を仕掛け、同盟側の足並みを乱させた。またその一方で、"他勢力、特にクラウリムのリルタスが勝利を独占するつもりである"との風聞も流し同盟軍が互いに疑いを持ち敢えて集結するよう策謀を巡らせた。元より結束が強いわけでもなく、優勢の驕りで視野の狭くなっている同盟諸軍は面白い様にヘイスティグの罠に嵌り、無為な行軍や牽制を繰り返しながら一か所に集結することになった。肝心のリルタス自身はヘイスティングの策を見破っており諸王を諫めたが、それが寧ろ風聞を肯定するように諸王が受け取った。そしてクラウリム王でさえもリルタスの野心を疑い、彼が功績を独占しないように手回ししていた。


 結果、ヘイスティング王の狙い通り、同盟軍は一ヶ所に集結し、ディリオン軍もまた兵力を集結させての会戦に持ち込む事が出来た。

 王都ユニオンの北東、フォアンの平原で両軍は衝突した。ヘイスティング麾下のディリオン軍5万人と対するクラウリム・ライトリム・バレッタ同盟軍7万人の戦いは早朝から日暮れまで続く激戦となった。同盟軍は結局はリルタスを総大将として受け入れるも諸王との協議を要する体制としていた為に足並みが揃わず、数の優勢を活かせずにいた。だがディリオン軍も勝ちきる事が出来ず、戦いは翌日に持ち越される事となった。

 だがヘイスティングは手を止めなかった。ホラント家のトランスに夜襲を命じ、彼の活躍で同盟軍は大きな打撃を受けた。更に夜襲が裏切りと内通によるものであるとの噂を流し、同盟軍の結束に一層の亀裂を入れた。

 翌日の戦いは終始ディリオン軍の優勢で進んだ。特にバグレイの活躍は目覚ましく、指揮下の部隊だけで相対していたバレッタ軍を敗退させた。バレッタ軍の敗走は全面的な壊走へ繋がり、同盟軍は散を乱して逃げ出した。


 ディリオン軍はフォアン平原の会戦を制し、賭けに勝利した。


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ディリオン群雄伝~王国の興亡~
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