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婚約者にいらないと言われた実はハイスペックなヲタク少年×押し付けられたぽっちゃりヲタク少女7

繊細な細工の施されたシャンデリアが照らしてくれているパーティーホールには、ドレスやスーツで着飾った老若男女の姿があった。

立食式のためみんな立ちながら料理やアルコールを堪能しながらおしゃべりをしたり和やかに過ごしている。


今日は私達は老舗のホテルへとやって来ていた。

朔君から神守家のパーティーへと誘われたので――


最初招待状貰った時にはパーティーなんて親戚の結婚式しか参加したことがなかったので尻込みしていたが、お兄ちゃんも招待状を貰ったと聞き余裕に変っていった。

お兄ちゃんがいれば大丈夫かなーって。我ながら単純だなぁって思う。

その上、瑠伊君も呼ばれていたので会場で合流したのでほっと一安心。


「三葉ちゃん、可愛いねー」

私の前でにこにこしている瑠伊君は、着慣れているらしくスーツ姿がびしっと決まっている。その隣にいるお兄ちゃんもスーツ姿なんだけど、違和感があるのかワイシャツの首元を気にしていた。

お兄ちゃんのスーツなんて成人式くらいでしか見た事ないので希少。

ゴスロリなら数えられないくらい見ているけどね。


「ドレス姿初めてみたよ。三葉ちゃん、ピンクもすっごく合う!」

「当然だろ。俺が選んだんだ」

お兄ちゃんの台詞に瑠伊君が「壱葉ってドライな雰囲気だけど、実は三葉ちゃん大好きだもんねー」と口にしながらにやにやとした表情を浮かべたのだけれども、すぐにお兄ちゃんに一睨みされそっと視線を逸らす。


「瑠伊君もかっこいいよ!」

「ほんと? 三葉ちゃんにそう言われると嬉しいー。壱葉はどう思う? カッコイイ?」

「はいはい、カッコイイ」

「えー、壱葉ってばそっけないー」

「しかし、人が多いな。宵に小規模って聞いていたけど、軽くさっと見ても三百はいるだろ」

「いるだろうね。あっ、もし人酔いしちゃったら、ちょっと抜けて外で涼んでくるといいよー。ここは庭も綺麗だからさ」

「なら、ちょっと行ってこようかな……ちょっと風に当たりたいかも」

夏と冬で人込みに慣れているから人酔いはしていないけど、日常と切り離された場所だから緊張しているのか暑くてしょうがないのだ。このままずっとここにいるより、少し自然の風に当たって涼みたい。


「でも、外は暗いけど庭行けるの?」

「通路には照明付いているから大丈夫。でも、危ないから暗い所には行かない方が良いよ。僕も一緒に行こうか?」

「いや、俺が付き添う」

というお兄ちゃんの言葉が聞こえた時だった。

「ご挨拶がおくれてすみません」と朔君の声が割って入ってきたのは。


弾かれたように声のした方へと顔を向ければ、穏やかに微笑んでいる朔君の姿があった。まるで制服でも纏っているかのように自然にスーツを着こなしている。

最初に出会った頃から幾分月日が経過している上に、朔君もトレーニングをしているから体つきと共に顔つきも変わり、大人びている気が……

パーティー会場には私達と年齢が近い子もいて、その子達は頬を染めて朔君を見ている。

今の朔君を元婚約者のお嬢様が見たらどう思うのだろうか?


――絶対、後悔しそう。


「みなさん、今日は来て下さってありがとうございます。もっと早く伺いたかったのですが……」

「いや、いいよ。忙しいのはわかっているから。招待してくれてありがとうな」

「料理、すごく美味しかったよ!」

あまりの料理のおいしさに食欲がまた暴走を始めかけたが、お兄ちゃんによって上手にコントロール出来た。

少しずつ痩せてきているとはいえ、まだダイエット中なので食べ過ぎは良くない。


「良かったです」

「なぁ。朔の両親にも挨拶したいんだけど」

「ありがとうございます。ですが、ちょっと……すみません……いま両親は兄に女性を紹介中でして……」

「家の関係で縁談?」

「いえ。父から紹介話があるけどどうするか? と尋ねられた兄が『俺には朔がいるから女性はいい!』と断ってしまったんです。ですから、両親が弟離れさせるために無理やり……その……兄がべったりだと僕が困るだろうからと父が」

朔君は顔を真っ赤にして、ちらちらと私の方へと視線を向けた。


――なんだろう?


「……ということは、もう身を綺麗にしたということだな?」

「はい! 両親にも僕の今の気持ちを伝え、あちらとも話がつき穏便に婚約破棄しました」

「そうか、ならいい。俺達は少しここにいるから、もし時間あるなら三葉を庭に案内してやってくれ。ちょっと外に出て風に当たりたいそうだ」

「えっ!? 人酔いしましたか?」

朔君は声のボリュームを上げ、私の様子を探る様に少し屈み込んで顔を覗き込んだ。

眉を下げ、不安そうに瞳を揺らしている。


「医務室に行きましょう」

「ううん。人酔いとかじゃなくて、暑くてさ。少し風にあたれば平気だと思うから行ってくるよ」

「では、お供します。一緒に行きましょう」

腕を伸ばして私の背に触れ、朔君は促してくれた。







「風が気持ちよいね」

足を進める度に肌に纏わりつく冷たい冷気を含んだ風が気分を和らげてくれ、体の熱を取ってくれていた。

会場入りした時にはほんのりオレンジ色が残っていた夜空も今は全て黒いヴェールで覆われ星々が煌めいている。

私が想像していたよりもホテルの庭は広く、日中なら色々な花が綺麗に咲き誇っていて見るのが楽しそうだ。

残念ながら今は通路を中心にして照明が設置されているのでライトが当たるのが一部分のみなので、全体を窺うことが出来ず。


私と朔君はおしゃべりをしながらすぐ傍にあった噴水前へと辿り着く。

噴水の縁に座って休めるかなぁ? と一瞬頭に過ぎったけど、自分が真新しいドレスだったことを思い出す。


「どうぞ」

朔君が縁にハンカチを敷いてくれた。

「いいよ、大丈夫! 朔君のハンカチ汚れちゃうし!」

絶対、ハンカチも高そうなので汚れたら大変だ。


「このまま座ってしまうと、三葉さんのドレスが汚れてしまいますので。とても似合っていて可愛いのですから勿体ないです」

「あ、ありがとう」

可愛いと言われ、なんか照れてしまう。

瑠伊君もだけど朔君もナチュラルに人を褒めてくれるのがすごい。

付き合いが長い分、瑠伊君の言い方は慣れているけど朔君のは慣れずに心臓がドキドキと忙しない。


――静まれ、心臓っ!!


時々、朔君に対して過剰に反応してしまう時がある。

例えばこの間。一緒に出掛けた時に満員電車だったんだけど、さりげなく周りから庇うようにフォローしてくれたんだけど距離間が近かったり。

お兄ちゃんも歩道側に私が歩かせないけど、朔君も似ている。気が付けば守られているのだ。


私は朔君に近づかれると妙にそわそわとしてしまうと同時に、どこか嬉しさも感じるようになっていった。


「あ、ありがとう。せっかくなのでお言葉に甘えるね」

どもりながらお礼をいいつつ私が腰を下ろせば、隣りに朔君が座った。


「寒くないですか?」

「うん、平気」

むしろ、朔君に可愛いと言われ、風に当たって落ち着いた暑さがぶり返し急速に血液が回り始めたせいか逆上せそうだ。


「三葉さん。駅前で僕がお話したいことがあると言ったのを覚えていますか?」

「うん。瑠伊君達と会った時だよね?」

「はい。父にも婚約を破棄したい旨を伝えて了承を得て、ちゃんと破棄されたんです。壱葉さんに言われた通り身が綺麗になりました。ですから、その……」

朔君はぎゅっと膝の上で両手を握り締めた。

張り詰め始めた空気によって、いきなり緊張感に包まれてしまった私は動揺が抑えられなくなりつつある。


――急にこの空気!? 朔君、何を……


「三葉さん。僕は――」

「ちょっと!!」

「「え」」

彼の言葉を遮るかのように、少女のドスの利いた声が朔君の言葉に覆いかぶさってしまう。

そのため、朔君が告げた言葉が途中から聞こえず。


――この声って……


弾かれたように顔を上げれば、想像していた通りの人物の姿があった。


「朔君の元・婚約者……」








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